第69話~闇魔道士の町~
北に3日。
ランヴォールの町で聞いた通りに進んできた。
そろそろ町が見えてきても・・・あれか?
なんか二つ町が並んでいるけど、
どちらが魔道士の町なのかな。
・・・悩んでも分らんし、
近い方に取り敢えず行ってみるか。
「ようこそ、闇魔道士の町へ。」
「闇魔道士?」
「はい。
闇魔法を極めようとする人が集まって出来た
町なんですよ。」
「闇魔法が使えないと駄目なのかい?」
「そんなことは無いですけど、光魔法が良い方は、
あっちの町の方が良いですよ。」
向こうも魔道士の町ではあったのね。
でもまあ、闇の方が好きだからこっちで良いか。
「こっちで良いです。」
「ちなみに闇魔法が使えるなら
入町料が無料になるけど?」
「使えます。」
「じゃあ見せて貰えるかい?」
「分かりました。
ソンブルマリオネット」
敵を操作することが出来る、闇魔法Ⅴの魔法だ。
「こ・これは闇魔法の最高レベルで
覚えられるというソンブルマリオネット!?」
「問題なく使えているでしょう?」
「どうぞお通り下さい。」
ちなみにコマネチのポーズをさせているから
間抜けな姿だね。
さて、町の雰囲気は・・・黒い服の人が多いけど
和やかで楽しそうだね。
あんまり闇のイメージがしないけど、
この世界では普通なのかな?
そういえばダージーの仲間のニルさんが
死霊魔道士だったけど、明るい雰囲気だったね。
何事も思い込みは良くな・・・って
明らかに1人だけ暗そうな人が歩いているね。
あの人には近づかない方が良さそうだ。
取り敢えずお腹も空いたから食事でも・・・
良い匂いがするな。
ここに入ってみるか。
明るい店内の真ん中に呪いの何かを作ってそうな
大きな壺があるぞ。
魔女・・・ではなく店員が掻き混ぜている。
店を間違えたかな?
「いらっしゃいませ!」
「ここは食事をする所ですよね?」
「はい!」
元気で笑顔が良い女性店員だ。
「あの壺は・・・」
「お目が高い!
あれは店のオリジナルミコーニで、
一番人気の絶品ですよ!」
確かに回りのテーブルを見ると、
あの壺の中身と同じものが皿に並べられているね。
見た感じはビーフシチューみたいだけど・・・。
「じゃあ、それとリートを大盛りで。
それから食後にブートティーを下さい。」
「畏まりました!
お席に案内します!」
壺の所にいる店員を良く見たら、
とても良い笑顔で調理している。
やっぱり見掛けで判断したら駄目だね。
「食前酒です!」
「食前酒・・・?」
小さいシャンパングラスの様なものに
黒い液体が注がれており、
ボコボコと気泡が上がり、
更に気泡から出てきた煙がグラスを縁取る。
飲んだら闇落ちしそうな感じだ。
店員は相変わらず素晴らしい笑顔。
炭酸が苦手なのを理由に断るか?
いや、でも・・・郷に入れば郷に従えだ。
きっと美味しいはず!
「・・・美味しい。」
「良かったです!」
かなり美味しいぞ。
見た目が違いすぎるが、ベリーニに似ているかな?
でも前に食べた桃・・・ピーモは
黒じゃなかったけど、品種違いの何かなのかも
知れないね。
「当店特製のオリジナルミコーニと
大盛りのリートです!」
さっきと違って見た目は普通だね。
味は・・・ビーフシチューみたいで美味しいね。
何の肉なのかは分からないけど。
スプーンで切れるくらい柔らかく煮込んであって、
特製と云うだけの事はあるね。
と、食べながらも周りの話を聞いて情報収集は
忘れては行けない。
さすがに極職の情報はないけど、
それはあとで冒険者の館にでも行って聞くとして、
今気になるのは隣の光魔道士の村だね。
小競り合いが頻繁にあって
今日もあったみたいだ。
光魔法の方が有利。
いや、闇魔法では光魔法には勝てないみたいだね。
人数差でなんとか互角にしているけど、
闇魔道士がどんどん減ってしまって、
今攻められたら不味いのね。
面倒な事になる前に情報収集が終わったら
さっさと町を出た方が良さそうだ。
「ごちそうさまでした。」
「870ユランです。」
さて、お次は冒険者の館だね。
情報を得るのに一番都合の良いのが
冒険者の館にある酒場のカウンターにいる店主だ。
漫画で良くある店主が陰湿で飲まねぇガキは消えろ
みたいな事もなく、落ち着いて情報収集が出来る。
人間が出来た店主とはいえ、所詮は人間。
「いらっしゃい。
何飲みます?」
「極甘のお酒で。」
「どのくらいので?」
「最高のを飲みたい気分だね。」
「畏まりました。」
高い値段の方が思い出す情報も増えるってね。
「どうぞ。」
良い匂いだ。
味は・・・極甘だ。
ただ甘いだけではない。
甘さが幾層も重なる複雑な甘味。
まるでハンガリー産の貴腐ワイン・
パトリシウスの様だ。
「美味しいですね。」
「ありがとうございます。
それで、どんな情報が欲しいんです?」
言わずして察する。
流石だね。
「ある職業について教えて欲し」
「相変わらず陰湿な場所ですねぇ。」
・・・そのセリフといい、喋り方と言い、
また面倒な事になりそうだよ。




