第57話~奴隷の食事~
「そろそろ食事にしようか。
どんな食料があるか知っておきたいから
食料を見せて貰えるかい?」
「あたし達の食料はこれだよ。」
「・・・これだけ?」
「後は水だけだね。」
・・・彼女達は奴隷だ。
あまり良い食事ではないと思っていたけど、
まさか乾パンと氷砂糖だけとは・・・。
「1つ食べても良いかい?」
「良いよ。」
・・・固い、不味い、乾く。
口の中の水分がどんどん奪われて行くぞ。
水、水が欲しい。
「今、水を出すよ。」
そう言って大きな樽をアイテムボックスから
取り出し、木製のコップに水を注いでくれた。
「ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ、プハー!!」
く・苦しかった・・・。
何とか一息付けたよ。
「コウイチさんは、
クストを食べるのが初めてなんですね。」
「そうですね。」
「クストは口の中に入れて、唾液を含めながら
ゆっくり食べるものです。」
「なるほど。」
口に含めて唾液が出てきたところで少しずつ・・・
奥の方に旨味成分を感じるね。
それで更に唾液を出して食べていくのね。
でもまだちょっと辛いな。
「慣れていない方は固形サトーを口に含めると
食べやすいですよ。」
氷砂糖みたいなこれね。
確かに唾液が良く出て食べやすくなったね。
「クストは1回の食事で何個くらい
食べるのかな?」
「30個位ですね。」
これを30個か。
慣れるまではかなり厳しそうだね。
これで20日間も・・・?
俺には無理だ。
「コウイチも食料を持っているんでしょう?
何があるんだい?」
「俺は保存食として干し肉と薫製肉とキミ類と
ソンナー。
他にはリートと生肉があるから
暖かい食事も食べれるよ。」
キミ類はナッツ、ソンナーはソーセージ、
リートは米だ。
ご飯党の俺には米は必需品だしね。
「それは羨ましいね。」
「独り占めしたりはしないさ。
みんなで分けあって食べよう。」
「本当!?お兄ちゃん!!」
「本当だよ。」
女性3人を無視して1人で食べる程鬼畜には
なってないしね。
「そうだ果物も合ったな。」
「果物?」
「うん。
店で見掛けて美味しそうだったから
買っといたんだ。」
「どんな果物ですか?」
「え~と、確かピーモだったかな。」
ピーモは桃みたいな果物で、
匂いが桃そのものだったから思わず
買っちゃったんだよね。
「ピーモ!!」
「エスラお姉ちゃん、落ち着いて!!」
「コウイチ!
このままじゃ、お姉が暴走しちゃう!!
お願いだからピーモを1つを与えて上げて!!」
お淑やかな印象は何処に行ったんでしょう?
目が血走って、涎を垂らし、
まるで野性動物ですが。
「どうどう。」
「ガルルルル・・・。」
「エスラお姉ちゃん正気に戻ってよ・・・。」
ラーヴェさんとレイさんが必死に押さえている。
危険動物の間違えだね。
取り敢えず、ピーモを1つ取り出して・・・。
「グァァァァ!!」
「うわっ!?」
野生と化したエスラさんが
凄い勢いで俺に飛び掛かりピーモを奪い取った。
ちなみにテント内はそこそこ広いので
立ち上がることも、飛び掛かることも出来る。
「うん、美味しい♪」
満面の笑みを浮かべて美味しそうに食べている。
食べ方も野生的かと思ったら違うのね。
・・・あまり見たい光景じゃないから
良かったけど。
「・・・ピーモって中毒性があるのかい?」
「ないよ。
あんな事になるのは、お姉だけだよ。」
「そうか・・・。
取り敢えずみんなの分もあるからね。
どうぞ。」
「ありがとう、お兄ちゃん。」
「あぁ~美味しいわ~♪」
エスラさんはとても幸せそうだ。
「コウイチはこの洞窟に良く来るのかい?」
「いや、今日で2回目だよ。」
「1回目は何処まで行ったんだい?」
「今よりずっと手前だと思うけど、
良く分からないかな。」
「原因、突き止められるかな・・・。」
「お兄ちゃんがいれば大丈夫だよ!!」
「せめてどのくらい進んだか分かれば
良いんだけどね。」
「探索者の職業だった人は、
もう殺されてしまったから・・・。」
「探索者?」
「探索術Ⅰの地図作成で洞窟の状況が分かるから。」
「洞窟でも有効なの?」
「当たり前でしょう?」
ということは・・・
「探索術Ⅰ・地図作成。
本当だ。
見れたんだね。」
「お兄ちゃん、探索者の職業まで就いてたの?」
「なのに何で洞窟でも地図作成が有効なのを
知らないの?」
・・・確かに間抜けな話だよ。
説明書に書いといてくれれば良いのに。
「まあ、取り敢えずこれで今の位置が分かったよ。
入口から1kmって所だね。」
「まだ1kmしか来てないんだ・・・。」
「魔物がかなり多いからね。
むしろ1kmも進んでいた方が凄いかも。」
「でも1kmも進んだ人なんていないと思うよ!」
「戻って来れなかっただけよ。」
対照的な姉妹だね。
長女は・・・
「あぁ~美味しいわ~♪」
こんなだし。
先が思いやられるけど、進むしかないからね。
「食べ終わったら先に進むよ。」
「・・・分かったわ。」
「うん!お兄ちゃんに任せる!!」
1時間掛けてゆっくり食べた。
こんなにゆっくり食事をしたのは
初めてかも知れないな。
残念なのは強制的にゆっくり食べる事になった
という点だけど。
・・・俺の食料が尽きる前に原因を突き止める様、
頑張ることにしよう。
食べ終わった後は、
代わり映えの無いゴブリンとの戦闘だ。
もう大分慣れたから心なしか余裕が出ている。
それでも大量なのは代わり無いから、
油断禁物だけどね。
「コウイチさん!!」
彼女達に何かあったのか?
何もないみたいだけど。
「奥にオークが!!」
オーク?
豚面のあれか。
予想はしていたけど、奥に進めば進む程、
魔物が強くなるんだね。
とは言え、あの程度なら。
「スラッシュ!!」
楽勝だけどね。
問題は彼女達だけど、ステータス的に倒せなくは
なさそうだね。
念のため複数で襲ってきた時はカバーしつつ、
先に進むとするか。




