第41話~魔法少女~
「すまないね、水浴びの邪魔をしてしまって。」
ダンディーな男がすまなそうに謝っている。
「いえ、人が来る可能性を考えずに
水浴びしていた俺も悪いので。」
「ここは野宿スポットだぞ。
知らなかったのか?」
イケメンが驚いた様に言った。
野宿スポットだったのね。
まあ、綺麗な水が確保できる場所なんて、
普通に考えれば当たり前だよね。
「君は1人なの?
こんな場所に1人なんて危ないよ?」
少女に心配されてしまった。
少女がこんな所にいる方が危ない気もするけど。
「ちょっと迷子になってね。
もう森から出るつもりだよ。」
「おいおい、コンパスもないのか?」
「あるにはあるけど、使い物にならなくてね。
ほら。」
「このコンパスでは駄目だな。
この森専用のコンパスを用意しないと。」
と、そのコンパスを見せてくれた。
なるほど。
確かに正常に動いている。
「送ってやっても良いのだが・・・」
「明日は中級魔宮を制覇する予定だぜ。
送って行く暇なんてないだろう?」
「あぁ、だから中級魔宮制覇後なら送れるのだが
良いかな?」
「いや、そこまでして貰う訳には・・・。」
「お荷物が1つ増えた所で、
俺らのチームなら問題ないさ。」
「そうそう!私が入れば大丈夫!!」
「という訳だ。」
1人で大丈夫なんだけどね。
「じゃあ、自己紹介しよう!
私は『最強ドジっ子』のサクラだよ。」
「私は『幼女誘拐犯』のエヒガンだ。」
「俺は『ロリっ子同盟』のシダレだぜ。」
「・・・。」
「念のために答えておくが、犯罪職でも無ければ、
幼女を誘拐した訳ではないからな?」
「エヒちゃんは私が4歳の頃から一緒だったから
そんな二つ名が付いちゃったんだよ。」
「なるほど。
その後に仲間になったから」
「シダちゃんの二つ名がそうなったんだ。」
「それで、お前は?」
「『全人類を敵に回した男』の耕一だ。」
「・・・。」
「・・・。」
「・・・。」
「念のために答えておきますが、
犯罪職ではありませんからね?」
「じゃあ、何故そんな二つ名に?」
「『孤高の美女』って二つ名を持った女性と
仲良くなってしまってね。」
「・・・それは災難だったな。」
「美女と仲良くなったんなら、
幸運だったじゃないか?」
この二つ名を名乗る風習は無くした方が
良いんじゃなかろうか。
ろくな二つ名が無いし。
「とりあえず、コウちゃん!
よろしくね!!」
「あぁ、よろしく。」
「じゃあ、私は日課の特訓をしてくるよ!」
「行ってらっしゃい。」
「あんまり遠くに行くなよ。」
「はーい!」
そう言って森の方に走って行った。
特訓?
魔法の練習でもするのかな?
不思議そうな顔をしていたのか、
エヒガンさんが答えてくれた。
「特殊な能力でね。
今まで1度も成功した事が無いんだ。」
「そんな能力があるんだ。」
「サクラだけしか使えない能力だからな。
他の誰でも不可能だ。」
どんな能力だ?
ちょっと見てみるか。
「魔法少女!魔法少女!!」
魔法少女?
不思議な名前の能力だね。
どれどれ・・・なるほど。
転生者だったのね。
魔法少女はランダム能力なのか。
その身に女神を降臨させ、力とする能力ね。
孔雀眼で見ても発動条件が分からないから
余程特殊なのか、盲点があるのかって所かな?
「案外何も知らないコウイチのアドバイスが
決め手だったりするかも知れんからな。
何か思い付いたら教えて上げてくれないか?」
「そうだね・・・呪文を言うとか?」
「呪文?魔法少女って言っているぜ?」
「説明するのはちょっと難しいが・・・。」
「試しにやらせてみるか。
サクラに教えてやってくれ。」
「あんまり期待しないで下さいね。」
「端から宛にしてないから安心しろ。」
とは言え、なんて説明すれば良いのやら。
「あれ?どうしたの、コウちゃん?」
「アドバイスをしにね。」
「エヒちゃんから言われたの?」
「そうだね。
試しに呪文を言ってみるとかって
提案したんだけど・・・。」
「呪文?」
「何て言えば良いかな。
例えば
『ムーン プリズムパワー メイクアップ』
とかね。」
「え!?」
「意味が分からないだろうけど、」
「なんでコウちゃんがその台詞を知ってるの!?」
「何でって・・・え?」
まさかサクラさんも知っている!?
「その台詞は地球に住んだ事がある人しか
知らない台詞だよ!
まさかコウちゃんも転生者の上、地球出身!?」
ぐはっ。
まさかこんな所からばれるとは。
というか元地球人!?
「私以外の地球人がいるなんて思わなかったよ。」
「俺もビックリだ。
広い宇宙から地球人が選ばれていたなんてね。」
「2人も選ばれるなんて、すっごい偶然だね!」
俺は特殊だけどね。
「でもそうなると台詞ってアドバイスは
良いかも知れないよ。
魔法少女ってみんな呪文を唱えたり、
変身前に台詞を言ってるもん。」
「そうだね。」
「なんで気が付かなかったんだろう?」
「盲点だったかもね。」
「じゃあ、早速試してみる!」
サクラさんは目を閉じて考え、
目を開くと同時に呪文を言った。
「マハリクマハリタ!!」
しかし何も起きない。
「テクマクマヤコン!テクマクマヤコン!」
やはり何も起きない。
「テクニク・テクニカ・シャランラー!」
これも駄目。
「ミュウミュウサクラ メタモルフォーゼ!」
いきなり時代が飛んだね。
「駄目だったよ・・・。」
「残念だね。」
「でも他にも思い付いたら何でも教えてね。」
「分かったよ。
しかし最初の台詞にマハリクマハリタが
出てくる所を見ると、実年齢は相当う・・・」
突然激しい轟音が左耳に響いた。
目線を向けると杖が木に刺さっている様だ。
「今、何か言ったかな・・・?」
そこにいるのは幼い少女ではなく、
鬼神と化した何かだった。
下手な事を言ったら確実に殺される。
「な・なんでもありません。」
「なら良いんだ♪
でも・・・」
少女がゆっくりと近付き、杖を抜いた。
「次はないわよ?」
少女の可愛らしい笑顔とは裏腹に
恐ろしい程の殺気だ。
もう2度と女性の歳は考えない事を
倒された木を見ながら心に誓った。




