第二話 不安の共鳴
第一話から一ヶ月弱が経ちました。ぜひ、第二話を読んでください。熱中しすぎて今回は長めです。笑
幸せなあなた
第二話 不安の共鳴
あれから結構な時間が経った気がする。電車には弱冷房がかかり、大学の講義の教室にも冷房がかかっている。その冷房も管理室で一括に調整されているのか夏に設定するような冷たい風が吹いている。いつも寒いと思いながら上着を膝掛けにしながら講義を受けていた。といっても経った時間は一ヶ月くらいだ。大学の講義がない日はスーツを来て大阪まで就職活動をしているせいか、この一ヶ月が長く感じていた。大阪の高いビルやありの大群のような人の多さに京都育ちの私は錆びた鉄色のような疲れを感じていた。大阪までの就職活動は電車を使う。往復なので二倍になった交通費が私の財布を食べる。東京に行っている友達が沢山いた。私は東京に行って仕事を探す人は尊敬する。それだけ、やりたい仕事、夢というものがあるのだからお金を投資するのだと思う。やりたいことがある時点で勝ち組だろうと思った。それに向かって努力を尽くせばいいのだから。何に向かえばいいかわからない自分にとっては眩しい存在だった。
初めての選考は京都のホテルの集団面接だった。ホテル業界の企業なので笑顔が大切だ。さらに京都の観光を促進して2020年の東京オリンピックに向けてどのような投資をし、サービスをしていくかを研究しなくてはならないという考えをしっかり準備を望んだ。質問されたことにハキハキと笑顔で答えた。学生時代に最も取り組んだことや他の学生の受け答えにも頷き、関心がある就活生に見えるようにした。他の就活生より大きな声で答え、自分の意見の根拠を示しながら答えた。
選考結果を待つことにモヤモヤしてしまう。面接の記憶を掘り起こして頭の中で何度も自己採点する。しかし、結果が来ないと答え合わせができない。就活アプリからの結果は一次選考お見送りだった。簡単に選考落ちの知らせがくる。気分が落ち込むというか暗い灰色のようなものが心の底から出てきた。なぜ選考を落とされたかのか、私にはわからない。理由が知れないことがただ気持ち悪かった。結果に理解はしたが、いつまで経っても受け入れられない自分に腹が立った。
ある程度、就職活動を経験した学生は集まって情報共有をする。個人の情報や経験よりも他者の情報や経験を取り入れることは効率的な手段だからだ。文殊の知恵というやつだ。私はすぐに友達を誘い、飲み会を開いた。飲み会では三人が集まった。本来なら五人なのだが、明日が面接だから準備がしたいやESを書くから時間がなくなったという理由で二人が来れなくなってしまった。事前にできる準備をせずに、前日になって慌てる様と就職活動の情報や経験を共有する重要性を捨てた行動に私は残念な気分になっていた。メンバーはコーヒーメーカーの企業を第一希望とする水川、マスメディア系を目指している平嶋の二人が集まった。
ビールを三つ頼み乾杯してから久々に会った友達と近況の報告から始まった。選考が進み具合やどんな業界で就活しているのかを話し合った。業界によって選考がまったく異なることが知れた。私が就活している選考は集団面接やGDから始まり最終選考で個別面接だった。他業界は個別面接がほとんだったり、ポートフォリオを提出するなど自分が全然知らなかった選考があった。就活の近況報告が終わった。そこからの発展した話はなかった。なぜなら、みんな選考途中だったからだ。努力の過程を誇りに思っても何もならないのは水川も平嶋もよく知っている。結果があってこそ努力の過程が評価されるからだ。
次に始まったのは愚痴大会だ。面接の愚痴だ。変な質問をされたとかしっかり答えたのに選考を落とされたこと、理由が知りたいといった話。私もホテル面接の選考を落とされた話をして胡散払いをした。三人の就活に対しての共感があったので話をしていて気持ちよかった。ある程度の愚痴を吐きあった三人は次にそのテーブルにいない人の悪口を言い出した。
「おれの友達がさ、料理のアプリの会社立ち上げるとか言ってるんだけどどう思う?」
平嶋が友達の悪口を言う。聞いてもいい気分にはならないがこういう場でストレスを吐き出さないとやっていけないのだろう。平嶋はSNSをやっているが就活関連の発信は見たことがない。平嶋はSNSで就活の弱音を吐く人たちとは違うと思っていたせいか、単純に意外だった。おそらく、自分でストレスを我慢する限界がきたのだろう。全世界に向けて弱音を吐く連中と違って、平嶋のストレスが解消できる機会になればこの場を設けた回があったと思えたから私は少し嬉しかった。
"起業"
料理アプリなんてたくさんあるし、市場はもう埋まっている。そんな中で会社を立ち上げるなんて無茶な話だと意見した。そして、人のアイデアを真似して会社を立ち上げるなんて卑怯な上に成長も望めない。だれもそんなやつに投資なんてしないと非難した。すると場の雰囲気は静まり返っていた。
いままで私は夢を語る人を馬鹿呼ばわりしてきた。アニメクリエイターになりたいという人にはそんなのできるわけがないでしょといった、作曲で食っていくという人にはバンドで食っている人はごくわずかでそんな狭い門行くなんてリスク大きいよねと揶揄を吐いてきた。どうせ高い壁と冷たい現実にぶち当たって諦めるだろう。
” 馬鹿だなぁ(笑)“
と心の中で思って夢語りを聞いていた。現実的なことが考えられる自分の方が賢く、将来は成功すると考えていた。急に水川がこの自由でも不自由でもない雰囲気に口を開けた。
「おれ将来は自分のコーヒーショップを開きたいんだよね」
コーヒーメーカーでの経験を生かして最終的には自分のコーヒーショップを開きたいらしい。自分と平嶋は唖然とした。私はいつも通りに心の底で馬鹿にしなかった。いや、できなかった。水川の真剣な声、姿勢、瞳に自分は何も否定できなかった。心理学では目標を達成するにはその先を設定しないと到達できないという考え方がある。例えば、ダイエットをするという目標だったとしよう。ダイエットをすることが到達地点なのでその人はダイエットができる体型でなければならない。つまり、太っていなければダイエットできない。なので、ずっと太った体型でなければならない。そういう考え方だ。ダイエットをして今まで履けなかったジーンズを履くことなどがその先の設定だ。就職をするという目標を持っている私にはその先はない。水川のようなその先の夢を持っていない。21歳の就活生になってからは夢を語る人たちが自分よりも遠くにいる存在で美しいものだと思った。
今の私は美しいと言えるだろうか。
きっと、私は美しくないだろう。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
ヨシカワブルーより
-------------------------------------------------------------------
この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
----------------------------------------
次回の彼の心境の変化にご注目ください。読んでいただきありがとうございます。