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やってきた穂生。
その横には見かけない大男がいた。
「やあ、待たせたね」
「そいつは?」
「彼はジャック・グノー。歳は十六だそうだ」
ジャック・グノー。
おかしな名前だと思った。ジャックなんて苗字もグノーなんて名前も聞いたことがない。
というと、俺たちとは違って名前が先になっているということを穂生が説明してくれた。
つまり、名前がジャックで苗字がグノーということだ。
ますます妙な男だ。
歳は十六と言っていた。
たしかステータス画面でも年齢は確認できたような。
俺の歳も十六とあったはずだ。
つまりこの男は俺と同い年ということになる。
にしては体格差がありすぎる。
本当にこれで同い年かと言いたくなるほどに。
しかしそんな体格とは裏腹に落ち着きのない、そわそわとした様子だった。
「穂生……。話があるって言うからついてきたのに……。この人は誰……?」
「こいつは星太。この世界に来て俺が初めて声をかけたやつだ」
ジャックは穂生の後ろに隠れている。
しかし体格差がありすぎるせいで全く隠れきれていない。
どうやらこの男、見るだけで恐れおののくような肉体をしていながら、中身は飛んだ小心者のようだ。
「二人にはお願いがあるんだ。僕についてきてほしい。一緒にここを離れよう」
穂生もこの場所を出ていくつもりらしい。
やはり外の世界がどうなっているかわからない以上仲間がほしいのだろう。
すると穂生はこうも言った。
「気づいてるとは思うが、すでにかなりの人数がこの場を離れている。その発端となったのが昨日の昼頃のある男の発言だった。偶然僕もそこに居合わせていてね」
昨日の昼、つまり星太たちがこの世界に来てしばらくしてからである。
一人の男が崩れた外壁らしき場所から外を眺めていたのだ。
この場所はかなり広い草原に囲まれ、遥か遠方に巨大な森が見えたという。
さらにそのまま外を眺めていると人影らしきものが灯りを持って草原を移動していたらしい。
それも三人ほど見えたのだ。
いつまでもこの場所にいられないことに気づき始めていた矢先の出来事だった。
それを聞いた他の者たちは、外には他にも人間が存在していることを知りこの地を離れていったのだ。
その中には複数人でグループを作るものが多く、穂生もここを出ていくために特に信頼の置けそうな二人を選んだらしい。
穂生が信頼できる人間かと言われれば疑問なのだが。
言ってしまえば昨日今日知りあったばかりの人間を信頼しろという方が無理な話である。
しかし信頼は無理にしてもそこらの人間よりは頼りになるやつだということはわかっている。
俺は穂生の仲間となりこの場所を旅立つ決意をした。
ジャックもまた、外の世界に不安を感じながらも穂生に一目置いているようで、迷うことなく穂生についていくことを決めた。
「ありがとう二人とも。それじゃあ何か準備があるなら待つけど……」
「お、俺は……何もない……」
「俺もだ。だいたいここには石と苔しかねえからな。準備できるものなんてそもそもねえよ」
二人がいつでも行ける旨を伝えると、穂生はすぐに出発した。
方角は東の方。
昨日の男が人影を見つけたと言っていた方角だ。
外壁の外は辺り一帯草の海のようだ。
それも背丈が思った以上に高く首あたりまである。ジャックは胸のあたりまでしかなく彼を見失うことはまずないだろう。
「おい、なんか、あそこ動いてねえか?」
ふと見ていた草の水平線から、頭のようなものが少しだけ飛び出していた。