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7.謎の追跡者


 翌朝。

 家を出た私は、学校へ行くために駅へと向かった。道順は覚えているのでもう迷う心配はない。

 途中で妙な気配を感じ取り、足を止め、振り返ってみる。


「……?」


 会社員や学生などが歩いているが、特に怪しい動きをしている者はいない。今のは気のせいか?

 しばらく歩き、気のせいではない事を悟る。間違いない、誰かに見られている。

 どうやら何者かが私を尾行しているようだ。よほど上手くカモフラージュしているのか、通行人のどれが尾行者なのかは分からないが。

 この私に正体をつかませないとは大したものだが……これは一体、どういう事だ?

 なぜ、私を付け回す? 中身はさておき、今の私はごく普通の高校生でしかないというのに。

 まさか、私の正体に勘付いた者がいるのか?

 いやいや、そんなはずは……だが、他に理由は思い当たらない。


 この世界には魔族がいないと思っていたが、それはもしかすると最初から存在していないのではなく、魔族を狩るシステムが構築されているからなのかもしれない。

 街のあちこちに魔力を感知するセンサー類があって、魔族を発見次第、捕獲、あるいは殲滅する。

 それらは人知れず密かに行われ、一般人は魔族の存在すら知らないまま生涯を終える……とか。

 な、なんという恐ろしい世界なのだ……草食動物しかいない楽園かと思いきや、ここは魔族にとっての地獄だったのか?

 もしもそんな状況なのだとしたら、世界を支配するどころではないぞ。すぐさま地下に潜って、対魔族用のシステムを破壊するための行動を起こさなければ……。


「平賀君、おはよう!」

「むおっ!? な、なんだ、野々宮さんか……」


 いきなり声を掛けられ、刺客が仕掛けてきたかと思ったが、それは野々宮さんだった。

 危うく反射的に攻撃してしまうところだったぞ……驚かさないでくれ。


「むおっ、って……どうかしたの、平賀君。まるで殺し屋に狙われてるみたいな顔して」

「は、ははは、何を言ってるんだい、野々宮さん。僕みたいな何の変哲もない人畜無害な少年を狙うやつなんているはずないじゃないか」

「すごい汗だよ。まだ調子悪いの?」

「ま、まあ、そうかな。あははは……」


 冷や汗と一緒に別の物まで垂れ流してしまいそうになったが、どうにか耐えてみせた。

 ……まだ背後から視線を感じるな。何者かは知らないが、早くまいてしまおう。


「急ごう、野々宮さん。遅刻してしまう」

「えっ? まだそんな時間じゃ……きゃっ」


 野々宮さんの手を取り、足早に移動する。

 駄目だ、この程度のスピードでは尾行者を振り切れない。こうなったら……。


「ど、どうしたの? 何か急ぎの用事でも……」

「すまない、野々宮さん。ちょっと失礼するよ」

「えっ?」


 戸惑う野々宮さんを引き寄せ、腰に腕を回し、ヒョイ、と抱え上げる。

 彼女を小脇に抱え、私は全力疾走した。無論、人間が出せるであろうスピードの範囲に留めてだが。


「ちょ、やだ、下ろして! きゃああああ!」


 街中を走り抜け、通行人の間を縫うようにして進み、駅までの道のりを走破する。

 駅に到着し、構内に入った所で物陰に身を潜め、外の様子をうかがう。

 どうやら追ってきてはいないようだな。あまりしつこいようなら通行人もろとも吹き飛ばしてやろうかと思ったが。

 額の汗を拭い、大きく息を吐く。野々宮さんは胸元を押さえ、真っ赤な顔で俯いていた。


「い、一体、どうしたの? きゅ、急にあんな……」

「すまない。どうも誰かに付けられているような気がして。もう大丈夫だよ」

「わ、私を担いで走るなんて、意外と力あるのね……今のも潜在能力ってやつ?」


 潜在能力? ああ、そういう事にしてあったんだった。すっかり忘れていたが。


「いや、野々宮さんはすごく軽かったから運ぶのは楽だったよ」

「そ、そう? ならいいんだけど」


 野々宮さんは照れたように笑い、機嫌よさそうにしていた。

 軽いと言ったのがよかったらしい。骸骨兵士スケルトンより超軽いとでも言ってみようか。

 ……なぜか殴られてしまうような気がするな。やめておこう。

 ひとまず、尾行者は振り切れたようでほっとしたが……相手の目的や素性が分からないうちは安心できないぞ。

 対魔族組織的な何かだとしたら、早めに組織の全貌をつかみ、潰さなければ。

 相手が何者であろうと大人しく倒されてやる私ではないぞ。その事を思い知らせてくれよう。



 学校にたどり着き、昇降口に入ったところで、赤毛の赤井さんを見掛けた。

 彼女は体調でも悪いのか、顔色が優れず、どこかグッタリしていた。


「赤井さん、おはよう。顔色が悪いようだが、二日酔いかい?」

「酒なんか飲まねえっての。……そんなにひどい顔してる?」

「ああ。せっかくの美人が台無しだね」

「美人とか言うな馬鹿。はあ、参ったな……」


 赤井さんは青い顔でうなだれ、本当に気分が悪そうだった。

 背中をさすってやろうとすると、手を払われてしまった。

 事情を訊くと、赤井さんはボソボソと呟いた。


「うちの姉貴がさ、リラックスできるハーブエキス入りの香水とかいうのを買ってきて、家の中にまき散らしたんだ」

「ハーブ?」

「それがとんでもない匂いでさ……ちょっと吸い込んだだけで頭がクラクラして、一晩経っても治らないの。あんなもんでリラックスできるわけないよ……」


 そう言えば、昨日、テレビでやっていた。ハーブとかサプリとかアロマセラピーとか、人間の間では妙な物が流行しているようだな。

 中には非常に危険な物を身体にいいと偽って販売している業者もいるらしい。どこの世界にも詐欺師はいるものだ。

 小銭稼ぎの詐欺など小物のクズがやる事だ。私がやるべき仕事ではないな。


 赤井さんに肩でも貸してあげて教室まで連れて行ってやろうとしたのだが、「誤解されるからよせ」と断られてしまった。

 つれないな。私と親しいと思われたくないのか。せっかく部下にしてあげようと思ったのに。

 フラフラした足取りで去っていく赤井さんを見送っていると、そこで野々宮さんがクスッと笑って言う。


「赤井さんてば、女の子みたいにかわいい平賀君に女の子扱いされて照れてるんじゃない?」

「……」

「あっ、ご、ごめんね。気にしてるんだっけ」


 それほど気にしてはいないが、もう少し精悍な顔付きに生まれ変わりたかったな。

 まあ、この気弱そうな顔なら大概の人間は油断するだろうし、都合のいい面もありそうだが。


「ふっ、この外見を利用して手当たり次第に女の子をたぶらかしてやろうか。なんて……」

「そんなのだめ」

「えっ? いや、今のは冗談で……」

「冗談でもだめ」

「あっ、うん。そ、そうだね……」


 なんだろう。野々宮さんが怖いぞ……こういう冗談は嫌いなのか?

 難しいな、人間のジョークというものは。少し勉強してみるか。


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