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4.能力を試してみる

 さて、教室での一件から数時間後。

 ドゴォーーーーーーン! と。

 すさまじい爆発音が轟き、校舎全体が揺れた。

 鳴り響く非常ベル、噴水するスプリンクラー、校舎の一角からモクモクと黒煙が上がり、校内は大騒ぎとなった。

 誰かが火事だと叫び、生徒達もこれはただ事ではないと悟ったのか、ゾロゾロと避難を始めた。

 そんな中、空き教室を爆破した犯人は、人気のない場所に身を潜め、騒ぎが治まるのを待っていた。

 ――いやまあ、その犯人というのは私なのだが。


 一応、弁明させてもらうと、こんなはずではなかった。

 騒ぎを起こす気などまったくなく、むしろ目立たないように事を済ませる予定だったのだが……。

 休み時間、教室を出た私は校舎内を歩き回り、誰も使っていない空き教室を発見した。

 空き教室に忍び込み、人気がないのを十分に確認した上で、能力のテストを行った。

 まずは軽く、基本能力を使ってみようと思い、なるべく古くて壊してもよさそうな机を選び、手をかざして意識を集中、能力を発動させてみた。

 結果は前述の通り。机をちょっと焦がすぐらいのつもりだったのに、予期せぬ威力が炸裂してしまい大爆発。

 言うまでもなく、私は即座に現場から逃走した。今はこうして校舎の屋上に潜伏中というわけだ。


 うーん……どうも、久しぶりで加減が分からなかったようだ。これは練習が必要だな。

 それなりの威力が発揮できるのが分かったのは収穫だったが、あれでは駄目だ。自在に威力の強弱が制御できるようにならなければ使い物にならない。

 もう分かったと思うが、私の基本能力は爆発系の魔法攻撃だ。魔力を火薬代わりに使用し、あらゆる物を爆破する事ができる。

 以前の私なら、小石程度の小さな物のみを爆破させたり、山を丸ごと一つ消滅させる規模の爆発を起こす事も可能だった。

 魔力をぶつけて爆破するのは『直爆ストレート』。最も基本的な能力だ。射程距離は短いが使い勝手がよく、大概の敵はこれで処理できる。

 うるさいやつの頭を吹き飛ばしたり、使えない部下の頭を吹き飛ばしたりするのによく使ったものだ。

 無論、私の能力はこれだけではない。伊達に『爆』の魔騎士と呼ばれていたわけではないのだ。


 屋上から外の様子をうかがってみると、生徒達は校舎から避難し、グラウンドに集まりつつあった。

 私がいない事が分かれば犯人だと思われるかもしれない。仕方ない、向こうに合流するか。

 校舎の裏手側に回り込み、人目がないのを確認し、配水管を伝って屋上から降りる。

 地面にスタッと着地し、物陰に隠れながら移動する。途中で校舎から出てくる生徒の列にまぎれ、グラウンドへ向かう。

 同じクラスの人間が集まっているのを発見し、何食わぬ顔でまぎれ込む。

 野々宮さんが私の姿に気付き、声を掛けてきた。


「あっ、いたいた。もう、どこに行ってたの? いないから心配したよ」

「あー、うん。ちょっと用を足しに……」

「トイレね。それなら仕方ないけど……記憶がないのに一人でウロウロしちゃだめだよ」

「そうだね。気を付けるよ」


 私が答えると、野々宮さんは少し驚いたような顔をしていた。


「あっ、話し方が戻ってるじゃない。ひょっとして記憶が戻ったの?」

「少しね。まだよく思い出せないんだけど」


 実はそうなのだ。空き教室で自分が起こした爆発によって吹き飛ばされた際、全身がバラバラになるぐらいの強い衝撃を受けたのだが……そのショックで、薄れていた人間としての記憶が少し戻ったのだ。

 完全に、とはいかないが、おぼろげながらこれまでの人生について思い出す事ができた。人間としての自分がどんな感じだったのかも。

 まず、一人称は「私」ではなく「僕」だったようだ。話し方も少年ぽいというか、少し子供っぽい感じか。

 人間としての私は極めて真面目で、大人しい性格。これはまあ、昔の私と同じだな。私は真面目な悪党だったから。

 成績は普通で、よくも悪くもない。頭脳明晰を自負し、策略や陰謀が得意だった私としては不愉快だな。今後は挽回してみせよう。

 運動能力はあまり高くなかったようだ。この貧弱な肉体では無理もないか。

 どちらかと言えば人見知りをする方で、友人は少なく、高校に進学してからはまだ親しい友人はできていない。

 昔の私は友人など皆無だったので、当然か。同僚や部下しかいなかったからな。


 野々宮小晴さんとは小学校時代に知り合ったようだ。彼女は明るく快活な少女で、幼い頃から女子のリーダー格だった。

 大人しくてぼうっとしている私を放っておけず、よくフォローしてくれていたらしい。ぼんやりとだが、彼女に庇ってもらっていた記憶がある。

 なるほど。それで高校生となった今も、彼女に面倒を見てもらっているのか。

 我ながら少し情けないが……まあ、全ては過去の事だ。今後は私が彼女をフォローしてあげればいいだろう。


「でも、なんだろ。誰もいない教室で火事なんて……何かが爆発したみたいな音がしたけど、ガス爆発かな?」


 校舎の方を見やり、野々宮さんが不安そうに呟く。

 「実は僕がやったんだ」と言ったらどんな顔をするのだろうか。……なぜかものすごく怒られてしまいそうな気がする。黙っていた方がよさそうだ。

 幸いにも火はすぐに消し止められたらしく、それほど大事件にはならなかった。

 ふう、やれやれ。これがきっかけで私の正体を知られてしまうかと思ってあせったぞ。もっと慎重に行動しなければ。


 授業は午前中で終了となり、生徒達は帰宅するようにと指示された。

 警察や消防が来て、爆発事故の原因を調査するらしい。

 私の仕業だというのは分からないはずだが、失態だったな。

 中止になった授業の分、生徒達は学業を修める事ができなかったわけだし、申し訳ない限りだ。


「平賀君、まだ記憶が戻ってないんでしょ? 迷子になったら大変だし、一緒に帰ろうよ」


 野々宮さんから声を掛けられ、断る理由もないので彼女と帰る事にした。

 クラスの人間がニヤニヤしていたのが気になるが……私と野々宮さんが一緒に帰るのは変なのだろうか? よく分からないな。

 小西君はあれから一度も目を合わせてくれないし、赤井さんとも話していない。あの二人とはあまり親しくないようだな。

 彼らは部下にするのによさそうな人材だと思ったのだが。いずれまた、話をしてみよう。


 野々宮さんと並び、学校を後にする。

 帰りの道順は記憶したので道案内は不要なのだが、せっかく彼女が気を遣ってくれたのだ。厚意を無にしては失礼だろう。


「ついでだし、お昼食べてかない?」

「そうだね」


 少し空腹を感じていたので、野々宮さんの提案に従う事にした。

 駅前にあるファストフード店に二人で入る。

 メニューを見てもよく分からなかったので、商品の選択は野々宮さんに任せた。

 応対した店員から金額を提示され、私は財布を取り出し、二人分の食事代を払おうとした。


「いいよ、自分の分は出すから。割り勘で」

「女の子に払わせるわけにはいかないよ。僕が出そう」

「いいってば。そういうの、平賀君らしくないよ」

「……」


 私らしくないのか。今までの私は少し非常識だったのではないか? 女性に食事代を払わせるとは……信じられん。

 仕方なく、自分の分だけ出す。いずれ野々宮さんには十分な謝礼をしなければなるまい。過去の分も含めて。

 購入した商品をトレイに載せ、階段を上がって店舗の二階へ向かう。さほど広くもない空間にギッシリと席が敷き詰められていて、妙に静かで変な雰囲気だった。

 昼時だが、あまり客はおらず、ガラガラに空いている。野々宮さんによると平日だかららしい。

 隅の方に二人用のテーブルがあったので、向き合う形で座る。ニコニコして食事に取り掛かった野々宮さんの真似をして、購入した食品を食べてみる。

 私が自分の真似をして食べているのに気付いたのか、野々宮さんが声を掛けてくる。


「もしかして、ハンバーガーの食べ方も忘れちゃったの?」

「うん、まあ。こういうの、いつも食べてたのかな」

「割と好きだったと思うよ。何度か一緒に食べたし」


 言われてみれば、悪くない味だ。そうか、彼女は私の好みを知っていたから、この店に連れてきてくれたのだな。

 本当にいい子だな。ぜひ、部下に欲しいが……どうも彼女を部下にするというのは失礼な気がする。同僚という事にしておくか。


「照り焼きバーガー好きだったでしょ? 私も好き」

「そうだね。美味しいよ」


 照り焼きバーガーか。確かになかなか美味だ。調理人を部下にしてやってもいいな。

 しかし、このフニャフニャしたポテトフライというのは変な食べ物だな。それほど美味でもないのについつい口に運んでしまう。麻薬でも入っているのではないのか?

 私が食べ終わっても、野々宮さんはまだ食べていた。

 ニコニコして幸せそうに食べている彼女の姿を眺め、思わず笑みを浮かべてしまう。


「あっ、やっと普通に笑った。ずっとぼんやりしてるから心配してたんだよ」

「そうなんだ。ごめんね」

「なんか悪役みたいな笑い方するし。あんなのどこで覚えたの?」

「……遠い過去かな」

「?」


 どうやら私は、ようやく『平賀依緒』として自然な表情を浮かべる事ができるようになったらしい。

 前世の記憶が戻った以上、これまでとまったく同じに振る舞うのは無理だろうが、なるべく不自然にならないようにしよう。


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