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13.追跡


 しばらくすると、ワンボックスカーは市街地を抜け、郊外に出た。

 見通しのよい直線道路が続き、走っている車の数が少なくなってくる。

 尾行を気付かれやすいと判断したのか、シーラさんはかなり距離を開けてワンボックスカーを追っていた。


「あら?」

「どうかした?」

「見失っちゃった」

「はあ?」


 どうも距離を開けすぎていたらしい。とある交差点を曲がった所で、見える範囲にワンボックスカーの姿が見当たらず、シーラさんはあせっていた。

 おいおい……尾行に慣れているようだから任せたのに、見失っただと? 冗談じゃないぞ。

 この先は片側一車線の道路が続いていて、見通しは悪くない。ただ、道路の左右に脇道がいくつもあって、そのどれかにワンボックスカーは入ったようだ。


「まだ遠くには行ってないはずよ。すぐに見付けるわ」

「でたらめに探しても見付からないよ。仕方ない、ちょっと待ってて」

「えっ?」


 腰を上げ、シートの上に立ち、私は上空へ飛び上がった。

 空高く舞い上がり、周囲を見回す。すると、見付けた。例のワンボックスカーがどんどん離れていくのを。

 そのまま降下し、走行中のスクーターに降り立つ。シーラさんの肩をつかみ、指示を出す。


「そこを右に入って。まだ追い付けるはずだ」

「え、ええ。あなた、本当に何者なの? 今、一〇メートルぐらいジャンプしたわよね?」

「手品師だからね。あのぐらい朝飯前さ」

「そ、そうなんだ。まあ、いいけど……」


 全然納得していない様子だが、シーラさんはそれ以上追求してこなかった。

 優先すべき事を理解しているようで何より。今は私の素性などよりも車を追うのに集中するべきだ。

 右折して脇道に入り、急いで後を追う。ワンボックスカーを捕捉し、シーラさんはスピードを緩めた。

 狭い道が続き、あたりには森が広がっている。やがて前方に何か見えてきた。

 森を抜けた先に周囲を柵で囲まれた広い区画があり、建物が建っている。ワンボックスカーがそこへ入っていくのを確認し、シーラさんはスクーターを停めた。


「ついに突き止めたわ。あそこが邪教徒どものアジトね」


 GPSのマップで現在地を見てみる。位置的には市街地郊外、山の麓あたりか。マップに表示されている道は行き止まりになっていて、建物は表示されていない。

 シーラさんはスクーターの後ろに載せたボックスを開け、中から道具類を取り出した。

 制服の上から例のローブを羽織り、折りたたまれた棒のような物を伸ばして、先端に十字架を備えた杖に変える。


「私はこれからあそこに乗り込むけど、あなたは?」

「付き合うよ。そのつもりで来たんだし」

「武器は持ってるの? ないなら貸してあげてもいいけど」

「必要ないよ。手品に必要な物はいつも持ってるから」


 シーラさんはうなずき、未舗装の道を歩いていった。私も彼女の後に続く。

 敷地の入り口は開放されていて、見張りらしき者もいない。あたりは不気味に静まり返っており、物音一つしなかった。

 広い敷地内には一階建ての平べったい建物がいくつも並んでいる。廃棄された倉庫街みたいな感じだ。

 剥き出しの地面にタイヤの跡が無数に刻まれており、車が頻繁に出入りしているらしい事が分かった。

 ワンボックスカーは敷地の奥の方へと入っていったのを見た。手前にある倉庫をのぞいてみたが、特に何もない。こちらは使われていないようだ。


「少し、静かすぎないかな」

「そうね。罠の可能性もありそう」


 などと呟きつつ、引き返すつもりはないようで、シーラさんはスタスタと歩いていく。

 大した度胸だな。私がいなくても一人で来ていたに違いない。先を越されなくてよかった。

 奥へ進むと、今も使われていると思われる倉庫があった。倉庫の外に段ボール箱が山積みになっている。何かを搬入していたのか。

 それらをスルーして、さらに奥へ。一番奥にある倉庫の手前にワンボックスカーが停まっているのを発見する。

 周囲に人の姿はなく、運転していた人間は車から降りてどこかへ行ったようだ。おそらくは倉庫の中だろう。


「あそこか。さて、何があるのかな?」

「待って。すごくよくない気配がする……それも、かなり強く」


 シーラさんが足を止め、小声で呟く。

 私も気配を探ってみたが、かすかに人の気配がするだけで、彼女が言うような邪悪な気配などは感じなかった。

 むう。悔しいが、邪気を探る力は彼女の方が上か。人間として生きてきた期間が長すぎたせいで鈍っているのかもしれない。場数を踏めば勘を取り戻せると思うのだが。

 足音を忍ばせ、シーラさんが倉庫へと近付いていく。私も周囲を警戒しながら後に続いた。

 倉庫の入り口は大きく開放されている。中は暗く、奥の方の様子は見えない。

 そろそろと倉庫内に足を踏み入れる。とても静かだが、淀んだ空気が充満していて、少し息苦しかった。

 魔族である私ですらそうなのだから、普通の人間には耐えられないのではないか。見るとシーラさんは眉根を寄せ、ローブの袖で鼻と口を押さえていた。


「な、何、この嫌な空気……それに妙な匂いが……」

「なんだろうね、この匂い。安物の香水みたいな……」


 はて、なんだろう。何かが頭の隅に引っ掛かる。どこかで同じ匂いを嗅いだような……。

 それが何なのか思い出せないうちに、倉庫の奥に広がる暗闇から人の声が聞こえてきた。


「ようこそ、邪教徒狩りのお二方。歓迎しますぞ」


 暗闇の中に人影が浮かび上がる。それも複数。ざっと数えて、一〇〇人ぐらいか。

 闇にまぎれ、気配を絶っていたのか。それにしても随分と人数が多いな。

 彼らは黒いローブをまとい、フードを被って人相を隠していた。中央に立つリーダーらしき人物が声を発する。


「我らは邪神を信仰する教団。表向きはエコロジーエスケープというNPO団体を名乗っている」

「……いるのよね、こういうの。宗教団体だと怪しまれるから、NPOって事にしてる組織」


 シーラさんが不愉快そうに呟く。そういうものなのか。色々と考えるんだな。私が組織を作る際には参考にさせてもらおう。


「邪神を信仰してはいるが、この汚れた世界を浄化するために活動している。我らの行動は全て正義に基づくもの。非難される謂われはないな」

「ふん、何が正義よ。学校に爆弾を仕掛けておいてよく言うわ」

「それは、そこにいる少年が我らの同胞を手にかけたからだ。同胞の仇を取るのは当然の行動だろう。我らに非はない」


 なるほど、それが向こうの言い分か。よく分かった。

 そこで私は、彼らに質問してみた。


「先に襲ってきたのはその同胞とやらなんですけど。それについての弁明は?」

「不幸な事故だった、と認識している。彼はただ、深夜の散歩を楽しんでいただけだ。それを君が襲い、殺した。邪教徒というだけで命を奪うとは、なんという非道な真似を……人の皮を被った悪鬼め!」

「……」


 いや、私は人の皮を被った魔族だが……非道というのはよい評価だな。もっと言ってくれ。

 それはともかく、あの化け物が散歩していただけだというのか。無茶苦茶だな。

 やつは間違いなく、最初から人を襲うつもりでいた。それも含めての『散歩』だったのだろう。

 この連中に何を言っても無駄だな。自分達が正しく、他者は間違っているとしか考えていない。私が正当防衛を訴えても聞く耳など持っていないようだ。


「それで、どうするつもりですか? 僕が謝れば許してくれるんですか?」

「謝罪するのなら受け入れよう。君の命を我らに捧げるがいい。それで許そうではないか」

「……要するに、許して欲しければ死ねと?」

「そういう事になるな。覚悟するがいい……!」


 リーダーらしき人物が叫び、ローブの袖をバサッとはためかせてこちらに手をかざしてくる。

 その手から何か黒い粒のようなものが大量にばらまかれたのに気付き、ハッとする。

 ……ここの床、湿っているな。あらかじめ水をまいてあったわけか。

 ばらまかれた黒い粒は、例の食人鬼を乾燥させた豆みたいなやつだった。床に落ちたそれらが水分を吸収し、ムクムクとふくらんでいく。

 赤黒い肌をした小柄な食人鬼が本来の大きさに戻り、ズラリと並ぶ。倉庫の広い空間を埋め尽くすような、すごい数だ。

 またこいつらか。人を食う鬼なんかを使役しているくせに、何が正義だ。

 むしろ堂々と悪の組織を名乗ったらどうだ? 気に入らないな……。


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