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幾何学的な色をして

作者: 文月瑞姫

 そこは遠い遠い世界。一人の青年が旅をしていました。行く宛てもなくふらふらと、ふらふらと、旅をしていました。

 その道中に出会ったのは、一人の老婆でした。老婆は彼の目を見るや否や、一冊の本を取り出しました。それは黒い黒い本でした。

 青年はその本を取ると、読み始めます。



 そこは深い深い海の底。それは宮廷を造り、一国の姫として顕現していました。姫は傲慢なもので、信頼のできない者を次へ、次へと地上へ還しました。一度地上に出たものは、二度とそこへは戻れません。

 姫は次へ、次へと臣下を減らし、やがて一人になりました。そして初めて、姫は心を痛めます。姫の涙はやがて形を成し、赤い赤い本になりました。

 青年はその本をめくり、読み始めます。



 そこは淡い淡い花の街。少年はひどく喉を渇かせ、水を求めていました。鮮やかな紅色の水、軽やかな空色の水、柔らかな草色の水、人々はそれらを手に掬い、飲んでいます。

 少年はためらいます。他の色の水を知っているかのように、指先を水につけては離します。人々は訝しげに彼を見つめますが、やがて興味を失い、その場を去りました。

 しかし、少年の渇きは限界を迎え、ついにその水を飲んでしまいました。すると、少年の爪は見る見るうちに伸び始め、手のひら大になったところで割れ、それらは青い青い本になりました。

 青年はその本をめくり、読み始めます。



 そこは暗い暗い部屋の中。少女は手さぐりに出口を探しますが、すきま風一つないこの場所に、出口などありません。そうとも知らず、少女は歩きます。

 ぺたり、ぺたりと、冷たい壁を頼りに、終わりのない旅を続けます。一度手を離すと壁は消え、少女は体勢を崩してしまいます。

 すると、少女の目の前に小さな光が生まれます。光は集まり、やがて白い白い本になりました。

 青年はその本をめくり、読み始めます。



 そこは広い広い世界の片隅。

 あなたは小さな小さな本を手にしてしまいました。


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