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それぞれの一週間

「やああああああ!!」


 少年が木製の的を相手に剣を振っている。もちろん、【光輝の神】からもらったというあの【聖剣】だ。


 普通は鍛錬に真剣を使わないらしいが、少年はあの剣以外の武器を使わないらしいので、使い込んで手に馴染ませる方針らしい。【不壊】の効果があるので多少手荒に扱おうと刃が潰れることもないらしく、少年は遠慮なく振り回している。


 ブンブン振るっている刀身からは僅かに白い光が溢れていた。あれが光属性の証だと騎士の一人が言っていた。属性を帯びた装備は常に微かな光を帯びているのだとか。

 ある程度打ち込みを繋げたあと、少し距離を離して呼吸を整える。

 剣を上段に構える。


 一瞬の集中。


 踏み込み、剣を思い切り振り下ろす。


「――【一閃】!!」


 少年の剣から一際眩い輝きが溢れ出し、的となっていた木の人形が真っ二つに裂けた。

 【一閃】という一番基本的な【武技】の一つだと言っていたが、武器の威力とあわさって最強に見える。こっちに来るまではずぶの素人だったと言っていたが、今では超人の仲間入りである。


 その横では赤髪が槍を手に城の兵士と模擬戦を行っていた。


「【一閃】! 【二連閃】!! 【三連瞬閃】!!!」


 基本の技と言われているだけあり、刃のついな武器ならば【一閃】はどの武器でも使える。剣から槍に持ち替えても大丈夫なのだ。

 赤髪が放った【二連閃】は【一閃】から連続する上位の技で、【三連瞬閃】はその更に上に位置する技。【基本技】【中級技】【上級技】とコンボを繋げることができる。

 【上級技】を使える人間はかなり少ないと説明されたが、赤髪は砂に水が染み込むようにあっという間に覚えてしまった。

 対峙していた兵士も赤髪の六連撃を受け止めきることはできず、肩に攻撃を食らってしまう。

 兵士が自らの敗北を告げると、赤髪は満足そうに頷いて次の相手と模擬戦を開始した。


 ここにはいないが白衣は別の場所で魔法の練習をしているし、茶髪の女性は回復魔法の練習として王都の病院を回っているらしい。

 誰も彼も、さすがは次代の国王候補だと、たった一週間で評判になるほどの活躍振りなのだとか。


 俺以外は。


 ◇


 剣を振ってみたらまるで才能がなし。

 それ以前に体力がなさすぎるので走り込みから始まり、木剣に触ったことなど数える程。とにかく倒れて吐くまで走らされた。


 魔法を勉強してみれば、魔力は少ない、魔力を感じるセンスがない、魔法の知識は欠片もない。

 瞑想と筆記が延々と続き、いつ魔法が使えるようになるのか、本当に魔法が使えるようになるか、全く目処が立っていない状況だ。


 【王】の候補者がこうした戦闘訓練を受けているのはもちろん理由がある。

 【王の試練】と呼ばれる課題が存在し、【王】になるにはこれをクリアしないといけないのだ。

 試練の内容は『ダンジョン攻略』。

 魔物が跋扈し、罠が縦横無尽に張りめぐされた【試練の塔】と呼ばれる『神級』のダンジョン。その頂きに到達することが【王】になるための条件だ。


 ……なんで【王】になるのにダンジョンを攻略する必要があるんだろう?


 今いち納得はいかないが、それを言いだすとこの世界そのものに言いたいことがありすぎて困ってしまうので、『そういうものだから』と納得しておくことにした。

 リンゴが木から落ちるのは重力があるからだが、『なぜ重力があるのか』を考えたことで意味がない。『そういうものだから』としか答えようがない。


 なぜ異世界から人を召喚するのか。王の候補を何人も選ぶのか。試練を課すのか。


 それを尋ねたところで誰も答えを知らず、疑問にも思わない。太陽が必ず東から昇るように、この世界はそういう世界なのだ。


 ◇


 さて、そういうわけで【王】の有力候補とは必然的に戦闘力の高い者のことを指すわけだが。この一週間でわかった候補者たちの能力についても多少は判明しており、派閥や後援も得て試練へ向けての準備を整えているようだった。


 【光輝の神】の候補者、龍城大和。

 強力な【聖剣】を保持し、剣の才能と光魔法の才能にも恵まれている。

また、ジュニアアイドルのような甘いマスクで美女や美少女を骨抜きにして自分の派閥を作り上げている。

 筆頭はこの国の姫――実は先王の孫らしい――で、他にも女騎士や宮廷魔術師の才媛などと一緒にいる場面も目撃されており、ダンジョン攻略の際には彼女らとバランスのよいパーティを組むだろうと噂されている。爆発しろ。


 【武芸の神】の候補者、斎藤大輔。

 得物を選ばず、あらゆる武器に精通し、【武技】の習熟度も身体能力もずば抜けている。近接戦闘ならば随一だが、代わりに魔法は苦手としているようで最低限の身体強化もおぼつかないようだ。

 一緒に鍛錬に励む騎士団との距離が近く、斎藤自身は魔法が使えないので他のメンバー、魔法騎士、神聖騎士、竜騎士、暗黒騎士などがそれをフォローする形になるのでは、と言われている。暗黒騎士ってどんな騎士だよ。


 【魔術の神】の候補者、鈴木壮也。

 運動が苦手で武器の扱いもからっきしだが、回復魔法以外のほぼ全ての魔法を習得しているらしい。全属性の攻撃魔法が扱え、今は補助や妨害など状況に合わせた魔法の使い方を身につける鍛錬に励んでいるという話だ。

 彼は宮廷魔術師らとの繋がりが厚く、その代わり前衛を任せられそうな騎士団らからは距離を置かれている。噂だが最近は騎士の代わりに前衛を任せるためのゴーレムや使役魔獣、魔導人形の作成を始めているらしい。つまりボッチである。


 【慈愛の神】の候補者、百代苺。

 本人が言っていたように能力も回復魔法特化。多少の防御魔法も覚えらくはないそうだが、攻撃に関してはまるでダメ。戦闘の際は回復と補助に回り、攻撃は他のメンバーに完全に任せる形になるだろう。

 病院での活動を通じて幅広い人脈を構築しているらしく、彼女に怪我や病気を治療してもらった者、知人や家族を癒してもらった者などが後援についているらしい。龍城少年と同じくバランスのよいパーティとなると目されている。こっちは逆ハーレムだな。


 そして、五人の候補者の最後の一人がこの俺、高羽綾人たかばあやと

未だに出会った神のことを思い出せず、【祝福】についても覚醒の兆しはなし。武器を持たせればその重さに振り回され、魔法を唱えれば煙すら立たない。戦闘力はマイナスを記録し完全にお荷物状態。

 実力主義の騎士団、魔法至上主義らしい宮廷魔術師、次代の王に取り入ろうとする貴族や高官らからも全く期待されずスルーされており、王位は絶望的というのが一致した見解だ。


 ◇


「――と、以上が最近の城内の状況ですね」


「ありがとう。しかし、こうして改めて聞いても俺の評判は酷いな」


「でも、本当のことですから仕方ないですよね?」


「真実は往々に人の心を抉るものなんだよ……」


 どさりと、鍛錬と精神的疲労で疲れた体をベッドに投げ出した。


「今お茶をお淹れします。夕食はいつ頃お持ちいたしますか?」


「けっこうお腹すいているから今から頼める?」


「かしこまりました」


 最初に俺と会話していた少年が手際よくお茶を淹れる間に、壁に控えていた別の少年が部屋を出て厨房へ連絡に向かった。


 彼らは俺付きの従僕たちで、貴族階級出身の少年たちだ。貴族の子息子女はある程度の年齢になると他家や王城で働き、貴人の身の回りの世話をしながら、経験を積んだり人脈を培ったりするのがこの世界の習慣らしい。俺は三人ほど付けてもらっている。

 最初は他人の世話になるのに慣れなかったが、この世界のことを何も知らない俺にいろいろと教えてくれたり、鍛錬で疲れ果てて帰ってきた時にあれこれ用意したり後始末をしてくれるなど、大変助かっている。


 そんなこんなで、一週間かけて彼らとも少しは打ち解けることができた結果、俺は彼らから多少の情報を教えてもらえるようになっていた。

 先ほどの『他の候補者たちの現在の状況』も彼らの培った王城内の人脈と、使用人ネットワーク内に流れる噂から上がってきたものだ。


 情報をもらった代わりに時間が空いた時に俺のいた世界の話などもしているが、彼らが俺に協力してくれる主な理由は同情だろう。

 異世界から連れてこられた力も知識も後ろ盾もないただの一般人。このまま放り出したらすぐに死にそう、くらい思われていてもおかしくない。


 まあ、将来俺がもし出生した時に備えて今のうちに恩を売っておこうと考えている者もいるかもしれないが、宝くじを買うよりも期待されていない程度だと思う。

 とりあえず、一週間かけて彼らとは友好的な関係を築けてこれたと俺は思っている。


 壁側に立ち、俺からの次の支持を待つ彼らが纏う【緑】のオーラを視て、そう信じることにした。

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