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 立て続けに転落事故が起きた階段は、今は封鎖されて使えないらしい。水樹と香奈絵は一応見に行ったものの、何か欠陥があるわけでもない普通の階段だった。知らない人が見たら、違和感のある光景に違いない。

 予約した占い師に会うためには、ビルにひとつしかないエレベーターを使うしかない。なかなか年季の入ったエレベーターで、動く時の振動が妙に大きい。水樹にしてみれば、階段よりもむしろこちらの方が怖いくらいだった。

「それで、これから何をしに行くの?」

 エレベーターの中で、思ったままの疑問を水樹は口にした。

 すると、何故か天井を見ていた香奈絵は、こちらを向いて口元を上げる。

「結局誰が得をしたのかって事」

「何が?」

 首を傾げるしかない水樹。脈絡がなさ過ぎてなんの事だかさっぱり分からなかった。

 ますます楽しそうに微笑んで、香奈絵は言った。

「悪魔騒ぎの犯人。一連の事件で得をしたのって、結局残った占い師だと思わない?ライバルが減ったお陰で、残った3人は仕事がし易くなったはずだし」

「それはそうかもしれないけど・・・・・・そうじゃなくて、香奈は結局何がしたいの?」

 そこでエレベーターが3階に到着した。

 自動扉が開くと、黒いセーラー服姿の3人組が待っていた。水樹達と同じ女子高生のようだ。

 香奈絵が上品に会釈すると、気圧されたようにセーラー服組が道を開ける。その道を彼女は颯爽と進む。水樹は普通に会釈してから、後に続いた。

 しばらくすると、後ろから歓声のようなものが聞こえてくる。

「あの子達もきっと、占い師の客よね」

 歩きながら、香奈絵は何気なく言った。

 水樹は軽く頷く。

「そうだと思う」

「それがもしあくどい奴だったら、悔しいでしょ?」

「え?」

 口だけで香奈絵は微笑む。

「怪我人が出るようなやり方で客を集めるのはもちろん犯罪だけど、それ以前に、そんな奴の占いを信じた子がいたら可哀想じゃない。水樹はどう?」

 押し黙る水樹。

 確かに気分は良くない。

 小さく息を吐いて気を落ち着けてから、水樹は尋ねる。

「でも、占い師の中に犯人がいるって、何の根拠もない話でしょう?それに、私達は警察でもないのに、そんな事調べたって・・・・・・」

 言葉は途切れる。

 唐突に香奈絵が、水樹の口元に指を押し当てたからだった。

 2人とも立ち止まる。

 自分の口元にも指を一本立てて、香奈絵はウインクしてみせる。

 突然だったのはもちろん、その魅力的で大人びた仕草に、水樹の心臓が大きく跳ねた。

 それから間もなくして、すぐ近くの事務室のようなところから、やはり黒のセーラー服を着た2人組が出てくる。

 彼女達は楽しそうに会話しながら、エレベーターへと歩き出す。すれ違う時に少しだけ視線を送ってきたものの、前の3人のような歓声はあがらなかった。もちろん、この時には既に香奈絵は指を下ろしている。

 その2人組の話し声が聞こえなくなってから、水樹は少し怒った顔になって言った。

「また急に変な事して・・・・・・」

「何?変な事って」

 香奈絵は余裕の表情で聞き返してくる。

 顔が火照るのが、水樹は自分でも分かった。

「普通に言えばいいじゃない」

「でも、この方が早く伝わるし、それに、たまには役得も欲しいじゃない?」

「もう・・・・・・」

 溜息が出る。

 そんな水樹に見せつけるように、香奈絵はもう一度指を立てて自分の唇に押し当てる。それを離してから、魅力的に微笑みながら言った。

「水樹の唇って、柔らかいね」

 その言葉で気付く。

 今香奈絵が自分の唇に当てたのは、先程水樹の唇に当てたのと同じ、左手の人差し指。

 今度こそ、水樹の顔は真っ赤になる。両手を頬に当ててみると、インフルエンザをもらったと勘違い出来そうな程の熱をもっていた。

「ちょっと!・・・・・・もう」

 思わず声が出たものの、結局水樹は何も言えない。何か言ったところで勝ち目がない事は、今までの付き合いで嫌というほど理解しているのだから。

 複雑な思いも、結局溜息となって出て行くしかない。

 そんな水樹の溜息を、香奈絵の大人びた微笑みが優しく受け止めていた。

 


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