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友達


「ちょっとここで、待ってて!」

 星奈は部屋の前へ着くと、そう言って一人で部屋へ入ってしまった。

 何やらガサゴソと物音がするが、それだけでは中の様子を窺い知る事は適わないので、俺は壁にもたれかかり、星奈を待つ事にした。

 ガサガサッ

 バタン!ゴトッ・・・ピシャッガタン!

 ・・・パリーン!

「何がどうなってるんだよ!?」

 俺は一向に出てこない星奈と、何やら激しさを増してきた物音で心配になり、勝手に扉を開け放ち中を伺う。

 そこには、洗濯物に絡まった星奈と、フローリングの床に今落としたのだろう丼の破片が散乱していた。

「まっ・・・待っててって言ったでしょ!!何で入ってくるの変態!死ね!」

 激昂した星奈は、丁度手に握っていた物を俺に向かって投げつけてきた。

 パサッ・・・

「ん?・・・んだ、これ?」

 俺は頭部に投げつけられた、恐らく布であろうそれを手に取り眺める。

 淡いピンク色で、三角形をしているそれは、伸縮性の良い素材で作られているらしく、大きい穴が一つ。その反対側に少し小さめな穴が二つ開いていた。そして少し、湿っていた。

 一体何なのだろう、と俺はその布製品をビローンと広げようとすると、

「死ねっ!!」

 バゴンッ!

 俺の頭部目掛けて星奈は全力で近くに転がっていたバスケットボールを投げつけた。


「痛てて・・・、ちょ、鼻血出てるし・・・」

 俺は星奈から手渡されたティッシュを千切り丸めて鼻に突っ込む。鼻の穴がドクドクと脈打ち、時々ピリッとするどい痛みが走る。

「ご、ごめんね・・・。でも、待ってろって言ったのに入って来るくわっちもいけないんだからね!」

 星奈はそう言い捨てると、割れた丼の破片を怪我に気をつけながら拾い集める。

 星奈が部屋の前で俺を待たせたのは、部屋が散らかっているからとかなんとか。そんなの、言ってくれれば最初から手伝ったのに。

 結局二人で片付ける事になったのだが、色々と制限を付けられた。

 部屋をジロジロ見ないとか、押入れやタンスには近づかないとか、あっち向けと言ったらあっち向くとか。

 一緒に片付ける事に関しても、星奈は未だ納得していない様だった。何がそんなに嫌なのか。

 そういえば葵も嫌がってたな。俺の部屋は進んで掃除するくせに。おかしいよな。

「いや、別にいいけど・・・。てか星奈、お前もお前で投げるもの選べよ・・・。何で真っ先に昨日穿いてたパンツ投げてくるんだよ」

「次、言ったら殺すから」

 星奈は俺の発言を聞くや否や、拾った丼の破片の中から一際大きい物を手に取り、俺の喉元に突きつけてきた。

 いやそれ、手滑らせたら大変な事になるから・・・!冗談じゃ済まされないからね!?

「す、すみませんでした・・・」

 俺は背筋が凍りつくのを感じながら、真顔でそう言うのだった。

「自分から手伝うって言ったんだから、もっとせっせと働いてよね」

 星奈は丼の破片を遠ざけ紙袋の中に戻すと、フンッとそっぽを向き、愛想悪くそう言った。

「ごめん・・・」

 何なんだこれは・・・。初お泊りだからもっと楽しい雰囲気だと思ってたのに・・・!いきなり嫌な空気になってしまった。

 俺何かした・・・したんだった。さっきの布がパンツだと分かり、しかもそれがつい昨日穿いた物だと分かった瞬間、俺はいやらしい笑みを無意識中に浮かべていたらしい。無意識中なので、自覚は無かったが。

 まぁ確かに、まだ匂いするかな?!とか、サイズいくつだろう??とか思ってたけど、それを表情に出した覚えは全くないのだが。

 身体は正直ってのは、こういう事か。

「でも、まぁ・・・。俺も思春期だからさ・・・」

「あたしも思春期だよ!!」

 星奈が声を荒げた。うん、まぁそうだよな。

 俺は縮こまり、「ですよね・・・」と小声で呟くと、星奈はまたも鼻を鳴らし片付けに没頭した。

 俺も星奈にならい、片付けに専念しようとするが、・・・もう何もやる事が無かった。

 頼まれた作業が、教科書とノートを纏めて積んでおく、のみだったのでしょうがないのだが。

 俺は他に何かやる事無いかなと、部屋を見渡すと

「ジーロージーローみーんーなー・・・!!」

 凄い形相で睨みつける星奈と、目が合ってしまった。

「くわっち、後はあたしがやるからさ。てか最初からそのつもりだったんだけど!もっとこう・・・デリカシーとかさ・・・。はぁ、じゃあさくわっちは下行ってコップとか、あと取り皿とか持ってきてよ。ついでにこの破片も下持って行って」

 星奈はそう言うと、丼の破片の入った紙袋を手渡してきた。俺はそれを受け取ると、星奈の視線から逃げる様にして部屋を後にした。

「うーん、女子って難しい」

 俺は感想を述べつつ、下へ降りていった。


 俺は一階へ降り、リビングに続くと思われる扉を開けると、星奈ママと出くわした。まぁ当然か。

「あら桑島君。どうしたの?何か頼まれ事かしら。あの子人使い荒いでしょー。あと部屋も汚かったでしょ?」

 星奈ママは、親しげな笑顔を浮かべつつそう話しかけてきた。

「あ、はい。頼まれ事です。部屋は・・・、別にそうは思いませんでしたけど・・・」

 俺の部屋の方が倍以上汚いからな。ゴミの日なんか意識してないから、ゴミ袋溜りまくりだし。それもたまに葵が部屋を掃除してくれる時ついでに出してくれるのだが。

 俺はそう言うと、先ほど手渡された丼の破片の入った紙袋を星奈ママに差し出した。

「これ、破片入ってるんで気をつけてください。あと、コップと取り皿を持ってきてくれって言われたんですけど・・・」

 俺はリビングを見渡す。やっぱり広い。家具も全てが無駄にでかく、テレビなんかインチが50を越えていそうな位でかかった。

 そして日当たりも良く、窓から射す夕焼けの光がリビングを朱色に染めていた。

「いい雰囲気ですね、凄く」

 俺は無意識に感想を零してしまう。それを聞いた星奈ママはニコッと微笑み

「あらそう?どこの家もこんな感じだと思うけれど・・・。ありがとう。でも、あたしは桑島君の方が凄いと思うけれどね」

 そう言って俺を見る星奈ママ。俺には何のことかさっぱりわからず、無言で返してしまう。

「だって、まだお互い知り合って2週間ちょっとしか経っていないんでしょう?それなのにここまで発展できるのって、中々無いと思うわよ?」

 俺は最初その言葉が嫌味だと思ったが、それは違ったみたいだ。

「あの子、女の子でも男の子でも、あんまり友達いないのよね。それには色々と訳があるんだけど」

「色々って、何ですか?」

 俺は野暮だと思いつつ、つい聞いてしまう。だって気になるじゃん。

 そんな俺に対して星奈ママは意味有りげに笑い、

「それはあたしの口からは言えないわね。本人から直接教えてもらって。難しいと思うけどね。多分あの子にとってもいい思い出とは、思えないから」

 そこで星奈ママは苦笑し、「ほら、そろそろ戻った方がいいんじゃない?あの子待ってるわよ」と、会話を終わらせた。

 俺は「すみません、失礼します」と一礼し、リビングを後にした。


 俺が二階へ戻ると、部屋の前で星奈が待っていた。

「くわっちおっそい!!・・・・・・何話してた?」

 星奈はどうやら俺の帰りが遅かったので不機嫌になってしまった様だ。

 だったら下まで呼びに来ればいいのに。と俺は思ったが、星奈の不機嫌に気圧され口に出す事は出来ず、無言になってしまう。

「あたしの事?」

 再び星奈が問いかけてくる。

「あ、あぁ・・・。軽く」

「どこまで?」

 執拗に問いかけてくる星奈。何かマズイ事でもあるのだろうか。

「いや、ほんとに軽くだって」

「だからそれがどこまでだっつってんの!」

 眉間にシワを寄せ声を荒げる星奈。俺はその剣幕に怯んでしまい、その場から逃げ出したくなった。

 星奈自身も行き過ぎだと感じたのか、「あっ・・・」と口を噤む。そこでやっと落ち着きを取り戻した星奈は、

「どうせ、友達が少ないからどーのとか、そんな感じなんでしょ?」

 と今回は落ち着いた声音で聞いてきた。

「あぁ、そんな感じ。でも、詳しい事は本人から聞いてくれって、それ以上は何も言ってこなかったよ」

 俺は必死に平静を保っていたが、内心泣きそうだった。

 どうしてそんなに怒るんだよ・・・。やっぱり漫画喫茶行こうかな・・・。

 だが、俺のそんな思いとは裏腹に星奈の表情からは怒りが消え失せていた。

「ならいいや!さっ、部屋は片付いたし、中入ろう」

 そう言って星奈は俺の腕を引っ張り、綺麗に片付けられた、先ほどの面影は欠片も無い部屋へと招き入れた。


「適当にそこら辺、座ってて。座布団これ使って」

 星奈は俺に向かって青色のシンプルな座布団を放ってきた。俺はそれをキャッチすると、尻の下に敷き、座る。

 俺の目の前にはちゃぶ台が置かれ、反対側に星奈は座った。

「さーて。んじゃ、早速香織と何があったのか、聞かせてもらうとしましょうか?」

「あぁ・・・」

 早速その話題を切り出すかぁ・・・、と俺は内心ため息をついた。だがまぁしょうがないか。星奈からしてみても香織があれだけ怒っている理由には興味があるのだろう。

 何せ小学生からの長い付き合いの星奈ですら、香織があれだけ怒っているのを見た事が無いというんだから。

 場合によっては、また星奈を怒らせてしまうかもしれないなぁ・・・。親友っていう位だから、そういう部分でも共通している箇所はあるだろうし。

 俺は一度深呼吸をして、切り出した。

「まぁ、結論から言うと、俺が香織の家の隣にある空き地で、生後間もない子猫を捨てた事が原因なんだ」

 星奈は黙って聞いている。相槌すら打たない星奈は、今一体何を考えているのか、全く把握が出来なかった。

 俺は続ける。

「そんで、その事が香織に知れて、キレられて。俺も理不尽に思って反論したら、また更にキレられて・・・って感じ」

「うん、それで?」

 先を促す星奈。うーん、これだけなんだけど。

「えっと・・・、それで、・・・。まぁ、香織の腕を掴んで、ちゃんと聞いてもらうために。理由を話そうとしたら、金玉思いっきり蹴られて・・・おい。何で笑ってんだよ」

 気付けば星奈は肩をヒクヒクさせていた。顔は俯き、必死に笑いを堪えている。

 俺が金玉蹴られた事がそんなに面白いのかよ・・・!こっちは死ぬ程痛かったんだぞ!?

 なんとか笑いを堪えた星奈は、再び顔を上げ「くふっ・・・じゃあ、次」と更に先を促してきた。

「いや、これだけなんだけど」

「は?」

 は?じゃねぇ。俺は全部話した。そんな意味分からないみたいな顔しないでくれ、俺だってわからないんだから。

「何、それで香織はあんなに怒ってたの?」

 確認する星奈。信じられない、といった表情で身を乗り出してくる。

「そう、だけど。何?何かおかしかった?俺の説明、分かりづらかったらもう一回考えてから話すけど」

 でも、今のでも全然わかりやすかったとは思うのだが。事実を全て話したし。

「ちなみに聞くけど、くわっちは何でそこに子猫を捨てたの?」

 もうすでに察してくれているとは思うが、念のためにと星奈は聞いてきた。

「そりゃあ家の事情だよ。母親が動物嫌いで、家も新築の買ったから、経済的にも・・・って感じかな。ちなみに拾ってきたのは葵ね」

 それを聞くと、星奈は黙り込んでしまう。何やら考え事をしている様だが、一体何を考えているのだろう。

「・・・それってさ、ちょっと理不尽過ぎない?だって別に、意地悪して捨てた訳じゃ無いんでしょ?事情あっての事なんだから、それはしょうがないと思うけどなー。あたしはね。あたしには香織がどうしてそんなに怒ってるのか、ちょっと理解できないね」

 お、やっぱりどんだけ付き合い長くても、そういう理解出来ない部分ってのは、あるんだな。俺には付き合い長い奴なんて家族以外居たことないからわからないけど。

「だろ?俺も何でそんなに?って、全く理解出来なかったから、困ってるんだよ・・・。何か理由があるならともかく」

「いや、理由があってもそれは無いでしょ。家の事情なんてあたし達にはどうする事も出来ないんだし。まあ、あたしも転校生で、香織とは小5の時からの付き合いだから、それ以前に何かあったのかも知れないけど」

 でもくわっちそんなの知らないじゃん?あたしも知らない。と星奈は続けた。

「星奈も知らないんじゃあ、俺は知りようが無いよな。てかお前、転校生だったのか」

 そっかぁ、転校生・・・。親近感が沸くなぁ。

 星奈は俺の言葉に反応する事はなく、黙って考え込んでいる。

 そしてしばらく考え込んだ後、「ふむ」と一息ついて再び俺に質問をしてきた。

「くわっちってさ、猫嫌い?」

 星奈の意図の分からない質問に、俺は少し戸惑ったが、

「うーん、母親程ではないけど、好きではないかな。嫌いかと聞かれたら、嫌いなんだろうなぁ?」

 それを聞いた星奈は眉をハの字にして「あぁー」と唸ると、

「多分、それだよ。香織が怒った原因」

「え?何で?」

 俺は聞き返す。何で、理解が出来ない。

 別に俺が何を好こうが嫌おうが、俺の勝手のはずだ。なんで香織が怒る必要があるんだ?

 そこで、俺の疑問に応えるべく、星奈が口を開く。

「多分、自分の好きな物を嫌いって言われた挙句にそれを捨てるなんていうずさんな扱いをした事に対して怒ってるんじゃないのかな?仮にそうだったとしても、くわっちがそういう扱い受けるのはあたしは納得できないけどね」

 なるほど、直接的に俺を嫌ってる訳ではないんだな。・・・でもやっぱ理不尽だろ。

 香織って以外と子供だったんだな、と思うと同時に香織の幼稚な怒りの動機に苛立ちを覚えた俺だったが、それでも香織と仲良くしたいし、これからも友達でいてほしいと思った。何せまだお互い何も知らないからな。このまま終わりっていうのも何か嫌だった。

 そんな俺の心情を察したのか、星奈はこの状況の打開策を提案してきた。

「じゃあさ、こういうのはどう?実はくわっちは猫が大好き。でも家庭の事情で飼う訳にもいかず、渋々捨てる事にした。・・・っていう感じ?」

「いい考えだと思うけど、そういう嘘つくのはどうかなぁ・・・。しかも俺は以前香織に『俺は猫が嫌いだ』って言っちゃったし。矛盾が出てくるから・・・」

 俺は再び、以前の香織との帰り道での事を後悔した。何故あの時「好き」と言わなかったのだろう。

 今でもそういった嘘をつく事に抵抗があるのは変わりないが、少なくともあの時「好き」と言っていれば・・・。

 今更してもどうしようもない後悔と、そんなどうしようもなく女々しい自分。あぁ、俺はどうしたらいい?

「そんな意地なんか、捨てちゃいなよ。そうすれば、今からでも全然間に合うと思うけど。その時言った『嫌い』って言うのは、家庭の事情が背景にあって、猫を見るとその時の事を思い出して辛いから敢えてそう言った。とかいった感じにすれば、全然大丈夫だよ」

「そうは言われてもなぁ・・・。てか星奈さ、よくそんなに案が思いつくな。もしかして、こういうのって得意だったりする?」

 俺は星奈に、失礼を承知で聞いた。「嘘、つくの得意なの?」なんて、質問する方もされる方も気持ちの良い事ではない。

 案の定星奈は怒ってしまった。

「は?何それ!人が折角考えに考えて、こうして色々言ってあげてるのに!!何、もしかしてくわっちって馬鹿?頭悪いの?こういう場の空気読めない奴って何やっても最終的に嫌われるから、気を付けた方がいいよ!?覚えときな!!」

 そう言って星奈は俺を睨みつけると、フンと鼻を鳴らし顔を背けた。

「ご、ごめん。別に悪い意味は無いんだ、本当に。ただ、さっき星奈のお母さんが言ってた事と、何か関係があるのかな?って少し気になって・・・」

 星奈に友達が少ない、というのは少なからずこういった事に原因があるのではないか?と俺は思い、気になってしまった。

 だからと言って今の場面でそれを質問するのはどうかと、自分でも思うが。口が勝手に動いてしまったというか。しかも俺には関係の無い事で、仮に肯定されてもどうする事も出来ない。

「ごめん・・・」

 俺は場違いな質問で気を悪くしてしまった星奈に謝る。それに対し星奈は、口を尖らせ困った様な表情で、

「まぁ、いいや。気になるのはしょうがないし。このタイミングでそれを聞くのは、どうかと思うけど」

 何とか許しは頂けた様だが、未だ星奈は不機嫌な表情のままだった。

「で、どうするの?今なら、あたしも協力してあげるけど?」

 星奈は話を戻す。それについては、まだ俺もどうしたらいいかわからない。

 未だ悩んでいる俺を見て、星奈は待ちきれなくなったのか、

「わかった!もう悩まなくていいから!その案で行こう、そうしよ!仮に上手くいかなかったとしても、あたしがちゃーんと責任取るから!!おっけー?」

 そう強引に話を進めると、星奈は俺に同意を求めてきた。

 俺は未だ考えが纏まらず、それに星奈の言った「責任」という言葉に反応してしまい、更に頭の整理が付かなくなってしまう。

 責任って何だ?一体どういった形で責任を取るのだろう?嫁に来るとかか?いやいや飛躍し過ぎだろいくらなんでも。香織とどう仲直りするか、その対処に失敗した責任が嫁に来るなんて。てか今そんな事考えてる場合じゃない。えっと・・・何だっけ?

 混乱してしまう俺。その間の無言を星奈はどう解釈したのか知らないが、

「うん、じゃーそれで行こう。決定!この話おしまい!!」

 俺の答えを待たずして勝手に話を終わらせた。

「え?ちょ、まっ・・・」

「うっさい!話は終わったの。大丈夫、上手く行くから、いや行かせるから!大船に乗ったつもりで、安心してこのあたしに任せなさい!」

 星奈は胸に手を当て、自信満々に言い放った。

 こんなん言われたら、俺も嫌だと言える訳もなく・・・。

「・・・、わかったよ。その代わり、頼むぜ?これ失敗したら、一生嘘つき野郎って見られるんだからな。それ以下かも知れない」

 観念する俺。一応釘を刺しておいたが、不安なのは変わらない。まぁ、星奈にも成功するっていう自信があるからこういい切れるんだろうが。

「わかってるって。てかあたしよりも、くわっちの方が大変なんだからね?これで上手く行っても、それからのくわっち次第では簡単にボロが出てバレるんだから。多分あたしもバレたらただじゃ済まないだろうし。諸刃の剣ってやつ?」

 あたしからも頼むよ?と、星奈は真剣な表情でそう言ってきた。そうか、星奈にもそれ相応のリスクはあるんだな。

 俺はまだ出会って間もない奴にこんなに尽くしてくれる、しかも場合によっては自分も痛い目を見てしまうかもしれないと言うのに。そんな奴と知り合えて、友達になれて良かった。と心底思い、感謝した。

「ありがとう・・・」

 頭を垂れる俺。それを見て星奈は、嬉しいようなそうではないような、居心地の悪そうな面持ちで、「いいよ、別に・・・」と視線を逸らしたのだった。

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