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第6話 俺、四天王専属カメラマンになる

 前回までのあらすじ。

 文化祭準備のリポート動画をコハルが撮ることになった。


 コハルは学園きってのインフルエンサー。広報においては適役だ。

 これで俺は一歩引き、裏方として機材の運搬でもしていればいいわけだ。


「そしたら、カメラマンは誰にしましょうかね」


 アキハ先輩に何気なく問いかけると、


「日村さん。あなたにカメラマンをお任せします」


「……え、 俺ですか?」


「ええ。これは生徒会長命令、兼、実行委員長としての公務です。火伏ひぶせさんの魅力を最大限に、かつ、最も自然に引き出せるのは、彼女と気心の知れたトーマさんしかいません。……もちろん、撮影機材は生徒会で最高級のカメラを用意します」


 俺は絶句した。

 カメラマン。つまり、ファインダー越しに、ずっと二人きり。

 

 いや、これ、あからさまにコハルルート確定じゃないですか!?


 先輩にSOSの視線を向けるが、菩薩の笑みしか返ってこない。神様仏様アキハ様! 俺に力を分けてくれ!


 アキハ先輩は微笑するのみである。

 いや、ちょっと愉悦の色がある。この人やっぱ結構サドだ。俺が翻弄される姿を特等席で見物したいらしい。


 俺がオロオロしていると、フユミがバシュッと手を挙げた。


「火伏さんと《《うちの》》トーマが放課後ずっと一緒となると、風紀的な面から見過ごしがたいものがございます。いらぬ誤解を招くやもしれません。また、予算管理の都合上、撮影機材を《《うちの》》トーマ一人に握らせるというのも、少し不安が残ります。ここは会計として私が同行すべきかと。持ち帰りのタスクがあっても、家が近い私であれば協力しやすいというのもあります」


 冷徹モードの滑らかな口上だ。

 が、独占欲がダダ漏れになってる。二回も《《うちの》》と言っていた。フユミも動揺してはいるらしい。


「ふむ」


 アキハ先輩は優雅に頷き、紅茶を一口飲んで、ほうと一息ついた。


「確かに、フユミさんなら日村さんの持ち帰り業務もサポート出来ますね。お家もお近いですし、合鍵もお持ちのようですし」


「んなっ!?」


「はい?」


「わお」


 フユミが動じ、シミズが問い返し、コハルが両手で口を覆った。


 あわあわとツインテールを揺らすフユミを、シミズがじっと見つめる。丸メガネの下のつぶらな瞳が見開かれている。


「……月澄さん。今、聞き捨てならないキーワードが、混入していましたね」


「い、いやぁ、その……」


「合鍵……。それは、月澄さんが先輩の家を自由に出入りする特権を秘密裏に濫用していた。そう解釈してもよろしいのですか?」


「それはまぁ、そう、そうなるけれども……」


 シミズの鬼詰めにフユミはたじたじである。

 フユミが俺以外の前で焦るの、初めて見るかもしれん。


「ふぅ〜ん。ほぉ〜ん」


 シミズは腕を組み、背もたれに体を預ける。


「そうですか。なるほど、そういう……」


「な、なによ」


「いいえ?」


「言いたいことがあるならハッキリ言ってよ!」


「どの口で風紀を語っていたのだろうと思いまして」


「ハッキリ言いすぎよ!!」


「理不尽」


 既得権益による独占だ、と非難するシミズ。

 やましいことは何もない、と弁明するフユミ。


「別に、まだ何もしてないわよ!」


「ふむ、『まだ』ですか」


「あっ」


 滑らせた口を押さえるフユミ。眼鏡を押し上げるシミズ。


 どうしよう、見る見るうちに修羅場になってく!


 アキハ先輩に助けを求めてみる。心底楽しそうにころころ笑っている。ダメだ、この人いまは愉しみたいだけだ。


 コハルの方へ視線をやる。パウンドケーキをむしゃこらむさぼっている。満面の笑みが、幸せいっぱい夢いっぱいと物語っている。


 俺の視線に気付くと、口の中のものを飲み込み、ナプキンで口を拭いてからこう言った。


「ぶっちゃけ、どこまでヤったん?」


 コイツなんてこと聞きやがる!


 まだ何もしてねえよ!

 いやまあキスはしたんだけども……。


「何もしてねえよ!」


 フユミを反面教師に、『まだ』を取り除いて応えた。


「な、なにもって……」


 フユミが紅潮させる。土曜日のあのファーストキスを思い返したようだ。俺もとっさに目を逸らす。記憶の断片が、脳裏でスパークしている。


「見せつけてくれますね……!!」


 シミズの声が震えている。

 ヤバい、爆発寸前だ。助けてアキハ先輩!


「皆様、よろしいですか?」


 アキハ先輩が声をかけると、その一言で、沸騰しかけた部屋が凪にまで落ち着いた。


「リポート動画は四部構成です。日村さんには、皆様全員の活動を平等に記録していただきます。つまり、フユミさんのクラスの屋台も、冷水さんの文芸部も、そして、私たち生徒会も。皆が日村さんのファインダーを独占できます……。皆さん平等ですよ」


 静寂。

 フユミとシミズは、ぐうの音も出ない。


 アキハ先輩の提案は、俺を潤滑油として全員の活動を円滑化するものだった。


 三人は顔を見合わせ、やがて渋々と、けれどもどこか期待を含んだ表情で頷いた。

 

「……わかりました。会長がそうおっしゃるなら」


「ナッシュ均衡を作るわけですね。従います」


「みんなで楽しく撮れるね!」


 三者三様の肯定。

 アキハ先輩は満足げに頷き、俺に鋭い視線を向けた。


「では、決まりですね。日村さん、今日から企画の細部について、火伏さんと密に相談を重ねてくださいね。……あまり彼女にピントを合わせすぎて、他の皆様を疎かにしないように」


 俺は赤ベコのように頷いた。


「よろしくね、カメラさん♡」


 対面のコハルが、小首をかしげてふわりと微笑む。その笑顔には、なにか妖しい魅力があった。何か狙っているような……。


 しかし。


「ハイよろこんで!」


 俺は威勢よく引き受けるしかなかった。

 

 レンズ越しに美少女四天王の姿を見続ける日々が始まる。


 俺は正気でいられるのか!?

 身が震える。視界が揺れる。ブレ補正って心の目にはないんですか!?


 誰か助けてくれー!

 心の中で叫んだところで、アキハ先輩の愉悦に満ちた微笑みに、すべて吸い込まれて消えていくのだった。


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