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【常世の君の物語】No.14:異朱 ~室町時代の摂津国、異朱という名の少年の物語~  作者: 百字八重のブログ


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第一話:出会い

一筋の涙が、頬をついと流れた。


異朱いしゅはそれを片手でぐいとぬぐうと、むくりと起き上がった。

「おや、起きたかね」

いつの間にやら眠っていたらしい。

囲炉裏の向かい側に座っているおばあが、くしゃりとした笑顔でこっちを見ている。

中央の鍋では、おばあ特製の吸い物がぐつぐつ音を立てている。

立ち昇る湯気ごしにおばあを見定め、異朱は「おなかすいた」とぼやく。

するとおばあは「はいはい」と言って吸い物を椀に注ぎだした。

異朱は寝ている間自分の上にかけられていた上着に袖を通す。

二人だけの、静かな小屋である。


腹ごしらえをして外に出てみると、ちらちらと雪が舞っていた。

吐く息は白く、長い間、外に出ていると凍えてしまうほどに寒い。

空は一面灰色で、どんよりと重たい雲が垂れこめている。

異朱は町の方へ向かって歩き出した。

目的は無かったが、人の集まる、あたたかい方へ行きたかったのだ。

雪の舞う中を、異朱は体を丸めながら進んでいった。

すると、途中の小さな池の横を通り過ぎた時だった。

ひとりの男の子が道の真ん中でうずくまっているのにぶち当たった。

「おい、どうかしたか」

道の上には二人以外誰も見当たらない。

無視するわけにもいかず、異朱は声をかけた。

「ああ、ちょっと足を痛めてしまって」

見ると、男の子の左足が腫れているように思われた。

「痛いのか」

異朱が尋ねる。

「ええ、だいぶ」

男の子が渋面で答える。

「帰る家はあるんだろう?送って行ってやるよ」

寒空の下、二人の少年の上に雪が舞い落ちては溶けてゆく。

「え、いいんですか。ありがたい」

そう言うと、男の子はぱっと笑顔を見せた。

くったくのないその笑顔に若干気圧された異朱は、思わず苦笑いを返す。

「俺は異朱という」

「僕は歌丸」

この時の出会いを、異朱は後になってたびたび振り返ることになる。


歌丸と名乗ったその少年は、よくしゃべり、よく笑った。

なんでも、自分の家系はちょっと珍しい家系で、代々ひとつの仕事に従事しているという。

その仕事は何だと尋ねると、秘密だと言う。

自分は棟梁の跡取り息子として大事に育てられているのだと言い、今日はひとりで町をぶらついて帰る途中だったと言った。

ぺらぺらとしゃべる歌丸の言を、異朱は言葉少なに、けれど大いに好奇心をもって聞いていた。

不愛想な異朱は、村の子供とは仲が良くはなかった。

話し相手はいつもおばあで、同年代の子供たちからは仲間外れにされていた。

気位の高い異朱は、それでもいい、おばあと二人で生きてゆくのだと思っていた。

だが、この目の前の歌丸という少年は、そんな異朱の懐にすっと入り込んできた。

初対面だというのに気の緩んだ笑顔を見せてはばからないその姿勢に、きっとこいつの一族の仕事というのは客商売、しかも相当位の低いもので、誰彼かまわず頭を下げなければならぬものだろうと、異朱は当たりをつけた。


歌丸の家は相当な山奥にあった。

たどり着いてみると、そこは何本もの尖った丸太をつなぎあわせた柵で囲われており、門には物見小屋がついていた。

「歌丸、帰りました」

歌丸は物見小屋に向かってそう叫んだ。

「おう、そのぼうずは何だ」

物見小屋の上から、黒装束の男が顔を出し尋ねる。

「怪我をしたので送ってもらいました。恩人です。中でお礼がしたいです。入れてもらえますか」

そう歌丸が言うと、男は物見小屋を降りて行った。

しばらく待っていると、男が戻ってきて、「いいぞ、入れ」と言った。

目の前の重そうな門が、音を立てて内に開く。

異朱に肩を抱かれながら歌丸の案内で二人は柵の中に歩を進めて行った。

門の内側にいた男たちが、「おう」とか「よう」と言った声をかけてきた。

それを受けて、歌丸は「ただいま帰りました」と律儀に礼をとっている。

その様子を見て、なるほど、歌丸はこの村で特別な扱いを受ける子供なのだと、その肩を抱きながら異朱は思った。


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