#1 揃う
雨。
新月の夜。
銃声と足音が響く。
「次!来んぞ!」
「はいはーい。」
雑な返事をしているけれど、表情からは余裕が見て取れる。現に、追手の数人を軽く拳銃で処理している。
「こいつっ!そっち側か!」
「少なくとも、ね。」
数回瞬くといつの間にか二人によって追手は全員伸びていた。伸びているのか死んでいるのかはわからないけど。
「はあ…めんど…で、依頼のガキはどこに…あ、いた。ついてこい。」
「…」
手を引かれて何処かに連れて行かれる。
慣れていた。
裏にとってあたしは貴重で金になるみたい。
Re:code
#1 揃う
昨日の夜が嘘だったかのように晴れている。
「でー、これが例の子供ね。こんな子供で、一体何すんの?」
彼女、九条葵衣は、便利屋を営んでいる。内容はボランティアのようなものから”裏”の仕事まで。
「まあまあ、これが金になるらしくてね、とある組織の異能の研究の副産物だって。」
「聞いたことあんな、確かどっかの組織のなんかの研究でできて、頂点の異能を持ってるって。」
「科学で約700万の異能者の頂点に立てる異能を作れるはず無いでしょ〜、夢見んのも程々にしなよー」
依頼人、リラは静かに怒りながら訂正する。
「あのね…夢じゃなくて実際に証明されてるのよ!この異能は頂点に立てるって!裏の資料にも書いてあったじゃない!」
「資料って、こないだ盗ってきたあれか?」
「そう、そのあれよ!」
「あのさー、いちいち盗ってきたものの内容なんか見ないし。そんな紙切れに時間割けるほど暇じゃないし、めんどくさいし。」
ふつふつと怒りが込み上げているリラが便利屋の従業員である朔の脳天を一発殴る。
「なんで俺!?」
「あのね、普通そういうの見るのよ…そんな不用心じゃいつか足元すくわれるわよ!」
「いつかっていつ?私この業界で二年やってきて足元すくわれたことなんてないし、そんな不用心でもないでしょ?」
「その書類がもしめーっちゃ重要で、盗った瞬間国中から狙われるものだったらどうするの!?」
リラが一人で喚いているが知ったこっちゃない。
「もし、ならの話は時間の無駄だって。だから夢見るなって言ってんじゃん。」
「あのねぇあんた…」
その間にも少女はリラの家の食器棚からコップを取り出してジュースを注いで飲んでいた。
「ちょっと!ここあたしの家なんだけど!」
「連れてこさせたのあなたでしょ?招待されたのも同然じゃない。」
「ぐっ…」
「リラお前、ディベート弱いな…」
無意識に煽る朔をもう一発殴り、リラが少女を指さして叫んだ。
「やいあんた!あんたがここにいる限りあたしの指示に従ってあたしの言う通りに動いてもらうわよ!わかった!?」
「わからない。」
「それどっちも同じ意味だよ?」
葵衣と少女から煽りを入れられたリラはとうとうキレたようで、葵衣のでこに一発デコピンを入れて少女を脅す。
「あのね、次生意気な態度取ったら痛い目見せるからね?」
「痛い目に遭うのはどっち?」
その瞬間、リラの目をも抜く速度で駆けた少女はリラの足を崩し、顔面に一発蹴りを入れる。さらにその攻撃でバランスを崩したリラの眉間に銃口を向ける。
「!?」
「あんた…どっから銃をっ!」
「わかったでしょ?あなたじゃわたしには勝てない。」
(馬鹿だし間抜けとはいえ、あの異能を持つリラを崩した…!)
それにリラはこんなでもなかなかの手練だ。そのリラを崩したということは少女は相当の実力だろう。
「朔、なんとかして。」
「俺が?あー、確かに葵衣だと致命傷に…」
「はい、さっさと動く。」
「あいよっ!」
気だるげだがたしかに早く、その手は少女の喉元へと伸びる。
「なっ!」
少女はリラから素早く距離を取り、後退しながら朔と向き合う。素早く銃を朔へ向けて一発、反動をそのままに横方向に移動して再度朔と向き合う。
「動きは敏捷だが、そんなバレバレな弾じゃ仕留めらんないよ。」
少女は懐からナイフを取り出し、地面を蹴って朔の方向へ駆け出す。右手は伸ばし、しっかりとナイフを握っている。左手には銃を構え、姿勢を低くして飛び出す。
(銃を押さえればナイフで刺される、避けてもナイフを止めても銃で打たれる、この子、才がある…!)
「ふっ!」
朔は飛び上がり、少女の攻撃を躱し、そのまま少女の背後に回り込む。
「甘い。」
朔の後頭部をテーブルにあった花瓶が直撃する。それは何らかの外的要因で引っ張られ、物理法則を無視した軌道で朔を攻撃した。
(異能か…物体を操る…そんな能力があるのか…?いや、高値で取引されてるっつーことはありえない話でも…)
「ただ、あんたのほうが俺を舐めてたね。」
三方向からの異能による攻撃。更にリボルバーによる下からの射撃。
隙を生じぬ攻撃だ。よく考えられているが、朔の方が一歩上を行く。
「!?ワイヤーっ…」
朔が射出したワイヤーに少女は驚き一歩下がる。が、同時に回り込んでいた葵衣に両手を捕まれ、床に倒される。
「はーい捕まえた、あんたが強いのは認めるけど、私の方が上だったね。」
「やったのほぼ俺なんだけど…」
「指示したの私だから成果は8:2で私だし。」
「何その理屈…」
落ちた家具の片付けをしていたリラが立ち上がって朔と葵衣に近づき、思いっきりげんこつをかます。
「人の家をめちゃくちゃにして…あんたら何してくれてんのよ!!」
「「やったのこのガキだし」」
少女は驚きと焦りの混ざった顔で朔と葵衣を見ている。
「誰が払うかは知らないけど、キッチリ弁償してもらうからね!」
「じゃ、代金から差し引いてよ、割引したいんでしょ?」
手っ取り早くそうしたらいいでしょとでも言いたげな顔で呆れながらそう答えた。
「さっすが!わかってるじゃない!」
(弁償での差し引きって割引にならないんじゃ…)
朔は心の中で静かに思ったのだった。
「あなた、便利屋なの?」
「へ?」
葵衣が力を抜いた一瞬の隙に拘束から抜け出した少女は葵衣を指しながらそう問いかける。
「そうだけど…何?」
「依頼、組織を一つ…潰して。」
少女は一度視線を落とし、再び冷たい目でこちらを見つめてそう依頼した。




