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巨神の野良仕事

 先日、オデッセイ様が自らのお手で土を掘り、戦死したエルフたちの墓穴を掘ってやっている光景も、まことにありがたく、神秘的なものであったが……。

 今日、コクホウからほど近い山間部において、御自らが作り上げられた石製の短剣を土に突き立て、邪魔な森林を掘り起こしてやっている様もまた、神々しいものである。

 いや、それ以上に、力強さの方を感じるか……。


 分かっていたことではあるが、いざ実際に野良仕事をやってみると、オデッセイ様の働きぶりというのは、エルフの百人や千人を優に超えたものであった。

 通常、山林を切り開く作業というのは、障害になる木々を切り倒し、残った切り株も掘り出して……という具合に、想像するだけでうんざりするほどの重労働となる。


 魔術を使えば多少はマシにこそなるものの、結局、エルフの魔術でできることというのは、風の刃を発生させて木を切り倒したり、土を掘り起こしたりといったことくらいだ。

 しかも、個々の魔術師が使う術となると、対エルフや獣相手ならば相応の殺傷力こそ得られるものの、土木作業で求められる莫大な力を生み出すには攻城魔術規模の人員が必要となってしまうのであり、本当に多少マシになるくらいなのだった。


 そのようなわけで……。

 おそらく、オデッセイ様がこなす仕事量をなんらかの形で数字にしたのならば、エルフ1億人分へも達するに違いない。


「本当に、圧倒的な力……。

 オデッセイ様が……いえ、テツスケ様がその気になられたら、その辺の小さな山ならば、1日で緑を失うのではないでしょうか?」


 見識を深めるため……という名目でテツスケ様に食べてもらう弁当を持参してきたサクヤは、監督する父の隣でそうつふやく。


「あながち、大げさな予想ではないかもしれん。

 そもそも、エルフが普通に木を引き抜こうとしたならば、まず上の部分を切り落とさねばならないもの。

 巨神様に……オデッセイ様に、その必要はない。

 ただ、根ごと掘り起こして引き抜くだけだ。

 木を切る過程、倒す過程、切り倒した幹を撤去する過程、切り株の周囲を掘り起こす過程、切り株を総出で引き抜く過程……。

 これら、ひとつひとつが複数のエルフでかからねばならない工程を、ことごとく短縮しておられる。

 ただ力が強い、というより、効率がよいのだな。

 それらが、工事の早さへ繋がっている。

 しかも……」


 ちらり、と父ヤスヒサが目にしたのは、オデッセイ様が根ごと引き抜き、積み上げている木々だ。


「これらの輸送も、ただ抱えて持ち歩くだけよいときた。

 いや、はや……。

 本来予定していた工事ではなきゆえ、他に影響はない。

 だが、もしオデッセイ様が従来の野良仕事などへ関わってくるとなると、失職してしまう者が出るやもしれんな」


「テツスケ様のことですから、そこはよく考えておられるかと。

 木材も、無駄なく使われるのですね」


「うむ。

 お前は知らぬだろうが、木材というものは一番が斧で切り倒したもの、二番がノコギリでひいたものと決まっている。

 わしも職人ではないから詳しくはないのだが、いざ板などへ加工した時、粘りに差が出るのだそうだ」


「そこへいくと、オデッセイ様が引き抜かれた木々は、極上の木材となりますか?」


「いや、それも分からん。

 この辺りは、あまりエルフの手が入っておらぬのでな。

 そもそも、木としてあまり成熟しておらぬ可能性はある」


 親子で、そのような会話を交わす。

 目の前では、またも新たな木を引き抜くオデッセイ様の雄々しき姿……。

 そのようなものを目にしていながら、利益の話をしてしまうのは、為政者とその娘の背負った性というべきだろう。


「あの石の短剣も、オデッセイ様の力によく耐えている。

 あれなら、岩を選別した山師も胸を撫で下ろすでしょう」


「うむ。

 テツスケ様が言うには、オデッセイ様の指の隙間に土が入るのは、あまりよくないことだそうだからな。

 ナノ……なんとかの働きでかき出すのは容易だそうだが、そもそも、オデッセイ様の御身をいたわるに越したことはあるまい」


 父と共に、オデッセイ様が手にしている石の短剣について話す。

 その間も、復活した巨神はまさにその短剣を地面に突き立てていた。

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