石を持つ
子供の頃、夢中で遊んだゲーム。
俺が生まれたよりさらに大昔の、テレビゲーム黎明期に生まれた人間ならばともかく、それ以降のデジタル文明社会においては、誰もがそんなゲームタイトルの1本や2本は思い浮かぶものである。
同時にこれは、出会って間もない人間同士が親睦を深める上で、鉄板な話題のひとつ。
任地を転々とする中で、実に様々な人間とこの話題で盛り上がったものだ。
一番多かった……なんならば、大人になった今でも趣味にしているという人間が多数いたのは、いわゆるFPSゲーム。
とりわけ人気が高かったのは、オンラインで多人数がバトルロワイヤルを繰り広げる形式のもので、これに影響を受けて軍に入ったという人間は結構多かった。
続いて多数を占めたのが、日本初の元祖テレビゲームメーカーが販売していた各種タイトルだ。
列島崩壊で母国を失っても、クリエイターはしぶとい。
かの会社はニューヨークに拠点を移し、配管工や黄色の電気ネズミが活躍するゲームを作り続けていたものである。
もちろん、俺も遊んだことはあった。
一番好きなのは、カートでレースするゲームだな。
そして、これも侮れない数を占めていたのが、俗に言うサンドボックス系ゲーム。
――サンドボックス。
特定の目的は設定されておらず、例えば無人島など、通常の文明からかけ離れた場所へ放り込まれたプレイヤーが、周囲の自然物などから必要な道具と物資を作り出し、サバイバルするゲームの総称である。
まあ、サバイバルといっても、大抵の場合は序盤の数日で生活基盤が整っちゃうから、あとはテーマパーク作ってみたり、オリジナル古代遺跡を作ってみたりという具合に、建築シミュレーション化していくんだけどな。
で、俺自身も小さい頃に大好きで、色んな縛りプレイなどを試したのが、このサンドボックス系ゲームであるわけだが……。
オデッセイが置かれている現状は、まさにこの種のゲーム序盤におけるプレイヤーキャラと酷似していた。
装備は、シャツや下着など最低限のもの――アイテム欄的には素っ裸――のみで、道具は何一つ所持していない。
ソーシャルネットワークゲームにおける初期アバター状態ともいう。
何しろ、様々なオプションアイテムやアクセサリが存在するオデッセイなので、本当に一切が初期状態の個体というのは、極めて珍しく……。
あるとすれば、工場から出荷された直後がせいぜいというこの状態は、パイロット間でバニラと呼ばれていたものだ。
チヨを送り届け、サクヤとヤスヒサへの説明も済ませて数日……。
ガルゼ側や、あるいは周辺諸国のリアクション待ち状態な俺が取り組んだのは、このバニラ状態を解消することであった。
端的にいえば、クラフト。
サンドボックス系ゲームにおける初手の行動というのは、大体が、素手でそこら辺の地面を掘ったり、木を破壊――超人の血清でも打ったのかとつっこんではいけない――したりというものであり……。
そこから次のターンへと移行する。
それこそが、クラフト……道具作りだ。
と、いっても、一切を持たない徒手空拳状態では、作れるものなどたかが知れていた。
材料がないと何も作れないのは、現実もゲームも一緒。
ゆえに、何も持たないプレイヤーキャラは、かつての超大昔……同じく何も持たなかった我々の祖先が取った行動を、なぞることになる。
すなわち……石器作りによって。
そこら辺の石と木材を組み合わせ、最初の拠点となる寝床を作り、生活基盤確保に乗り出す……飽きるほどやったことだ。
そのうち、寝床の確保などサバイバルに関しては、訓練でやはり飽きるほどやっていた。
だが、それらを行うための第一歩……石器作りに関しては、さすがの俺もゲームでしか体験していなかったのだが……。
「ふっふっふ……完成だ!」
オデッセイ自らで掘り出した固めの岩石を打ち合わせて作った石の刃と、これは職人さんに用意してもらった木材製の柄及びロープ。
これらを、オデッセイ自慢の器用さで組み合わせて作ったナイフ!
イメージ・コントロール・システムにより、俺の思考を読み取ったオデッセイが、完成した刃を高々と掲げる。
そのまま、ブンブンと振ってみたが、職人さんの指導により結び合わせたロープは、オデッセイのパワーでもしっかり柄と岩石の刃をつなぎ合わせていた。
「うーん、カッコイイ」
何事も、自分で作ったものは見栄え良く映るもの。
俺の意思を反映したオデッセイは、しばらくうっとりとするようにお手製の石器ナイフへ見入っていたのである。




