白き戦神 2
攻城戦における華といえば、やはり魔術師団を導入しての大規模魔術を置いて他にないが、かといって、それ以外の攻め手が研究されていないかといえば、それは違う。
剣を持たせれば、誰もが戦士を名乗れるというわけではないように……。
エルフなれば誰もがマナを感じ、操れるわけだが、魔術師を名乗れるほどの術巧者は数少なく、多くは俗に劣等者と呼ばれる類の者となる。
つまり、魔術師団を維持するのは容易でなく、なんらかの理由によりこれを運用できなくなった場合、大規模魔術にのみ頼っていたならば、城攻めの手を失うということ。
そういった事態を防ぐために、ガルぜは――おそらくは他の武将家も――様々な攻城兵器を研究していた。
投石機というのは、その代表格である。
本体そのものも数名がかりでなければ動かせないほどに重く、また、発射するための岩も運び込まねばならない都合上、丘陵地帯であるこのコクホウ攻めには置いてきたが……。
からくり仕掛けによって放たれる岩石のもたらす破壊力たるや、絶大なり。
高々と打ち上げられた岩石は、高所から落下する力と自身の重量によって、魔術のそれに劣らぬ威力を見せつけたのだ。
ガルゼ四天王の一人として、現状の練兵だけでなく、これからの軍拡も視野に入れなければならない立場であるヴァヴァは、実験の成果に胸を高鳴らせたものであった。
何より気に入っているのは、劣等者であっても、使用に貢献できるということ。
狙いを付けるには相応の算術能力が必要となるため、最重要な打ち手は専門のエルフでなければならなかったが、逆にいえば、狙いを付ける以外の部分は徴兵した百姓であってもでき得るということだ。
それはつまり、凡夫に魔術師並みの働きをさせられるということ。
射出され、落下する岩石に、ヴァヴァはガルゼの未来を見たと思ったものである。
だが、今、そんなものなど足元にも及ばぬ恐ろしいものが、コクホウを囲う城壁の向こうから飛び出してきていた。
あまりに猛烈な勢いであったため、全容を瞬時に掴むことはできない。
ただ、恐るべき重量の何かが、空に飛び上がったことだけは、生物としての直感で理解できたのである。
「――おおおっ!?」
首の骨が折れるのではないかという勢いで空を見上げ、ただ、驚きの声を上げた。
果たして、城壁の向こう側から飛翔し、今、上にいるのは……巨大化したエルフのごとき存在だったのだ。
ただし、生身のまま大きくしたわけではない。
その全身は、摩訶不思議な光沢の金属によって構成されていたのである。
全体的な印象――あるいは造形――として感じるのは、戦士という言葉であった。
「――巨神像!?」
――鉱山都市コクホウに祀られし巨神の像あり。
ヴァヴァ自身は見たことがないものの、同都市における名物でもある巨神の像に関しては、噂で聞き知っている。
なんでも、無辜の民が危険に晒された時、巨神は像であることをやめ、戦うのだとか……。
どうということもない言い伝えであり、実際はただの造り物だと思っていたのだが……。
これは……これは……伝承が現実であったとしか、思えない!
しかも、これだけの思考が巡る間も、巨神は高度を増しており、今ようやく、最高到達点に達したようなのだ。
そうなれば、どうなるか?
「落ちてくるぞおおおおおっ!?」
「逃げろっ!」
「押すな!
――わっ!?」
ヴァヴァと同じように頭上を見ていた将兵が、慌てて逃げ出す。
中には、慌てるあまり、重なり合って倒れる者の姿もあった。
――ズズンッ!
投石機の岩など、比べ物にならぬほど重い音!
しかし、この辺りに特徴的な赤茶けた土が思ったほど巻き上げられなかったのは、意外や柔軟な膝関節によって衝撃を受け止めたからであるようだ。
しかも、巨神は攻城戦の宿命として兵が密集している城壁付近を避け、よりこの本陣側へ近い空いている場所へ着地したようだったが……。
それが意図してのものか、単なる偶然か、ヴァヴァには計り知れない。
ただ、ガルゼ四天王の一人は、己の勘働きに従ってこう叫んだのである。
「――総員退避ィッ!
太鼓も撤退の合図を鳴らせいっ!」