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旧人類最後の一人となったおっさんパイロットは、ファンタジーと化した世界で人型機動兵器を駆り無双する!  作者: 真黒三太


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TIPS:富士クレーター

 最高時速120キロ。

 それが、カタログ上におけるオデッセイの全速力である。

 踏み砕く心配がない強化アスファルト製の道路で、遠慮なく走ることができた場合に発揮できるスピードともいう。


 言うまでもないが、スピードを出すにはマシン側のスペックだけでなく、どれだけ道が平らにならされているかが重要だ。

 良い道なくして、良い走りはなし。

 モータースポーツの歴史は同時に、舗装技術の歴史でもあるのであった。

 ……余談だが、そういった理由によりレーシングサーキット内は通常の道路と異なる特殊な舗装となっているため、なんの心得もない素人が立ち入ると、容易にコケる。

 戦意高揚を狙った報道部の要請に従い、『自転車からロボットまで』のフレーズでおなじみ、マスタービーグル社が発売する新車のCM撮影をした際、ものの見事にコケたこの俺が言うのだ。間違いない。


 とまあ、長々とした上に、かつてここらの山脈を走っていたはずの道路ばりに紆余曲折とした説明には、なってしまったが……。

 ガルゼ軍が撤退で使用した街道及び人里は当然として、山林の生態系も荒らさないように気をつけつつ走行させているオデッセイは、時速30キロから50キロの間を推移する程度の走力で、道なき山と森の中を駆け抜けていたのであった。


 そうすると、自然、ある場所を通ることになる。

 三千年と少し前――俺が生まれる前だ――この場所は、日本で最も高い場所として知られ、霊峰の名を欲しいままにしていたという。

 日本という国家においてはシンボル的な扱いをされており、例えば葛飾北斎など……同国で生まれ育った芸術家たちが、数々の作品にその姿を残していた。

 逆に言うと、かの山が誇った威容は、そういった芸術作品や、あるいは映像データにしか残されておらず……。

 文明どころか、生粋の人類が見当たらないこの三千年後世界においては、俺の記憶以外からその存在は消滅してしまっているのだが。


 もっとも、データという形でその姿が保存されていたとして、どれだけ効果があったかはやや疑問だ。

 広島や長崎の愚行を忘れ、人類が再び大量破壊兵器へ手を出したことから分かる通り……。

 喉元過ぎれば、忘れてしまうのが人間。

 まして、その存在が完全消滅してしまったとあっては、仮に人類文明がこの三千年後世界で続いていたとしても、もうマウントフジの名は忘れ去られていたんじゃないだろうか?

 おそらくは、もっとも悲惨な消え方をした世界遺産として、教科書に1行綴られる程度……。


「今は、地獄の大穴と呼ばれているんだったか……。

 三千年と少し前、ここにはでっかな山がそびえていただなんて、サクヤたちが聞いても信用しないんだろうな」


 俺の操縦に従い足を止めたオデッセイが見下ろすのは、超巨大な――クレーター。

 いや、窪池と言った方が正しいか。こんなでかい窪池など、他には世界のどこにも存在しないことを願うが。


「自然は偉大だ。

 ナノマシンに食われて分解され、剥き出しの地面が広がるだけだったこの富士クレーターに、再び命が根付いている」


 俺が言った通り……。

 遥か中心部に向け、急角度の傾斜を描く地面には、草木が繁茂し、動物たちの暮らしがあった。

 それを見ながらこんな独白しちまうのは、やはり、俺に流れる日本人の血が働きかけているからだろうか。

 かつてここに広がっていたもの……。

 直径キッチリ40キロ。

 中心部の深さが実に1500メートルへ達していた荒れ地を思い出しながら、つぶやく。


灰の鍵(グレイ·キー)……。

 自己増殖型ナノマシン爆弾。

 環境を汚染しない大量破壊兵器によって、富士山が消滅。

 ナノマシンの分解によって発生した大量の灰が巻き上げられ、列島中へ降り注いだ結果、日本という国家は消滅した。

 ――列島崩壊事件。

 これだけ草木が生い茂っている状態で地獄の大穴呼ばわりされてるのは、エルフの皆さんも本能的な恐怖を感じているからかな。

 ただ単に、中心部が地獄の底みたいな深さだからかもだけど」


 オデッセイの音響センサーが捉えるのは、木々がざわめく音や、小鳥のさえずり……。

 地獄と呼ぶにはいささか牧歌的な光景だが、これはあくまで天然自然が持つ自己修復能力の賜物であり、こうなるまでに、途方もない年月がかかったのであろうことを忘れてはならない。


「この光景を生み出すに至った技術が、この三千年後世界の現状とまったくの無関係。

 ……なんてことはないんだろうな。多分」


 答える者などいない推測を漏らす。

 ただ、()()()()()()()()()()で済んだのは、ナノマシンのプログラムに時限性を持たせ、活動許可範囲も絞ったため。

 あれは、その気になれば世界を滅ぼせる技術と呼ばれていたのだ。


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