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旧人類最後の一人となったおっさんパイロットは、ファンタジーと化した世界で人型機動兵器を駆り無双する!  作者: 真黒三太


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巨神とヴァヴァ 2

 ――まるで……。


 ――空が落ちてくるかのような……。


 ガルゼ四天王の1人、ヴァヴァが感じている圧迫感というのは、まさしくそのようなものであった。

 大げさな例えではない。

 見上げれば、視界そのものを埋め尽くすかのような鋼鉄の上半身が、日差しを遮っており……。

 橙にして半透明な面で覆われた頭部からは、ハッキリと視線を感じられるのだ。


 どうして、およそ感覚器といったものが存在しない顔を向けられて、視線など感じられるのか?

 それは、突き刺さるような意思が向けられているからであった。

 視線には、意思が宿る。

 何も言わずじっと見つめられている時に、ふと視線を察知できるのはそれが理由だ。

 翻れば、同種の意思が向けられていれば、それは視線であるということ……。

 間違いない。

 この巨神は、どうやってかは知らないが、面覆いの外にある世界をきちんと捉え、把握しているのであった。


 もっとも、冷静に考えてもみれば、初めて動いた時もコクホウの大城壁を飛び越え、ここに至るまでの道中もあえて里や森を荒らさないようにしていたのだから、視力を宿しているのは明白であったが……。

 このようなエルフの知を超える存在が目覚めた現場に立ち会い、その脅威でもって万に達する兵の軍団を敗走させる羽目になり、今また、いかなる理由によってか追跡され、たやすく追いつかれたヴァヴァに、そのような冷静さを求めるのは酷というものであろう。 

 今、ガルゼ屈指の戦士にできることは、ただ胸を張って、巨神の視界があるだろう箇所を見つめ返すことのみなのだ。

 もっとも、歯は震えてしまわないよう必死に奥歯を噛み合わせている状況であるし、顔からは常のふてぶてしくすらある平静さが失せ、泣き笑いを半端にこらえているかのような様であったが……。


挿絵(By みてみん)


 だとしても、一軍の代表として立ち、巨神と向かい合えているのは、さすがガルゼ四天王というしかない。

 周囲の戦士は得物を握ろうとしても腰が引けている状態であり、魔術師団たちもまた、どうにか魔術を発現しようとして、心の奥から湧き上がる恐怖にかき消されている状態なのだから……。


「……コクホウの巨神とお見受けいたす」


 ついに軍を見下ろせる位置にまで到達した巨神が、空を覆うようにしながらこちらの様子をうかがい始めてから、どれだけ経ったか……。

 ほんの数秒であるようにも思えるし、数刻であるようにも思える時間を切り裂くように、ヴァヴァがその言葉を発した。

 発してしまえば、後は喉の奥から自然と漏れ出るのが、決まり文句というもの。


「我が名はヴァヴァ!

 自らこれを名乗るはおこがましいが、世に聞こえしガルゼ四天王の1人なり!

 ――コクホウの巨神よ!

 御身がこの地まで駆けつけしは、自らが眠りし地を荒らす者たちに鉄槌を下すためであるとお見受けする!

 しかしながら、ご存じだろうか!?

 兵として徴収されし者の大部分は、平時農民として暮らす者であるのが、今の世というもの……。

 そして、残る戦いを生くる場と定めし者たちも、あくまで、我ら上に立つ将の命令に従って動くものなり!」


 そこまで叫び、一旦、巨神の様子をうかがった。

 視線などと違い、相手が聴覚を持つ生き物であるかどうかは、傍から見て判別するのが難しいものだ。

 例えば、笛を使うヘビ使いの技があるが、学者が詳しく調べてみたところ、ヘビという生き物に耳は存在しなかったと聞く。

 そして、見上げた巨神の頭部には、やはり、エルフのごとき長い耳や、その他の獣が備えるような耳はない。

 なら、この口上は聞こえておらず、ただ単にヴァヴァが叫んでいる姿を見て、興味が湧いただけという可能性もあったが……。

 どの道、他にできる手立てはないので、聞こえ、言語が理解されているという前提で続きも話すことにした。


「……お分かり頂けるだろうか!?

 つまり、俺の周りにいるこやつらがこうしてここに立っているのは、その実、こやつら自身の意思ではないということ……!

 加えて申し上げるならば、彼らが行ったコクホウ攻めもまた、自身の意思ではない!

 ――俺だ!

 俺という愚かな将の命令に従い、結果、御身の怒りを買う結果となった!

 要するに、全ての責はこのヴァヴァにのみこそあるわけであり、他の者たちは皆、被害者なのである!

 ――コクホウの巨神よ!

 制裁を加えるならば、我だけに留められたし!」


 ヴァヴァが、そこまで言い切ると同時……。

 しん……とした静寂が、辺りを包み込んだ。


(さあ……どうなる!?)


 己の運命を、見上げた視線で問いかける。


『ふ、ふふ……』


 すると、口など存在しない巨神の……エルフで言うなら、耳の付け根にあたる部分から、確かに言葉が漏れてきたのだ。

 そしてそれは、何かの膜を通しているかのような変質した雰囲気こそあったものの、確かな力強さを誇っていたのであった。


『――はっはっはっはっは!』


 そうして放たれたのは――笑い声。

 お読み頂きありがとうございます。

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