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旧人類最後の一人となったおっさんパイロットは、ファンタジーと化した世界で人型機動兵器を駆り無双する!  作者: 真黒三太


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コクホウの祭り 3

 ひょっとしたら何かしらの法則があったのかもしれないが、少なくとも、俺の目にはそれぞれが好き勝手踊っているようにしか思えなかったコクホウ民の皆さん……。

 彼らが広間からはけると同時に、あれだけ賑やかなだった楽器の音色も止められる。

 それで訪れるのは、しん……とした静寂。

 こういった静謐さには、覚えがあった。

 一糸乱れぬ行進の末に整列する俺たちを、連合軍のお偉いさんが見下ろす時のアレだ。

 敬服すべき相手に対して、人間という生き物は沈黙と静けさをもって迎えるのである。


 その法則に照らし合わせると、この広場はまさしく、何がしかのVIPを迎える直前ということになった。

 しかし、分からないのは……それが果たして、どのような人物であるのかという点だ。

 だって、そうだろう?

 このコクホウという都市で最も偉い人間であるヤスヒサは、最初からこうして山車(だし)の上にいるし、今最も重要な人物であろう俺も同じくそのお隣である。

 次点として、お姫様であるサクヤも要人に挙げられるが、彼女も今は同じく山車の上であった。

 つまり、そうまでして迎える相手というのが、俺には思いつかないのだ。


 つっても、現在の日時は西暦5738年10月27日――曜日の概念が同じなら――月曜日。

 実のところ、コールドスリープから覚めてまだ一週間と経っていない。

 例えば、集団葬儀の時にお経唱えてたお坊さんたちともしっかりとした面識はないし、俺の知らぬ要人がいたとして、まったくおかしくはないのだが……。

 しかしながら、結果として、その予想は外したという他にない。

 弾むような足取りで広場に姿を現したのは、俺の知っている女性だったのである。

 知っていたのは、顔と服装……ひいては、それで明らかな体つきだけだけど。


「あれは……」


「旅の巫女ですな。

 巫女の中には、ああして各地を旅する者もいます。

 多くは芸事に秀でた歌舞巫女であり、このような場で歌や舞いを披露することにより、路銀を得ているのです」


 ――あのクソエロイ巫女さん!


 ……という言葉をすんでのところで飲み込んだ俺に対し、ヤスヒサが穏やかな声で解説した。

 ふう……危ない危ない。

 俺としては、こう、ダンディ路線でやっていきたいのだ。

 大胆に露わとなっている脇!

 どういうわけか、チャイナドレスじみたスカート部分が外され御開帳されているハイグレじみた下半身部分!

 これらを見せびらかすようにしながら、妖艶な笑みの美女がゆったりと広間に姿を現したとしても、表情一つ変えることなく、眼差しだけでガン見しなければ……!


 なお、そう考えているのは俺だけではない。

 隣に座っているヤスヒサもそうであるし、下で警備しているシマヅさんなんかも、そういうオーラを漂わせている。

 なんなら、さっきまで踊っていた人々の半分――つまり男性陣もまた、きりりと顔を整えつつ熱視線であった。


「うふふ……」


 急に響く笑い声……!

 サクヤさん……口元を隠して笑い始めてどうしたんですか……?


「うふふふふ……」


 その笑い方、妙に圧があるというか、ドスが効いていておっかないっすね。

 いけない……顔だけでなく、心すらも整えなければ……。

 こういう時に思い浮かべるのは、エロから最も程遠きもの……。

 すなわち……俺をコールドスリープにしやがったクソ野郎ことヒルベルトの顔!

 ……うん、腹立ちすぎてスン! という気分になった。


 だが、結論から述べるならば、わざわざそうまでして心を静める必要は一切なかった。

 この場に集った奏者の中でも、腕利きが鳴らしているのだろう笛の音……。

 それに合わせて舞う巫女さんの姿は、俺の心中からあらゆる不浄なものを流し去るくらいに、美しく厳かなものであったのだから……。


挿絵(By みてみん)


 白く長い袖を咲き誇る花弁のようにしながら、裸足で赤い土がむき出しとなった広場を舞う巫女。

 桃色のポニーテールをなびかせながら行う一連の動きに、どのような意味合いが込められているのか、俺には分からない。

 ただ、一つだけ確かなことがある。

 彼女は、何か尊く素晴らしいものに対して、この舞を捧げているのであり……。

 俺たちは、それに立ち会っているだけなのだ。


 一体、何分くらい彼女は踊っていたのか……。

 間違いないのは、見ている全ての人間から時間という概念を消し去ったということ。

 そして、残心するように両膝をつき、ただ荒い息で夜空を見上げる彼女に対して、コクホウの民はうっとりとしたような溜め息を漏らしたのである。


「綺麗だ」


 風習として存在しないのか、拍手ひとつない中、俺はそうつぶやいていた。

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