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旧人類最後の一人となったおっさんパイロットは、ファンタジーと化した世界で人型機動兵器を駆り無双する!  作者: 真黒三太


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コクホウの祭り 1

 祭りといっても国家、民族、地域が辿ってきた歴史によって、スタイルは千差万別であるが……。

 よく日本出身と勘違いされる純正日本人の血脈だけど、その実、出身はニューヨークのハーレムという微妙にややこしい出自を持つ俺にとって、最も馴染みが深い祭りといえば、やはりハーレム・ウィークを置いて他にないだろう。

 ま、その歴史について語り始めると長くなるので割愛するが、要するに、音楽ライブやパレード、フードフェスの出店なんかを大いに楽しむ宴だ。

 特徴があるとすれば、これもハーレムの長い歴史が関わってくるところだが、いずれにも黒人系の文化が色濃く反映されていることだろう。

 ゆうて、今の――ああいや、三千年前か――ハーレムって、そこまで黒人系の割合は多くなかったけど。

 実際、俺の家なんかも、俗に言う列島崩壊の余波を受けて移住したクチだしな。で、移民のお約束として色々とやりづらいところがあるのを優遇してもらえるから、軍に入ること選んだ側面があるし。


 閑話休題。


 いわゆるひとつの原体験というやつで、俺にとってお祭りの象徴とは、ハーレム・ウィークで聞いたジャズやR&B、ヒップホップなんかになるわけだ。

 つまり、音楽に身を委ねて盛り上がっていたわけで、考えてもみれば、驚くほどテンプレートな祭り文化の表れといえる。

 とはいえ、人間の盛り上がり方にはいくつかの型というか定型があるものなのだから、テンプレート的な側面が出てくるのは至極当然のことであるし、むしろ、そのありきたりさを存分に楽しむべきであろう。


 と、いうわけで、だ。


 前置きが長くなったが、このコクホウにおける祭りのスタイルというのは、横笛や太鼓、何かの弦楽器などを鳴らしつつ、広場に焚いたかがり火の周りで踊り狂うという大変にテンプレート的なものであり、俺としても、親しみやすくて大いに結構な代物なのであった。

 なお、広場の端には酒樽がズラリと並べられており、住民だけでなく、偵察目的で訪れたのだろう者を含む旅人たちでも飲み放題の様相を呈している。

 かように豪快な振る舞い方をしているのは、単純に区別をつけるのが面倒くさいという事情もあるだろうが、そもそも、ここコクホウが相応の豊かさを有する国であるのが大きいだろう。


 多分、原資になっているのは――金山。


 四大文明のいずこから発生した民族であっても、一様に価値を認めているのが黄金というもの……。

 ならば、三千年経った現在においても、金が希少金属として幅を利かせているのは容易に想像がついた。

 つーか、初日の夜に、わざわざ馳走として金箔乗せの料理を振る舞ってくれたし。

 そんで、それだけ重要な資源を抱えているからこそ、ガルゼから狙われることになったと。


 ――ポン! ポポン!


 と、太鼓の面というよりは、空気そのものを叩いているような音。


 ――ピーヒャラ!


 という、空気を細く震わせているような音。

 総じて、雅な音と言えばいいのだろうか?

 俺にとって馴染み深いドラムやトランペットとは全く異なる性質の音が流れ、広場の住民たちが、ややゆったりとしたテンポの踊りを披露する。

 俺が今着ている服や、サクヤの着ている服が和のテイストを多分に含んでいるのと同様、どうやら――理由は不明だし興味深いが――音楽文化も和風というか、日本風のものが息づいているらしい。

 で、踊りの内容はどんなものかというと、両腕を大きく上に伸ばし、右や左へゆらゆらと動かしながら、体の方もそれに合わせてゆるくステップするというもの。

 これがフォークダンスなら男女でペアを組むところだが、どうやらそういった区分はないらしく、ステップしつつ好きに動いて顔の合った者同士会話を楽しんでいるようだ。


「いかがですかな?

 我らの祭りは」


「うん、おだやかで、こう……喜びを分かち合っているというのが、よく伝わってくる祭りだ。

 普段は、どんな時にこういった催しを?」


 背後には、膝立ちの姿勢――余談だが、これが野外における基本的な待機姿勢だ――となったオデッセイ。

 俺とヤスヒサは、これまた金箔が豪華に使われた山車(だし)の上に乗せられ、酒と料理が載せられた膳を振る舞われている。

 今日の献立ては、鶏のもも肉をかぶと共に煮付けたもののようで、これもビールとの相性は抜群の予感だ。

 が、味わうのはまだ先。

 今は、ビール舐めつつ情報収集の時間であった。


「新年に行いますね。

 よそでは収穫後に行うことが多いようですが、我らは金にまつわる産業が主体ですから……」


 聞かれてもいない情報を付与してくれているのは、ヤスヒサなりの気遣いか。

 彼も、今に至るまで繰り返してきた会話によって、俺が当代の知識をほとんど持たないと理解してくれているのだ。

 その上で、時にそれが致命傷足り得ると理解して。教えてくれているのである。


「その時も、こうやってオデッセイを見上げるような配置に?」


「いかにも」


 派手さと音圧にはやや欠けるものの、厳かに気分を持ち上げる音楽へ身を委ねながら踊る人々……。

 それを肴にしながら、俺は今の世における祭りというものを学ぶのであった。

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