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生存戦略

 ――あなたにとって。


 ――エースの条件とは、なんですか?


 コールドスリープ刑に処される前、さるドキュメンタリー番組で最初に聞かれたことが、それだ。

 その時、なんと答えたのかは、ハッキリ覚えている。

 なんでかって? 本人による再現を行うのが、飲み会における俺の鉄板ネタだからである。

 そう、俺はこう答えた。


『仲間に敬意を払い、その意思を尊重し、連携することです』


 ……と。

 自慢じゃないが、俺は対等な条件の機動戦において、後れを取ったことはただの一度もない。

 しかし、個人技に重きを置いているのかといえば、それは絶対にノーである。

 むしろ、まったくの逆。

 実戦においては、自分自身で仕留めるよりも、自らが餌となって敵機を釣り上げ、挟撃が成立したところで僚機と共に仕留めることほとんどだった。

 ゆえに、ザ·タンクとか、フィッシャーマンとか、ミラージュとか、そんな感じの呼び名を広報から付けられていたのだ。


 無論、中には一匹狼を気取るパイロットというのもおり、腕がありながら、どうして手柄を譲るのかと聞かれたこともある。

 答えは簡単、楽だから。

 あなたは、自動洗濯機があるのに、洗濯物を手洗いしますか? というくらい簡単な話。

 俺も含めたパイロット1人あたりの危険性も減るし、どの人型も背面装甲は薄くなりがちであるため、挟撃で仕留めれば、武器弾薬の消耗を抑えられた。

 まさに、イイこと尽くめ。

 俺からすれば、わざわざリスク増やして単独でのスコア増加にこだわる方が、よほど理解できないのである。


 そういった戦場における立ち回りの延長として、俺は他兵種の人間とも、積極的に交友を持っていた。

 メカニックと交流が深いパイロットは多いが、そういった交友を歩兵や工兵、衛生兵から通信兵、輸送、会計から軍楽に至るまで広げているパイロットとなると、そう多くはないだろう。つーか、所属する基地の全員がお友達くらいの感覚だったな。

 まあ、そうやって色んなやつと付き合い持ってると、色々見えてくるものがあるんだよ。

 岡目八目。自軍からすれば完全に盲点となっていて、かつ、敵である解放戦線からすれば絶好の攻撃機会となってしまう輸送計画。

 あるいは、腐敗した上層部のどこかで意見が握りつぶされている――というより陳情を無視されている――のだろう不足した医療物資の上申。


 とりわけ、歩兵連中との交友には得るものが多かった。

 俺たち機動兵にできるのは、極端な話をしてしまうと戦場を荒らすことだけであり、実際に占領を行うのは生身で戦う歩兵たちであるのだから、彼らが戦いやすいよう立ち回るのは、考えれば当然の話なのである。

 しかし、巨大ロボットという分かりやすく格好良い兵器に搭乗し、イチ戦闘単位としては破格の火力と機動力を有する機動兵をやっていると、どうしても自分が戦場の主役に思えてしまう。

 まして、戦意高揚に重きを置いた広報が、機動兵を前面に押し出し、先述のドキュメンタリー番組出演などを強力に推し進めてしまえば、それはなおのことだ。

 それは、よくない。


 あくまで、パイロットは兵種のひとつ。

 戦場においては、イチ戦闘単位であり、一枚の駒でしかない。

 将棋にしろ、チェスにしろ、多種多様な能力を誇る駒たちが、余すことなく活用されることでようやく勝利に近づくものだ。

 デカい兵器に乗っているからといって、態度まで無駄に肥大化させることなく、自らの役割を果たさなければならないのである。


 だから俺は、仲間を大事にした。

 連携というものを重視し、それは同じパイロット同士だけではなく、他兵種の者や、果ては内地で後方勤務を行う者にまで波及した。

 そういった行為の積み重ねが、俺を生き残らせ、副次的にスコアも稼がせたのである。

 エースパイロット、テツスケ・トーゴー誕生の真相は、そんなところだ。


 その方針は、広がった交友関係の果て、ヒルベルトの汚職へ気付くも逆にはめられ、三千年のタイムスリップを果たすことになった今でも変わらない。

 この新しい時代で出会った人たちに敬意を払い、意思を尊重し、連携していく。

 そういった考えの表れが、埋葬の手伝いと葬儀への参列であり、今やっているお祭り盛り上げ隊長の仕事であった。

 冠婚葬祭が持つ効能というのは、人と人とを強烈に結び付けること……。

 見ようによっては死者を利用しているわけだが、ともかく、俺は同じものを悲しみ、同じものを楽しむことによって、このコクホウへ溶け込もうと努力しているのだ。


「さて、ヤスヒサと俺の見立て通り、外部から来た人間に、オデッセイの威容はよく効いているようだが……」


 ガルゼ軍が捨てていった太鼓をオデッセイに演奏させつつ、外から様子見に来た人間たちを見る。

 皆さん、オデッセイの姿にひとしきり驚いてから、シマヅさんたちの誘導に従い都市に入っていくわけだが……。


「――こ、これは!?」


 そこで、一人の女性を見て、くわと目を見開いた。

 他でもない……。

 この、改造したような巫女服着用のお姉ちゃん……!

 彼女は……!


「クソエロイな!」


 俺の名はテツスケ・トーゴー。

 三千年経とうとスケベ心は失わない38歳児である。


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― 新着の感想 ―
おっとー♪ 出逢ってしまいましたね(ワクワク
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