神と埋葬 3
突然だが、人型の巨大ロボットに乗って何をしたいかと問われて、あなたは一体何を思い浮かべるだろうか?
コックピットだけを狙えるかと自問自答しながら、手持ちの武装を構えてみたい? いーねー。
内臓武器の名前をシャウトしながら、敵ロボットと戦いたい? うんうん、男のロマンってやつだ。
まあ、そんなわけで、だ。
パイロットを目指す人間がこの問いに対して思い浮かべるのは、おおよそが戦いに関する事柄であり、それは、機動兵器のパイロットという職業が戦闘職であることを思えば、ごくごく当たり前のことである。
あるいは、連合軍のプロパガンダが功を奏した結果か……。
――君も、ヒーローになろう!
……そんなスローガンを掲げつつ、各戦線のエースパイロットがコックピット内で笑顔と共にサムズアップ。そうして撮影した写真は、駅構内の宣伝広告などで活用された。
やらされたなー、俺も。んで、影響受けてパイロットになりました! サインください! とか言われて、むず痒い思いをしたりもしたものだ。
で、そんな風に瞳をキラッキラさせた新米パイロットたちに、俺はこう言ってやるわけだ。
――ハッハッハ!
――そいつは光栄だ!
――……では、俺の真似をして穴を掘れ。
当然ながら、新米たちは「は?」と聞き返して体を固くする。
だが、俺は捻り過ぎて笑いどころが分からないジョークを飛ばしているわけでも、何かの比喩を言っているわけでもない。
これこそ、即席練成で基本の戦闘運動などしか教わってない若者が、予想だにしなかった現実。
格好悪いので、プロパガンダでは秘されている戦場の真実。
正真正銘、人型機動兵器パイロット第一の使命は、穴を掘ることなのだ。
使用するのは、万能分子振動兵器――ツールナイフ。
人間で言うならコンバットナイフくらいの大きさということもあり、よほどのことがない限り出撃時に選択することとなるオデッセイ用オプション兵装であった。
見た目はまさに、コンバットナイフを18メートルの巨人用に合わせたものだが、特徴的なのは、分厚い両刃の形状をしていること。
ただ戦闘に使用するだけならば、通常、コンバットナイフというのは片刃である。大概の場合、刃の反対側にギザギザがあって、これは有刺鉄線などを切断するのに用いるのだ。
なら、オデッセイ用のそれが両刃であるのは、そういった工作の機会がないからか?
それも、あるだろう。
だが、一番大きい理由は、まさに、穴を掘るためのデザインだからなのだ。
そもそも論として、何度も何度もこの言葉を使っていることから分かる通り、オデッセイというのは人型機動兵器。
つまりは、わざわざ人の形状を保ったままスケールアップさせた陸戦兵器であり、当然ながら、単なる戦車や野砲と異なる活躍が求められた。
ぶっちゃけてしまうと、巨大化した歩兵としての働きが要求されたのである。
さて、ここで更なる問題です。歩兵にとって、一番重要なお仕事はなんでしょう?
そう、答えは簡単ですね。穴を掘ることです。
やはり大きいのは、第一次大戦でライフルが戦場へ投入されるようになったことであり、続く第二次大戦の時代には、より強力な火力と連射力の兵器が実践投入されたことだろう。
一発喰らえばあの世行きな銃弾が、ピュンピュンと猛烈な勢いで吐き出される中、戦うわけだ。
とてもではないが、身を晒してなどいられない。
というわけで、頭のいい俺たちのご先祖様は、必至こいて穴掘って土かき出して比較的安全な地帯を作り出す偉大な戦術――塹壕戦術を編み出したのである。
で、その伝統ある戦術は28世紀の機動軍にも脈々と受け継がれ、俺たちパイロットはオデッセイにツールナイフを振らせ、地味な穴掘り作業に従事するわけであった。
何も遮蔽がない荒野の中、ホバー移動かなんかで格好よく移動しながら射撃戦をするロボット兵器なんていうのは、カートゥーンの世界にしか見られない光景だね。
現実は、あらかじめ掘っといた穴を遮蔽として使いながら戦うわけ。そもそも、身を隠さない射撃戦とか、生身でもロボットでもあり得ないし。
それに、何しろ18メートル級のロボットであるわけだから、単純に重機としても頼りになるしな。そうなると、穴掘りはやはり基本として叩き込まなければならない。
さて、ここまで長々と、かつての経験も踏まえながら、人型機動兵器パイロットにとって穴掘り技術がいかに重要かを解説してきた。
これが意味していることは、たったひとつ。
「三千年ぶりにやろうか。
飽きるほどやってきたことを、な」
城壁の向こう側へと着地を果たした愛機内部で、俺はそう漏らしたのである。
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