最初の日にすべきこと
「おお! こいつはいいな!
……しっくりくるぜ!」
朝食後、サクヤが女官さんに言って持ってこさせた装束を身にまとった俺は、銅鏡に映った自分の姿を見ながら、そう言い放った。
たかが金属板でも、磨き上げればこうもよく物を映すものかと、感心させられる古代式の鏡……。
そこに映し出されていたのは、イケオジの呼び名を欲しいままにできるだろう美中年であったのだ。
黒を基調としたこの装束は、昔の日本を切り取った歴史映画の中に登場しそうな代物であるが……。
それらと大きく異なるのが、袴の形状である。
いや、これを袴と評するのは、俺の感覚だと違和感が強いな。
ズボン……あるいは、パンツ。
そういった呼び名が、しっくりきた。
脚の形状にピッタリと合わさる仕立てとなっており、動きやすく、また、よく馴染むのだ。
これを帯で締めて、やはり和のテイストが強い上着も羽織る。
そうすると、妙に気温が低い三千年後のこの世界であっても、なかなか快適に過ごすことができた。
柔道着と似たような形で着用できるのも、俺的にポイントが高いぜ。
「どうだ?
君たちの見立ては、バッチリだぜ」
衝立から体を出し、キリリとした顔になってみせる。
いや、実際、採寸とかはしてないんだぜ?
それで、こうも体に合った衣服を見繕ってくれるとは……誰が見立てたか知らないが、大したものであった。
「その……大変によく似合っておられます。
城に保管されていたものを、わたしが仕立て直したのですが、お気に召していただけたなら、よかった……」
割烹着姿のサクヤが、あちこちに視線をさまよわせながらそう言ってくれる。
ううん、もっとじっくり見てくれればよいと思うのだが……。
というか。
「これも、サクヤの仕事なのか。
朝食といい、すごいな、君は」
「お、お褒めに預かり光栄です」
照れで顔を朱色に染め上げながら、うつむくサクヤだ。
ううん、褒めるべきところを褒める、礼を言うべきところで礼を言うのは重要なことなのだが……。
これは、塩梅というか加減が難しいな。
俺とて、木の股から生まれたというわけではなく、ここまであからさまであれば、女心というものが分からぬわけではないのだ。
まあ、察したところで、何がどうというものでもないのが、難しいところである。
「そ、それで、本日はどうなさるのかお伺いするように、と、父から言われております……」
いつまでも目を伏しているわけには、いかないということだろう。
ようやくにもこちらを見てくれたサクヤが、上目遣いに尋ねてきた。
「ああ、早速、俺の独立権限を尊重してくれているわけか」
娘を通じての対応――ぜってー含むところがある――に、ヤスヒサの意図を察する。
というか、さすがは封建国家だな。話が早い。
まさか、宴会後に茶を飲み交わした席での話が、翌朝には生きているとは……。
これが、地球連合軍の話だったら、いや、どんくらい時間がかかるというか、どれほどの根回しが必要になるかな。
一応は指揮官に準ずる権限とはいえ、他の部隊より圧倒的に強力な戦闘力を有する者が、自分の意思で独立行動しようというのだ。
うん……まずもって、承認されないな!
さておき、サクヤの問いに関する答えは、最初から決めてあった。
昨日は、この異世界のごとき未来世界で目覚め、状況を把握するのに手一杯だったが……。
翌朝となった今は、ある程度の情報を得ており、しかも、最高指揮官のお墨付きで自由行動が許されている。
と、なると、かつての経験も踏まえた上で、俺のすべきことはひとつだけであった。
すなわち……。
「墓掘り、だ」
「墓掘り、ですか?」
本人なりに、色々と予測は立てていたのだろう。
そのどれもが外れたサクヤは、きょとんとしながら首をかしげてみせる。
そんな彼女に、俺はニイッと笑いながら続けたのだ。
「そう、墓掘りだ。
この世で一番ド派手に死者を弔ってやる」
お読み頂きありがとうございます。
巨大ロボットとはすなわち、重機であると見たり。
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