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旧人類最後の一人となったおっさんパイロットは、ファンタジーと化した世界で人型機動兵器を駆り無双する!  作者: 真黒三太


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三千年後の朝食

「テツスケ様……。

 お目覚めでしょうか……!」


 聞き覚えのある声が襖の向こうからしたのは、俺が起き出してから、たっぷり1時間は経った後。

 一応、尋ねる形を取ってはいるが、これは最終確認でしかないだろう。

 だって、ここまでずーっと窓の下を見ていたから、仕事しているエルフさんたちとバッチリ目が合っているからな。

 なんなら、手を振ってやったりもした。


 兵士さんたちの反応は、かしこまって体を固くするというもの。

 女官さんたちの反応は……なんというのだろうな。

 両手を頬に当てて、軽く弾むような……そういう反応であったと思う。なんか、キャーとか言ってたし。

 ハリウッドのアクションスターか、あるいはメジャーリーガーにでもなったような気分になるぜ。


 そんなわけで……。

 彼ら彼女らから報告を受けているだろう襖の向こうにいる人物は、俺が起床済みであると知らないはずがないのであった。


「ああ、起きてるぜ!」


 だから、元気よく返事してやると、襖がしずしずと開かれる。


「おはようございます。

 朝餉(あさげ)の支度が、できております」


 これは、3つ指をつくというんだろうか?

 土下座でもするかのごとく、深々と頭を下げながらそう言ったのは、サクヤであった。

 彼女の隣に置かれているのは、朝食が載せられた盆やおひつ。

 そして、顔を上げた彼女自身の姿は、最初に見た鎧姿とも、宴会で見た着飾った姿とも異なるものだったのである。


 頭には、真っ白な頭巾を被っており……。

 首から下は、体の前面部を覆うような、エプロンじみた構造の白衣で覆われているのだ。

 これは、確か――割烹着。

 黒髪ロングの超美少女が、ジャパン伝統のカッポウギスタイルでエントリーを果たしているのであった。


 ――ゴウランガ!


 ――ナムアミダブツ!


 ――サヨナラ!


 ……そのような単語が、俺の脳内を自然と駆け巡る。

 ニューヨークはハーレムの地で生まれ育った日本人のDNAが、全力でスタンドアップを果たしていた。


「失礼しますね」


 敷かれた布団からやや離れた位置に、サクヤが朝食を運び始める。

 自然、俺は窓辺からそちらに歩み寄り、あぐら座りとなって様子を眺めた。


「あの……何か」


 そんな俺の視線を浴びて、サクヤが顔と言わず長い耳と言わず、真っ赤になる。

 それが、ますます魅力を増した。


「いや、すごくきれいだと思ったんだ」


 だから俺は、素の感想を漏らしたのだ。

 彼女の顔が、ますます赤みを増したことは、語るまでもない。




--




 白米にかぶ(葉も使う)の味噌汁。

 そして、かぶの皮を使ったのだろうきんぴらと、昨日も頂いたガチ塩漬けの人参。

 それが、サクヤの運んでくれた朝ごはんであった。


 素朴と言えば、素朴。

 必要十分と言えば、必要十分。

 映えると言えば、映える。

 そして何より――飯が進む。


 かぶの身と葉がゴロゴロと入っている味噌汁は、しっかりと出汁がきいており、発酵大豆の旨味と合わさってスープ料理というより、そのものが一品のおかずである。

 かぶの皮を使ったきんぴらは、ごま油の香りが香ばしく、きんぴらという料理が、かくも匂いで楽しませる代物だったのだということを、三千年越しに俺へ教えてくれた。

 これは、どうしたって出来上がりから時間が経ってしまう極東基地の配給食と異なり、つい先ほど作ったばかりだからであろう。


 そして、やはり――塩漬け。

 野菜を塩に漬け込んでいるというよりは、塩が野菜の形に整えられているといった風情であるこいつは、とかく米を食わせる。

 最初は、あまりにしょっぱくて中和剤が欲しかったのかと思ったが、慣れてくるとそうでないのが分かった。

 しょっぱいものを食べた後に、甘いものを食べたくなるあの衝動……。

 あれが、発動しているのだ。

 強烈といえばどこまでも強烈な塩気が、本来は淡くすらある白米の甘みというものを存分に引き出し、くっきりと浮かび上がらせているのである。


 いやあ、おひつから茶碗に、エンパイアステートビルのごとくご飯をよそわれた時は、食いきれるかと心配だったものだが……。

 これは、ぺろりといけるな。

 白米というものを、五臓六腑に染み込ませる朝食だ。


「いやあ、美味いな。

 昨晩は、酒の〆だったから量を調節してたのか?」


「はい。

 ですので、今朝はしっかり食べて頂けるかと思い、この量にしました。

 それに、神前に捧げるご飯なら、やはりこれがふさわしいですし」


 給仕に徹するということか。

 正座して俺の食べっぷりを見ていたサクヤが、ほっと胸をなで下ろしながら答える。

 神じゃあないが、まあ、似たようなものを名乗っているか。

 そして、なんとなくだが、この反応を見るに……。


「もしかして、これはサクヤが?」


「ええ、その……お口に合いましたでしょうか?」


 そう聞かれれば、俺の答えなどひとつしかない。


「最高だ!

 毎日だって食いたいくらいだよ」


挿絵(By みてみん)


 サクヤの顔が、また赤くなった。

 お読み頂きありがとうございます。

 次回、着たままのパイロットスーツを脱ぎます。

 また、「面白かった」「続きが気になる」と思ったなら、是非、評価やブクマ、いいねなどをよろしくお願いします。

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