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西暦5738年10月22日午前11時23分

「オデッセイのコックピットが棺桶代わりになるとは、なんとも君らしい最後だ。

 おっと、失礼。

 あくまでも、コールドスリープ刑だったな?」


 両脇には、アサルトライフル所持の兵たちを従え……。

 ヒルベルトのクソ野郎――誰が大尉などと呼んでやるか――が、イヤミったらしい視線を俺に向けてくる。

 奴が立っているのは、狭苦しいリフトアームの上だ。

 俺がコックピットを飛び出し、蹴りでもくれてやれば、落下死させられるか……?

 無理だな。その前に、ハチの巣だろう。


「………………」


 だから、俺の方は――沈黙。

 下手な反応してこいつを喜ばせるのはしゃくだし、そもそも、気の利いた対応が思いつくほど器用な性質じゃなかった。

 そんな頭の回る男なら、眼前のクズにハメられ、民間人虐殺の汚名を着せられることもなかったはずだ。


 今は信じよう。

 こいつの悪事がどこかでバレて、そこから俺の無実も証明されることを……。

 この極東基地司令であるユンケル少将が、コックピットを改造してのコールドスリープという前代未聞の戦時刑を採用したのも、思うところがあったからに違いないのだから……。


「では、テツスケ·トーゴー中尉。

 よき眠りを……」


 そんな俺の心中を知ってか知らずか、ヒルベルトがメカニックに合図を送る。

 すると、外部からの操作でオデッセイのコックピットハッチが閉ざされた。

 普段なら、その後に起動シーケンスへと入るわけだが……。

 今回それはなく、代わりに、少しずつ……少しずつ……コックピット内の空気が冷たくなってくる。


 眠ろう。

 どのくらい眠ることになるかは、分からない。

 ただ、その先に存在するだろう自由を、夢に見ながら……。




--




「これは、映画の撮影か……?」


 火が入ったコックピットの中……。

 18メートルの高さからカメラアイが捉えた映像を見て、俺はそんなことをつぶやいていた。

 俺がいるのは、間違いない。

 コールドスリープ前と同じ、オデッセイのコックピット内だ。


 ――オデッセイ。


 地球連合軍が主力機とする人型機動兵器である。

 陸上選手じみた均整の取れたスタイルと、それに見合う運動能力が特徴の機体。

 実戦においては専用の各種武装を駆使し、その圧倒的な踏破性能と合わせて戦場を闊歩するこの機体であったが、今は武装も何も無いバニラと呼ばれる状態だ。


 だが、武装はなくとも、さすがに傑作量産機。

 センサー類は充実しており、実に様々な情報を俺に提供してくれた。

 中でも衝撃的だったのが、光学的な情報だったというわけだ。


「家……家だよな?」


 見渡せば、眼下に存在するのは斜面を利用したのどかな風景。

 階段状に築かれた田んぼや、木の枠へ石を塗り固めて作ったような民家の数々は、何かのファンタジーゲームにでも入り込んだような光景だ。

 とりわけ目立つのは、やはり田畑や民家を見下ろすように築かれている石造りの城塞。

 そして、この村? 町? を取り囲むようにしているこれも石造りの防壁であった。


 だが、真実問題なのは、建物や田んぼじゃない。

 その中で駆け回っている人々の存在である。

 いや、これは……?


「人? 人じゃないのか?

 アンノウン?」


 そう……。

 胴回りだけを覆うような簡素な鎧姿で動き回っている人々に、オデッセイのセンサーは『UNKNOWN』と注釈を加えていた。

 それも、そのはずだろう。


「耳が、尖っている?

 手から出してるのは、なんだ? 魔法?」


 城壁の上にいる兵隊――だよな?――たちは、この角度からだとよく見えないものの、下方から押し寄せている何かと戦っているようであり……。

 しきりに槍を突き入れたり、弓矢を引き絞ったり、手頃な大きさの石を投げつけたり、あるいは……手から火の玉みたいなのを生み出して発射している。

 しかも、皆さん……耳がえらくとんがっていた。

 そのとんがりぷりったるや、ナイフでも埋め込んでいるかのようである。


 そりゃ、オデッセイのコンピューターもよく分からないモノとして扱うだろう。

 これを見せつけられている俺にも、何がなんだか全く分からない。

 コールドスリープから目覚めるや否や、別の世界に放り込まれたような状況……。


 ――不明生物同士ニヨル交戦ヲ確認。


 ――規定ニ則リ、受刑者ノ安全確保ノタメ冷凍睡眠解除。


 ……ログを開くと、そのようなコンピューターの判断が記述されていた。

 ついでに、現在の情報を開く。

 今は……西暦5738年!? の10月22日午前11時23分。気温13度。


「……あれから三千年経ってる? 嘘だろ?」


 表示された冗談みたいな情報に、呆然とつぶやく。

 答えてくれる相手は、存在しなかった。

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