ヤスヒサとテツスケ 2
「やはり……」
すぐさま、全ての言葉が口をついて出なかったのは、万感の思いがそこにあったから……。
「やはり、そうでしたか……」
それでも、浮かんだ言葉というものは、吐き出さずにはおれぬ。
ヤスヒサは、自分が伝説の終わりを目にし、また新たな伝説の誕生に立ち会っていることを自覚しながら、そう答えた。
「気付いていたか」
対面のテツスケ様は、そう言いながらも表情ひとつ変えてはいない。
そのくらい頭が回るようでなければ、話にならないということだろう。
一方、茶の用意を終えたサクヤは、男2人の間でやや下がり、ひたすら目を伏している。
これは、許しているのが同席することだけで、発言の許可を与えていないからだ。
今、この場で、巨神様と共に目覚めた御方相手に口を開くべきは、コクホウの当主のみであった。
それでも娘を同席させたのは、見届ける者が欲しいというヤスヒサの弱さであろう。
「恐れながら……」
テツスケ様の黒い瞳にじっと晒されながら、言葉を選ぶ。
が、神聖なる存在にそれは不敬であると思い至り、やはり、正直に告げることとした。
「かの巨神様――オデッセイ様は、我らの先祖がここコクホウに根付いた時から、常に不動の状態で在り続けられました。
ならば、神世の時代からこの地で眠られていると考えるのは、当然の道理。
で、あるならば、その中からお姿を現されたテツスケ様もまた、同じ時代から悠久の時をこの地で過ごされてきた神世の御方……。
そう考えたまでで、ございます」
「そこまで理解が及んでいるなら、話は早い。
確かに、俺は長い……本当に長い時間眠り続け、そして、目覚めた。
目覚めた理由は、あんたたちがガルゼと呼ぶあの連中が攻めてきたからだ。
この地へ暮らす者たちを守るために、オデッセイの力を振るった。
――ところで」
まだ、言いたいこと……言うべきことはあったように見受けられるが……。
あえて、一度言葉を区切ったテツスケ様が、こちらを見る。
その視線に含まれるもの……。
それは、試しの思惑を置いて他にあるまい。
これから問いかけることで、ヤスヒサが為政者足り得る器であるかどうかを……。
あるいは、このコクホウが今後も守り続ける価値のある土地であるかどうかを、見定めようとしているのだ。
ややの間を置いて、テツスケ様が口を開く。
そこから紡がれた言葉は、果たして、ヤスヒサを緊迫させるに十分なものであった。
「――オデッセイは、どうだった?
お前たちでは、動かせなかっただろう?」
まさに、雷へ打たれたような衝撃。
その通りなのである。
報告を聞いたヤスヒサは、テツスケ様一行とすれ違いにならない形で、最も信頼するシマヅ率いる少数の識者を派遣していた。
そして、あの巨神様――オデッセイ様の内部を、密かに調べさせたのだ。
あるいは、テツスケ様がやっていたのと同じように中へ飲み込まれ、神の力を振るえるのではないかと考えてのことだが……。
結果は、駄目。
オデッセイ様の内部は摩訶不思議な品々で埋め尽くされており、どうも、それはエルフが何がしかの操作をする前提のからくり仕掛けに見えたが、シマヅらが何をどうしようとも反応しなかったそうなのである。
全ては、国を……このコクホウを守りたい一心で行ったこと。
だが、テツスケ様に対して極秘で行ったこれらの行為は、いともたやすく見抜かれていたのだ。
「はっ……はっ……」
ヤスヒサの全身から、汗が噴き出す。
緊張のあまり、上手く息を吐き出すことすらできなかった。
先の話を踏まえれば、宴席の開始時に語った推測通り、テツスケ様とオデッセイ様は双子のごとき分神同士。
その片割れを勝手に調べたのならば、愛想を尽かされても文句は言えぬ。
だが……。
「その様子だと、やはり試していたか。
試して、駄目だっただろう?
もう分かっていると思うが、オデッセイは俺じゃなければ動かすことはできない。
従って、ここからの話は、全てその前提でするぜ?」
テツスケ様は、あくまで穏やかな顔でそうおっしゃったのである。
「はっ……!」
これには、かしこまりながらも、いぶかしむしかないヤスヒサであったが……。
「そのくらいするのは、軍を預かる指揮官として当然のことだ。
むしろ、やってなかったらどうしようかと思っていたぜ?
そんなわけだから、気にしてはいない。
どっちかというと、好感度アップだ」
テツスケ様は、あくまでも鷹揚にそう言って下さったのだ。
なんという……器の大きさ。
「ははっ……!」
ヤスヒサは、ただ平伏するしかなかった。
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