ヤスヒサとテツスケ 1
〆として出された白米、焼き茄子の味噌汁、噛めば噛むほど塩がジャリジャリにじみ出すような塩漬けの人参も美味しく頂き……。
通されたるは、城の中央頂点部。
天守閣だとか、最上階だとか、そんな風に名付けられてそうな場所である。
あー……出世して、上がった年俸で何が買えるか調べた時、不動産の項目でつくづく思ったっけ。
なんでただ高い場所に位置するだけの物件へ、かくも恐ろしいお値段がついているのかと。
理由は簡単。需要があるから。
では、どんな層に需要があるのかといえば、それは、社会的地位が高く、お金を有り余るほど持っている層にであった。
なお、ややこしいので投資目的の購入とかは除外して考えるものとする。
その法則は、三千年経ってる今に至っても、変わらないということだろう。
……まあ、明らかに電子機器とかないし、便所とかなかなかのことになっていたので、治める地を把握するためには物理的な高さが必要ということなんだろうが。
それに、高いといっても、せいぜいがオデッセイの頭頂部程度……18メートルあるかないかくらいだし。マンションだと、6階から7階といったところか。
そんなここコクホウ――みんなの会話から推測される地名あるいは国名――を一望できる部屋の中は、やはり畳敷きで、金箔を張られた調度類がろうそくの光を反射し、まばゆく照らし出している。
……メインの料理に金箔を使っていたし、金が名物なのか?
となると、でかい勢力に狙われたのも、それが原因だろうな。
理由は分からないが、古今東西、金というものは文明を問わず珍重され、高値がつく。
今の時代でも、そこは変わらないのだろう。
「あらためまして、現コクホウ当主ヤスヒサにございます。
食事は、お口に合いましたでしょうか?
急ぎの支度でありましたので、冷凍していた品などを使いましたが……」
ふうん、冷凍ね……。
一部、季節感のない食材がこうも低そうな文明レベルで提供されていたのは、やや不思議だったが……。
いかなる方法によってか、食材を冷凍保存しているらしい。
これも、魔術とやらの力かな。
でもって、塩漬けにんじんの切り身が、白米に乗せただけで塩を吐き出していくような有様だったのも、納得がいった。
保存性を高めるためなのだ。
「大変美味だった。
あんなに美味いものを出してもらえるとは、思わなかったよ」
「そう言って頂けると、感無量です」
んーな推理をしつつも横柄な態度を崩さない俺に、ヤスヒサが丁寧な態度で告げる。
そうしていると、座布団へ着座した俺たちの前に、サクヤが盆からお茶を配ってくれた。
他に、人はいない。
余人のいない空間で、この3人で話そうということだろう。
「さて……」
これ以上の前置きは、不要ということか。
ヤスヒサが、きりりとした眼差しを向けてくる。
それから、ズバリ、こう言ったのだ。
「テツスケ様……。
あなたは、何者でございますか?
耳が短いという相違点はある。
だが、それ以上に、我々エルフとは何もかもが異なるように思えます」
エルフ……エルフね。
それが、彼らの種族名か。
「………………」
そう思いつつ、俺はヤスヒサとサクヤの視線を受け止め続けた。
あえて、沈黙を保っているその理由……。
そんなものは、語るまでもない。
そう……。
(さて……ここからどうしよう?)
何も! 考えていなかったから! である!
もうね。ここからどうするかなんて、スーパー出たとこ勝負! 計画なんてあるわけない。
何もかもをアドリブで対処するべき、ジャズ演奏のごとき状況である。
んで、俺がビールグビグビ飲みながら情報を聞き集めることへ徹していたのは、いざ迎えたこの時に、どう対応するか考えるためだったのだ。
(考えろ……俺が今すべきことは、この世界で飯を食っていく基盤作りだ。ならば)
とはいえ、即断即決即実行が我がモットー。
大部分を直感に委ねながら、一手打ち出した。
すなわち……。
「俺は、神世の時代から今代まで生き延びし者。
耳の形が違うのは、そのためである。
また、あの巨神……オデッセイは、俺がこの時代まで生き延びるための揺りかごであり、乗り物である」
正直な情報を、なんかそれっぽく言ったのである。