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宴席と情報収集 4

 何しろ、ハイスクール卒業と同時に機動学生として連合軍に入隊し、そのままパイロット坂を駆け上がったこの俺だ。

 実を言うと、半端なく世間知らずであり、軍隊の外における社会というものをよく分かっていなかったりする。

 ゆえに、想像するしかないのだが……。


 互いのコップを軽く打ち付け合い、乾杯の挨拶。

 その後、お互いの仕事ぶりを称えたり、愚痴など交えながらの談笑。

 中盤、イイ感じに場が温まってきたところで、ジョークなども飛び出すようになってくる。


 多分、こういった宴会におけるフェーズというものは、大学のサークルでも一般的な会社でも、あるいは現場仕事の職人さんたちでも変わらないものなのだろう。

 最初、ギクシャクしていたものの――これには討ち死に前提の戦いだったのも関係しているだろう――兵隊さんたちは、酒の力を借りたこともあり、徐々にトークの熱を上げていた。

 そうすることでたどり着くのは、バカな話が飛び出すようになる宴会中盤のフェーズ……。

 ただし、実戦を経験している軍隊に特徴的なこととして……ここでは、戦場における手柄話なども交わる。


「おれが隊は、はしごからよじ登ってこようとするガルゼの兵らを、軽く50人は落としてやったぞ!」


「ほう? それは大したものだ。

 何しろ、西側は少数で守らざるを得なかったからな……。

 それだけ、一人当たりの手柄も大きくなるか」


「だが、やはり一番の激戦だったのは正門よ。

 矢も石も、日頃から備蓄した分を使い果たしたのではないか?」


「そこは、後で戦没者も弔ってやりながら数えるしかないだろうがな。

 戦の度に思うが、あれだけ苦労して矢や石を放って、ろくに結果が出ないというのは、つまらぬものだ」


「敵軍とて、無駄に命を散らしたくはあるまい。

 風の魔術で守りを固めるは、当然の仕儀よ。

 まして、ガルゼめは魔術師の数に余裕があったからな。

 お主らも見たか?」


「見た、見た。

 こちらは魔術師団総出でようやく攻城魔術をしのげていたというのに、向こうは攻城魔術用に魔術師団を3つに分け、しかも、その上で兵たちの守備をする魔術師も別途配置していたぞ」


「攻城魔術とは別に、かなりの頻度で火球も撃ってきていたな」


「あれが、最強をうたわれるガルゼの陣容ということか。

 大国は、何をするにも余裕があってうらやましいことだ」


 それらの言葉ひとつひとつに、俺は、彼らほど長くない耳をそばだてる。

 手柄話である以上、誇張表現は付き物だ。

 俺自身、そういった経験は数えきれないほどに存在した。

 だが、0を1に膨れ上がらせることなど、何者にも不可能。

 で、あるから、彼らの話には全て元となった事実が存在するわけであり……。

 そういった事実の数々は、今、俺が最も欲しいもの――情報であるのだ。


(結構、分かることがあるな。

 少なくとも、この時代における戦争の様子というものが、分かる)


 まず、主力兵器となっているのは、おそらく――弓矢。

 投石も盛んに行われていたが、あれは、防壁という高所に位置取れていたからであって、平地においてはさほどの効果が期待できないだろう。

 剣や槍も持っていた以上、どうしてもそれらを交えての接近戦がメインであると思ってしまいそうだが、俺自身の経験で考えても、射撃兵器が主力になるのは納得できる。

 オデッセイのオプション兵装にはナイフなどの近接装備もあったが、ほとんど使ったことはないからな。

 解放戦線が操る旧式の人型と戦う上で、最も活躍したのはアサルトライフルで、次いで使用したのがハンドガンだ。

 もう、本当、その2種類があればオッケーって感じ。ガトリングとかミサイルとかのオプションも場合によって使ったけど、限定的すぎたなー。


 閑話休題。


 歴史には詳しくないが、きっとお侍さんが大活躍した戦国時代においても、一番人を殺したのは弓矢であるに違いない。

 が、戦国時代とは異なり、ここにいる彼らには、盾以外にも防ぐ術がある。

 ……魔術。

 俺が見たのは火球だけだが、話の内容を総合するに、風を起こして矢や投石を防ぐこともできるのだろう。


 だからだ。

 オデッセイから見た時、あれだけ大勢の人間が、ガッチリ固められた防壁を攻めているというのに、死者がえらく少ないと思えた。

 それは、実戦を経験した人間の経験則……。

 ノルマンディー上陸作戦は極端な例だが、きっちり射撃兵器で固められた拠点を数で力押ししようとすれば、本来、おびただしい数の死人が出るのである。

 だが、その常識は、この世界には通用しないということ……。

 勉強になるね。

 あと、しいたけの天ぷらとかたけのこの煮つけも超美味しいね。


「テツスケ様は、お酒にお強いのですね?」


 貴重な情報も肴にビールを楽しんでいると、何も言わず酌をしてくれていたサクヤがそう語りかけてきた。


「そうかもな……。

 だから、この後で真面目な話をしても大丈夫だぜ?」


 だから、せっかくなので鎌をかけておく。


「ならば……。

 ぜひ、父と共に」


 すると、サクヤは俺の予想通りに提案してきたのである。

 一方、お館様は、ただ黙って皆の様子を見ながら食事していたが……。

 その横目が、ちらりと俺に向けられた。


 お読み頂きありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
渋おじお館様のターンきた! それぞれの思惑がどう絡んでいくのか、気になるねー♪
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