序章:交差する運命、反撃の狼煙
境界防衛機構総司令室。
壁一面に広がる巨大なホログラム・スクリーンが、静寂の中に淡い光を放っていた。そこに映し出されるのは、人類最後の砦、フェルゼス防衛都市の各区画を監視する無数の映像フィード。
隊員の離反と、それに続く不可解な事件の数々が、この組織の心臓部に目に見えない緊張をもたらしていた。
その司令室の中心で、総隊長・星風ノアは、ただ1人、静かにスクリーンを見つめていた。その表情は、30年という長すぎる戦いの時を刻み込んだ、鋼のような冷静さに満ちている。
しかし、右手の親指に嵌められた姉の形見の指輪に、無意識に左手の指が触れる時、その瞳の奥にだけ、決して消えることのない復讐の炎が揺らめいた。
突如、けたたましい警報が司令室に鳴り響く。
「緊急警報! 北部、東部、第七区画に、大規模な残焔信徒の集団を確認!」
「これまでの出現パターンと異なります!」
「数が多すぎる!」
オペレーターたちが混乱に陥る中、星風の声だけが氷のように冷静に響き渡った。
「全ファースト部隊に通達。各個、指定された防衛ラインに展開。セカンド部隊は、避難誘導と後方支援を。――これは、ただの襲撃ではないわ」
◆
轟音と閃光が渦巻く、北部区画の最前線。星風の命令を受け、朝日班の3人が、押し寄せる敵の群れと対峙していた。
「うおおおおお、祭りだ祭りだぁ! 全部まとめて吹き飛ばしてやんよ!」
朝日リュウが、その手に具現化させた斧槍を豪快に振り回し、敵を薙ぎ払う。その戦いぶりは、ファースト部隊のエリートでありながら、どこか破天荒で楽しげですらある。
「調子に乗んなバカ朝日! フォーメーションが乱れてる!」
三崎カナメが、戦術弩で的確に援護射撃をしながら、いつものようにツッコミを入れる。
「……大丈夫。いつものことだから」
岩本ユウマが巨大なタワーシールドを構え、2人が安心して暴れられる「壁」となっている。
彼らの連携は、一見すると雑談交じりの無茶苦茶なものだが、その実、完璧な信頼関係で成り立っていた。
◆
さらに場面は変わり、戦場から少し離れた高層ビルの屋上。 そこでは、暁月ヒカルと、彼の班長である聖乃ミユが、静かに眼下の戦闘を見下ろしていた。
彼は武器を構えていない。ただ、その感情の読めない瞳で戦場の「流れ」――フォンテの粒子や、敵の動きのパターンを、まるで数式を解くかのように分析している。
「……ミユさん」
暁月が、ぼそりと呟いた。
「どうしたの、ヒカちゃん」
「敵の動きが、おかしい。彼らは、ただ攻撃しているんじゃない。……何かを、描いている」
暁月の視線の先。無数の敵が倒されては出現し、その移動経路が、地上に巨大で、不気味な幾何学模様――巨大な魔法陣のようなものを描き出していることに、暁月だけが気づいていた。
「この攻撃は、陽動。本当の狙いは、この術式を完成させること……!」
◆
司令室。星風の元に暁月からの緊急通信が入る。
「――術式ですって?」
暁月の報告と、スクリーン上の敵の移動データを照合した星風は、一瞬で敵の真の狙いを看破した。
その魔法陣の中心点にあるのは、都市のエネルギーを供給する、最重要施設「中央フォンテ・プラント」
「まずい……! あれを破壊されたら……!」
星風が、全隊員に向けて新たな命令を絶叫する。
「朝日班、聞こえる!? 今すぐ現戦域を離脱し、中央フォンテ・プラントへ向かいなさい! 何としても、術式の完成を阻止するのよ!」
最前線で戦っていた朝日の通信機から、星風の焦りを帯びた声が響く。
「中央フォンテ・プラント? 一体何が……」
朝日が指定された方向を見据える。その先で、空が不気味な紫の光を放ち始めているのを、彼は確かに見た。
「へっ……面白くなってきたじゃねえか!」
3人の主人公の運命が、初めて一つの点へと収束する。
絶望の淵で、反撃の狼煙が上がる。これは、“境界”を越える者たちの戦いだ――。
2025/07/24 序章の内容を大幅に変更しました。
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