吝嗇鰻
これからはまぁ着物に扇子 一端の咄家か棋士みたいな格好で配信していこうかと思います。
馬子にも衣装 なかなか似合っているんじゃないかと自負しております。
まぁ手間なときは、Tシャツでやっていきますがね、とまぁしまらない決意は、さておきまして少しだけ自己紹介をしていこうかと思います。
うだつの上がらない僕の名前は、遠野へんぼくと申します。
今や流れのフリーの芸人なんですが、まぁ弟子の期間も長いもんで、一人前と認められるのは天才と呼ばれる方々よりもだいぶ遅く、凡人よりもなお遅くなるのかなぁと思っていましたが、遂には認められなかったというさんざんたるものでした。
何せうちの元師匠ときたら、それなりに古い時代の芸人の流れを組む方でしてね、一流の芸人になるには、センス、色恋、金の苦労をしろって言うようなタイプでした。
要は女遊びをやらないような奴は大成しないと、芸の肥やしとして手っ取り早いのは、一流の女遊びだと、酒の席では意気揚々と語っておりました。
女と色恋を交わせなければ、艶もでず面白くない。
色恋を知るには、女と遊ぶためにはいろんな事で、センスが必要だ。
女ってのはほしいものには、お金がかかるから苦労する。
女と別れるにもお金で縁の切れ目を作らないといけない。
こうして言葉にすると、危ない話になりそうなので、当たり障りのない話を1つ。
師匠が鰻丼の特上を、僕が並を頼んだときの話。
「おぅ お前こんないい店にきて、並を頼むとはこっちの顔に泥でも塗ろうってか?店主すまんなこいつ分かってないんだよこういうお店初めてでな 」
「いや師匠 鰻と穴子も区別つかないけど並と特上の違いぐらい解りますよ 鰻が大盛なのが特上 これは松竹梅でも一緒ですよ」
師匠一瞬目が点になったんです。
まぁ僕も聞きかじりでそんなこと知らなかった口ですがね。
そんなにお腹も空いていないし、並とはいえ満腹感は得られるだろうから、特上にすることはないと思っていたんです。
「いいか へんぼく 特上を頼む師匠がいたら並食べる空気じゃないこういう時はだ特上を頼むんだよ」
「いや、師匠が奢ってくれるなら話は別ですが、 こっちだって足並揃えて鰻の並を頼んだんですよ」
「かぁ~ お前は特上も頼めないぐらい売れてないのか? いや売れてないが他所で稼いだ分ぐらい使えそのぐらいの懐はあるだろ」
まぁこの日は、競馬で稼がせて貰ってまして、師匠はそれを知ってあぶく銭ならきちんと旨いもん食えと言っているのは、何年も付き合って解っているんです。
結局いつものように、押しきられ、師匠が強引に鰻丼特上を店主に頼んだんですよ。
「いいか ケチつけているとケチ臭くなって鰻の臭いも美味しくなくなる 鰻屋で吝嗇なんかするんじゃない」
「以後気を付けます」
師匠と僕のまえにどーんと重厚な鰻の蒲焼きが4尾、米も見えないさすがは特上だと、圧倒する鰻丼をまえにこれは高くてもしょうがないビジュアルをして置かれたんです。
それを師匠が美味しそうにかきこみながら、コンビニでパン買ってこいのように軽く言うんですよ。
「それはそうと手持ちが足りそうにもない ツケにするか へんぼく足りない分お前払ってくれないか」
「いかほど持っているんですか」
師匠が無言で指差したのは、お品書きの並の料金をとんとんと。
「ケチをツケるとろくなことにならないと まぁそういうこった」
もぉこっちは渋々頷くだけです。
「はい鰻丼並 お待ち」
特上鰻丼を食べおえた頃合いに、師匠のまえに店主が鰻丼を置いたんで、二人して顔を見合せた
「サービスか何かかい?」
師匠が小首をかしげ尋ねたら
「いや指でとんとんとお品書き指差して注文したから」
店主こっちも首をかしげた。
「おう こんな店初めてなもんで、悪いな店主持ち帰りように包んでくれ」
師匠は出された並の分の支払い、項垂れて店を出た。
「いいか へんぼく ケチのついた店では二度と食わん 覚えておけ」
「それだと僕は毎度師匠と行く店食べれなくなりますね」
師匠が拳骨1つおまけしてくれた鰻屋の話。