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とある雨の日の昼下がり

作者: 箱庭の巣窟

思い付きのままばっと書き上げた物語です。どうぞ。





「.............もう、終われるのか」

赤色に輝く車のライトをぼんやりと見つめながら少女は呟いた。

ああ、思い返してみれば、私の人生、散々だったな。

歩道橋の手摺りに腕を乗せて、独り言ちた。


本当に、少女の人生は散々だったのだ。

幼い頃に優しい母は父に殺され、その父も逮捕されてしまい、その後自殺したという。頼れる親戚はほぼいなくなった。特に、父方の親戚は両親の葬儀を終えると全く連絡を寄越さなくなった。

引き取ってくれた祖父母も少女が高校1年の時に亡くなってしまい、今度は叔父、叔母が家に来た。

しかし、叔父と叔母は高圧的で、少しでもテストの点が悪いと私を怒鳴り付けた。平均点以下をとった、なんてことになったら、口だけでは済まされないだろう。

殆ど収入のない叔父と叔母に代わってバイトをいくつも掛け持ちし、それが終わると夜遅くまで勉強。睡眠時間は2~3時間しか取れず、目の隈を毎日ファンデーションで誤魔化した。

当然身の回りに気を遣う余裕なんてなく、親しい友達もいない私は、まるでそれが当然の流れのようにいじめのターゲットになった。

寧ろ今までそうならなかったのが不思議なくらいだ。いじめを強制されている生徒たちも、まるで空気のような私はちっとも心が痛まないらしく、散々...では言い表せないほど凄惨な目に遭った。

勿論教師も助けてはくれない。いじめの主犯格の女の親がこの高校に多額の寄付をしていて、彼女には教師も逆らえない。やっぱり我が身が可愛いんだろうな。体を張って助けてくれるような人もおらず、恵まれないまま流されるように高校3年になった。


その頃だろうか。私が「死にたい」と思ったのは。

高校入学の頃はとにかく必死で、自分の心を気遣う余裕なんて到底なく、叔父と叔母に言われるがまま学校に行っていじめを受けてテストでいい点を取って......ロボットのように動き続け、ようやく自分の心の内を知れるようになった時には「死」の一文字だけが渦巻いていた。


それでも、私に死ぬ勇気なんてないしそんなことをしても逃げたと思われるだけだし。

私はただ、主犯格の女が我が物顔で居座っているのが気に入らなかった。叔父と叔母が、まるでそれが当然のように我が家に居座って働きもせず文句を垂れているのが気に入らなかった。


人間なんて、嫌いだ。自分も嫌いだし、他の奴らもみんな嫌い。助けてくれずに知らんふりをしてる奴らも大っ嫌い。


輪廻転生なんて、あるか分からない。自分を殺すという罪を犯すのだから、一生地獄にいるかもしれない。

それでも、ここよりは......きっと、ましなはず........だから......

私は、この最低な人生に終止符を打ちたかった。


決意してからの行動は早かった。遺書を書いて、ついでに主犯格の女の家に証拠諸々を同封した手紙を送る。私をいじめたすべての生徒に、呪いのように「死ね」を書いた手紙、それからその人が私にした仕打ちを懇切丁寧に説明した手紙を用意して送る。なかなか骨の折れる作業だったが、もう死ぬのだしと考えれば惜しみなくその作業に全てを費やすことができた。

バイトもやめた。今月の給料をもらった後、それをすべて使う。主にメイク道具と服に費やす。最期なのだし、死に化粧のつもりだ。

後は.......借金。

ざっと.....1億円ほどか。叔父と叔母を借金保証人にして借りる。両親の遺産は全て寄付に使った。

あんな汚い手で両親......母親の遺産を触らせてなるものか。


準備を終えた後、今度はどうやって死ぬかを考えた。

首吊り?飛び降り?毒?飛び込み?

さんざん悩んだ結果、飛び降りになった。近所には、高めの歩道橋がある。そこから飛び降りよう。子供の頃から空を飛ぶのが夢だったのだし。


決行日は母の誕生日、10月4日だ。

「天使の日」というのを聞いて、母にぴったりだと思ったのをよく覚えている。

天使の日なら、天使が、母親が私を天国に誘ってくれるかもしれない......という淡い希望も理由だ。



そして、その日がやってきた。

当日は朝からどんよりと曇り、ぽつぽつと雨が降っていた。今日は叔父と叔母が朝からショッピングに行っているので、家にはいない。

私はゆっくりと朝ご飯を食べ、今週で完結する漫画を買いに行く。

結末を知ってから、家に戻り、読書をする。


昼は近くのレストランで食べた。これが最後のご飯。そう思うと、不思議と美味しくなった。


家に帰り、先ず風呂に入る。それから、今日のために買っておいた純白のワンピースを着て、慣れない手で化粧をしていく。

化粧をした私は、見違えるほど綺麗になった。腰まで伸びるまっすぐな黒色の髪に、白い肌とぱっちりした目。唇と頬は桃色に色付き、品よく顔を飾っていた。

そして、長年過ごした家に別れを告げ、歩き出した。



遺書を握りしめ、少女は歩道橋へ向かった。

口はにっこりと弧を描き、童謡を口ずさむ彼女は、とてもこれから自殺するなんて思えなかった。

雨に濡れた彼女はそれでも美しく、儚かった。



大粒の雨が鉄骨に当たって音を立てる。その様はまるでオーケストラの演奏のようで、眼下に輝く車のライトは、夜景のように輝いている。

手摺りの上に立ち、車が行きかう道路を見下ろした。

段々視界がぼやけて、車のライトが一層輝く。


この視界を遮っているのは、雨粒なのか、涙なのか。



頬を伝うそれの感触を味わいながら少女は地面に向かって身を投げた。真っ黒で光のない目は、その一瞬だけ光り輝いて見えた。


やがて少女の意識は地面に落ちる前に途絶え、そのまま戻ることはなかった。



これは、何処にでもある、とある雨の日の昼下がりの出来事だ。



~おまけ~

その後、叔父と叔母は借金により、非常に惨めな生活をしているという。

少女が復讐のために掲示板に投稿したいじめの情報、少女の自殺、それから手紙を目にし、良心の呵責に耐えかねたごく数名の生徒たちがいじめの加害者たちの個人情報を公開。特に、主犯格の女は誹謗中傷を受け引きこもりとなった。


少女の亡骸は両親と同じ墓に収められた。


ささやかな復讐は、目論見通り成功したのである。


~~~~


どうでしたでしょうか。自殺しようとしても、少女のようなことをできる勇気は少なくとも私にはない。

ほんの少しだけ死を考えている私の願望と本心を綴ったこの話を読み、考える機会になれば幸いです。


※↑のようなことを言っていますが好きな漫画が完結していないので死ぬ気は毛頭ありません。自殺、駄目、ゼッタイ!

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