閑話:この世界のこと
海と呼ばれる大きな水溜まりの中にただ一つ存在する大地――ガルディア。
いや、本当に唯一の大地なのかは誰も知らない。
海の彼方に船をこぎ出し、戻ってきた者は誰もいないのだから。
北の寒さが厳しいホクドゥ。
温暖だが天候が不安定な南のオルナ。
そして、その両方を足して割ったような中原トウカイ。
ガルディアはその三つの地域に分けられており、各地に点在する『探索点』の近くには自ずと人が集まり、町や村が形成されていた。
『探索点』とは、いつの時代のものかも判らない遺跡や、深い森、険しい山など、不可思議な仕掛けがあったり、ヒトが容易に足を踏み入れることができないような険しい土地であったり、とにかく、危険に満ち溢れた場所だ。
難易度も規模も様々な『探索点』だが、中でもホクドゥの『深淵の森』、オルナの山岳地帯『竜の背骨』は、前人未到の領域が多く残された難所だ。どちらも広大で、他の『探索点』に比べて生息する魔物も段違いに凶暴なのだ。
たとえどれほど危険でも『探索点』から得られる資源は非常に魅力的で、人々は命を顧みずに分け入った。
闇雲に危険に挑み、そして、得られる益に見合わない損失を繰り返し。
やがて。
資源を得るためには戦う力を持つ者が。
得られた資源をヒトの役に立つ物に作り変える者が。
そして、そうやって生まれた物を人々の間に流通させる者が。
人々は各々の能力に応じた役割を持つようになり、その役割を持つ者同士で集まり、ギルドと呼ばれる組織が誕生したのだ。
ギルドの職種には、主に護衛や狩猟といった戦闘を担う戦士や魔導士、医療に携わる治癒士、それに職人と商人などがある。
この世界にはカイトのような単人属やシーリィンのような長命属の他に、獣人属がいる。獣人属には幾つかの種があり、その種が持つ特性で、自然と就く職業も決まってくる。
魔力に秀でる長命属は魔道士や治癒士、狡猾で(ずる)賢いところがあるキツネ人は商人が多く、手先の器用なネコ人は職人が多いというふうに。
ギルドという仕組みができたことで需要と供給が無駄なく合致するようになり、無駄のない生活は余裕を生み、余裕は富を生んだ。
どんな街にも必ずギルドが存在する、というよりも、ギルドがあるところに街が栄えるというべきか。今やギルドなくして、ヒトの生活は成り立たない。
ギルドを軸として、ヒトの社会は成長を続けているのだ。