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魔王育成日記  作者: トウリン
ごめんね
33/42

子どもたち

 ゼノスが院長を務める孤児院には、下は三歳、上は十歳までの、七名の子どもたちがいた。


 一番小さなマリナは三歳のウサギ人の女の子。

 四歳のセインはキツネ人の男の子。

 五歳のランはネコ人の女の子。

 六歳のザムはウサギ人の男の子でマリナのお兄さん。

 八歳のタフトはネコ人の男の子。

 九歳のリアはイヌ人の女の子。

 十歳のキムは単人属の女の子。


 皆、わちゃわちゃとメリカを取り囲んできたけれど、タフトだけは遠巻きに様子を窺うような素振りを見せている。他の子にはない陰を感じさせる彼のことがメリカは少し気になったけれども、矢継ぎ早に質問を投げかけられて眼を戻した。


「ねぇねぇ、カイトたちと一緒に住んでるって、ホント?」

 真っ先に訊いてきたのはランだ。アーモンドの形をした目がとてもきれい。

「うん」


「シーリィンも一緒なんだよね? ちょっと、怖くない?」

 これはリア。

「怖くないよ。シーリィンもカイトも優しいよ」

「シーリィンが? あたし、シーリィンが笑ったところ見たことないよ。カイトはいつもにこにこしてるのに」

 眉をひそめたリアに、メリカは笑う。

「笑わないけど優しいよ。メリカに魔法のこと教えてくれるの」

「ホントに? シーリィンがヒトに何かを教えるとか、できるんだ?」

 リアはまだ半信半疑の態だ。

「ちゃんと教えてくれるよ。っていうか、本を読んで解からないところを訊いたら、教えてくれるよ」

「それってなんか『教える』とはちょっと違う気がするけど……」


「じゃあさ、カイトたちに森に連れてってもらったことある?」

 唇を尖らせたリアの隣から、今度はセインが乗り出した。好奇心で目を輝かせながら。男の子だからか、ザムも興味津々の様子だ。

「何回かあるよ。入口くらいのところまでだけど。練習だよって、夜を過ごして帰ってくるの」

「いいなぁ。ボクも大きくなったらギルドに入るんだ。いろんなものたくさん見つけてお金持ちになるの」

「セインは探検よりお金なんだよね」

 呆れた声で言うランに、セインが唇を尖らせる。

「だってお金がいっぱいあったらおいしいものたくさん食べられるだろ」

「そうだけど……」

 ランとセインは普段から角を突き合わせることが多いのか、言い合いを始めそうになったところに慣れた様子でキムが割って入る。


「はいはい、そこまでね」

 そうしてクルリとメリカに振り向き、にこりと笑った。

「メリカはお部屋に荷物を置きに行こ? 中も案内するよ。マリナも一緒に来る?」

 キムが呼びかけると、兄の陰から覗いていたマリナが大きく瞬きを一つした。そしてコクリと頷く。ふわふわの真っ白な毛玉のようで、とても可愛い。

 ザムの陰からキムの陰に移るのかなと思っていたら、マリナはメリカの横に来て、手を差し出してくれた。どうやら、キムと一緒に案内役をしてくれるようだ。

「ありがとう、キム、マリナ」

 つないだマリナの手はとても小さくて、メリカは不思議な感じがした。


 思えば、自分よりも小さなヒトに触れるのは初めてだ。小さくて、柔らかくて、何だか胸がきゅんとする。

(なんだろう、この感じ)

 カイトは「自分よりも弱いヒトは守ってあげよう」と言うけれど、こうやってマリナと手をつないでいると、彼に言われていなくてもそうしようと思っていたのではないだろうかと思った。理屈ではなくて、お腹の底から湧いてくるような、想い。

 カイトはよくメリカのことを抱っこしてくれるけれども、何となくその気持ちが解かった気がする。

 メリカも、今、マリナのことを抱っこしたくてたまらない気持ちになっていたから。


 マリナの歩みに合わせてゆっくりと廊下を進みながら、キムが部屋の説明をしてくれる。

「ご飯は七時、十二時、五時に食堂で食べるよ。お風呂は今週は男の子が先。一週間ごとに変わるの。あ、メリカの部屋はここね。私と一緒よ」

 キムが示した扉を開けると中には寝台と書き物机が二つずつ、それに物入れが一つあった。飾り気はないけれども、きれいに整えられている。

「二人部屋なんだけど、ずっと独りだったの」

 言いながら、キムが寝台の一つにストンと腰を下ろした。続いて、マリナがその横によじ登ろうとするのを、キムが手伝う。

 メリカは空いている方の寝台に荷物を下ろし、キムと向かい合わせになるように座った。


「みんな仲良しなのね」

 先ほどの遣り取りを思い出して、メリカは言った。

「そうだね。ランとセインはあんな感じだけど、喧嘩になるってわけじゃないし。マリナはお兄ちゃん子だよね」

 そう言ってキムがマリナに笑いかけると、マリナはこくんと頷いた。

「おにいちゃんだいすき」

「ここに来たばかりの時はザムから全然離れられなかったのだけど、今は、どっちかっていうとザムの方がマリナを追っかけてる感じかも。ちょっと過保護なのよね」

 キムは肩を竦め、マリナの頭を撫でる。マリナは嬉しそうに耳を伏せ、くすくすと笑う。

「何かわからないこととかあったら、私かリアに訊いてね」

「うん」

 メリカは頷き、少し待った。


 そして、尋ねる。


「タフトは?」


 一通りの名前が出てきたのに、彼のことだけはなかったから。

 と、滑らかだったキムが口ごもる。

「あの子は……まだ最近来たばかりなの。まだちょっとここに慣れてなくて」

 悪い子じゃないんだよ、と、少し困ったような笑みを浮かべたキムに、どういうことなのだろうと胸の中で首を傾げたメリカだった。


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