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魔王育成日記  作者: トウリン
はじめまして

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27/42

過保護じゃない

「行ってきます!」

 元気いっぱいの声でそう残し、突然の展開もしくは強引な誘いに戸惑い気味なメリカの手を引いたジルが軽やかな足取りでギルド本部から駆け出していく。どこからどう見ても、明らかに、メリカはこの事態に困惑していた。


 本当に、行かせて良かったのだろうか。


 シーリィンは今からでも追いかけようかと思ったが、彼が動き出すより早く、カイトが「さてと」と呟いた。

「じゃあ、俺らも行くか」

 椅子から立ち上がったカイトに、シーリィンが眉根を寄せる。

「行くとは、どこに?」

 あれだけ不安そうだったメリカを放って、自分は遊びに行くつもりなのか。

 睨んだシーリィンに、カイトは平然と答える。

「もちろん、あいつらを追いかけるに決まってんだろ」

「だが、さっきは――」

「ついていかねぇとは言ってねぇだろ」

 シレッとカイトに返されて、シーリィンは眉間のしわを一層深くする。


 先ほどの遣り取りを思い出し――


「言って、ない、な」

「だろ? っと、早くしないと見失うな。ほら、さっさと行くぞ」

 戸口に立ったカイトが扉を開いて急かしてきたが、シーリィンとしてはなんとなく釈然としない。最初からついていく予定であったのなら、子どもらだけでの行動に反対したシーリィンは、一人で貧乏くじを引いたことになるではないか。

 と、シーリィンの不服顔に気づいたように、カイトがニヤリとする。

「たまにはお前が口うるさい役やってもいいだろ? 基本、いつもそっちが甘やかす係なんだからよ」

「別に、甘やかしてなどいない」

 ムッとした口調で言ったシーリィンに、カイトが呆れ顔を向けた。

「はぁ? お前、自分がこの一年の間に作った数々の魔道具のこと、忘れちまったのか?」

 シーリィンとカイトの会話を聞いて、興味津々のコーサルが参入する。

「そんなに色々作ったのか?」

「ああ、すごいぞ。なあ、シーリィン」

 にやにやと笑いながらカイトが言った。

 揶揄する口調が腹立たしい。

「あれらは必要だから作っただけだ」

 追尾式運搬人形は、非力なメリカが畑の収穫物を運ぶときに必要だ。

 室内温度調整機は、体力のないメリカが気温の変化で体調を崩さないために必要だ。

 自動奏楽機は、独りで眠るようになった幼いメリカが夜の暗がりで不安にならないために必要だ。

 他にも幾つか――片手の指の数ほどの魔道具を作ったが、何一つとして無駄なものはない。

 至極もっともな理由をシーリィンは挙げてみせたが、カイトはやはり妙な顔をしているし、今は隣でコーサルも同じような表情を呈していた。


「な? 過保護だろ?」

「オレもたいがいだと言われるが、これに比べれば……」

「これが最初は、名前も呼んでやらないニコリともしてやらない塩対応だったんだからよ。信じられるか?」

「人間、変われば変わるものだ。かくいうオレもな――」

 こそこそと顔を寄せ合うカイトとコーサルに、シーリィンは不機嫌な声を投げる。

「早く追わなくていいのか」

「ん? おっと、いけねぇ。シーリィン、追えるか?」

 昼を過ぎ、祭りがいよいよたけなわへと向かいつつあるのか、来た時よりも更に人が増えている。

 本部から足を踏み出したカイトが、往来を行き交う溢れんばかりの人波をぐるりと見渡し問うてきた。

 シーリィンはそれに応えずさっさと歩き出す。


 メリカに制御の仕方を教えてから、かつてのような、目も眩まんばかりの無節操な力の放出はなくなった。しかし、それでもなお、彼女の特異な存在は、距離を隔てていようが人込みに紛れようが、否が応でも感じ取れる。

 新月の夜に輝く導き星を目指すように、シーリィンは確かな足取りでメリカを追った。

 元々交易が盛んなギルエルだが、祭りの今日は特に馴染みのない顔が多い。普段であれば、コーサルの娘であるジルとその同行者に手を出すような者はいないだろうが、こうも余所者が多いとなると、気が気ではない。


「おいおい、シーリィン、そんなに心配するな。うちの連中も総出で見回っている。怪しい輩には目を光らせてるよ」

 言いながら、コーサルが街角に顎をしゃくった。確かに、そこにはギルド員が佇み、隙のない眼差しを道行く人々に注いでいる。

「お、あそこにもいるじゃん。――ホントに総出なんだな」

 カイトの台詞に、コーサルが頷く。

「ああ。今年はいつもより人の入りが多くてな。職人たちにも頼んでいるよ。何か見かけたら戦士ギルドの連中に報告してもらうようにしている」


 のんきな二人が、心底、腹立たしい。


 シーリィンは彼らを無視して先を急ぐ。

 行く手を阻む人込みを掻き分けるようにして進むうち、人混みの隙間に見慣れた金髪がチラチラと見え隠れするところまでこぎつけた。シーリィンはそこでようやくホッと息をつく。守りの護符を渡しているからメリカに何か異常があればすぐにわかるだろうが、それでも、実際に姿が見えると見えないとでは、安心の度合いが違った。


「お、いたいた。楽しんでるみたいじゃないか」

 シーリィンの隣に並んだカイトが、目の上に手のひらをかざしてそう言った。


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