表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/65

それぞれの思惑 8

 私の返答にガッカリした表情を見せ、私の隣に並び直す。


「そっか。低音がしっかりしてて、胸にズキュンとくるイケボだったな〜」

「かもちゃんが聞いたのって『おい』だけじゃないの?」

「おい」


 聞き慣れた声が入ってきて、肩に手が置かれる。私とかもちゃんを抱くように、体重をかけてくる。


「どう? 俺の声?」

「瀬尾く〜ん。嫉妬?」

「うん。嫉妬」

「きゃ〜!」

「月奈への愛なら、いくらでも囁くよ」

「だって〜! ツッキー!!」

「私も囁いてあげるよ」

「「え?」」

「瀬尾、離れろ? しばくぞ」


 瀬尾とかもちゃんが吹き出した後、村坂と水波さんが一年三組から離れていく。村坂は顔が小さく、足が長く、モデルみたいで、その隣の水波さんは線が細く、華奢で、お似合いだった。


「あ、顔面ランキング二位の水波さんじゃん!」

「教室に淡成日奈がいたのに見なかったな、あいつ」


 かもちゃんと瀬尾に同時に話され、どちらがどんな内容を話しているのか、聞き取れなかった。聞き返そうと横を向くと、教室の中で私の席に座っているお姉ちゃんの姿が目に映った。


 窓からの風で揺蕩たゆたう艶のある絹のような髪、手元のノートを見るために伏し目がちの表情、手に握られた色鉛筆は白い肌を強調させる。

 光に包まれるその姿は、神の御加護なのか?言葉では形容できない美しさに、言葉を失い立ち尽くしていた。


「"あの"淡成日奈に興味ないなんてことは、あり得るのか?」


 瀬尾から、言葉が溢れ落ちる。


 もし、あの姉に興味がない人がいるとするならば“自分は大勢の中の一人にならない”という信念を持った人か、余程の理由がある人かだろう。好みもあるだろうけど、美しい人は見てしまうものだと思う。


「月奈…?」


 沈殿、ろ過、加熱殺菌の処理をされた天然水のように、濁りのない透き通った声が響く。その声は心地よく、癒し効果まである。


「もうっ。待ったんだけど。遅いよ!」


 ガタッと音を立てて椅子から立ち上がり、キッと鋭さを感じる目でこちらを睨みつける。怒りの目で、普段より小さくなりがちだけど、それでも大きく、迫力が違う。

 数秒、痛い視線を向けられたが、次第に目尻は下がり、口角は上がった。


「あ。月奈のお友だちの……かもちゃんと瀬尾、くん!」

「え。名前、覚えてくれたの?」


かもちゃんが嬉しそうに反応する。入学初日に会ったぶりだったかな、この三人は。


「覚えるよ! 月奈の大事なお友だちだから」


 太陽のような笑顔は、目を細めてしまうほど眩しい。しかも、その笑顔は私のための笑顔で。とろけたように笑うその表情は、一撃必殺技の破壊力。


「瀬尾くんも、月奈の友だちってことでいいんだよね?」

「……」


 瀬尾からの返事はない。瀬尾はと言うと、お姉ちゃんに釘付けだった。まるで、石化されて時を止められたように。


「瀬尾くん…?」


 ハッとした瀬尾は、慌てて口を開いた。


「あああ、月奈と似ているなって改めて思って…!」

「そうでしょ。双子だからね」


 お姉ちゃんは私の席へと戻ると、机に乗ったノートや色鉛筆を片付け始める。かもちゃんが、そーっとノートの表紙を盗み見しようとしていた。


「ん? ノート? 気になる?」


 お姉ちゃんは、隠すことなくノートを手に取ると、かもちゃんに渡した。かもちゃんが許可を求めるようにお姉ちゃんを見ると、お姉ちゃんが頷き、それを合図にかもちゃんは喜び、期待をしてノートをペラペラとめくった。


「………レシピのノート?」

「うん。自分が作った料理をまとめたノートなんだ。料理のイラスト、材料、作ってみた感想、評価…一つ一つノートに書き込むことでレベルアップしてことを認識するの」

「淡成家の料理担当は、日奈さんなの?」

「料理…というか、家事担当かな」

「家事を全部?!……失礼かもだけど、ご両親は?」

「健在で〜す」

「そうなの?」

「うん。家事をやってるのは、花嫁修行的な?」

「え〜何それ?」

「ふふふ。ウケた?」

「面白いんだね、日奈さんって。もっととっつきにくい人なのかと思ってた〜」

「よく言われる」


 笑顔だけじゃない。心も太陽みたいで、周りの人に光を分け与え、体を温め、笑顔にさせる。

 でも、近すぎると火傷どころか、溶けてなくなっちゃうから適度な距離で。時には、その熱を隠して。


「さ、月奈。帰るよ」

「毎日一緒に帰ってて、仲良いよね」

「月奈とは、夜更かしでガールズトークするぐらいの仲かなっ」

「え〜恋バナかあ。いいね〜」

「かもちゃん」

「うん?」

「瀬尾くん?」

「…おう」

「これからも、月奈と仲良くしてあげてね」


 ウインクで星が飛ぶ幻を見させる。私の大好きな、お姉ちゃんだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ