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暴走のその先に 15

 お姉ちゃんと倒れ込む。ドクドクと生温かい液体が頬に流れるのを感じて見上げると、お姉ちゃんが左胸から血を流して私に覆い被さっていた。


「…お……!」

「日奈…なんでお前!!」


 薄らと目を開けたお姉ちゃんは、笑いながらこう言った。


「影武者からの解放よ。今までありがとう。あたしのことはいいから、天宇と逃げて」

「やだ! お姉ちゃん! お姉ちゃん!!」


 立ち尽くすSui。私を立たせて逃げようとする天宇。

 なぜだか辺りにサイレンが鳴り響き、救急車が到着した。


 ぐったりしたお姉ちゃん。体に力が入らない私に、天宇は大きな声を出す。


「月奈! 姉ちゃんの望みを叶えてやれ! 逃げるんだ!!」

「…だけど……」

「姉ちゃんの命を賭けた選択を無視するのか!?」

「……」

「月奈、これからは俺のために生きて」

「……え」

「俺のために生きるんだ!」


 天宇の必死な表情と言葉が私の心に届く。だからこそ、私はお姉ちゃんなしでは生きていけない。


「お前が姉ちゃんの側にいてもできることなんてない!」


 だけど、私はお姉ちゃんの側にいたいんだ!


 天宇を振り解き、お姉ちゃんに駆け寄る。血を流していても、顔色が悪くなっていても、それでも美しい私の大好きなお姉ちゃん。



 後で知ることになるが、百十九番通報をしたのは低音のいい声だったらしい。救急車が到着後に逃げ出そうとしたSuiを足の速い男が揺動し、国内トップクラスの警備会社から派遣された黒服集団がSuiを確保し警察に引き渡したようだ。

 そんな男女に声をかけた女は「あいつに借りがあったからね」と話したと言う。



ーーー…


 ニュースアプリには“非道な殺人鬼 哀れな最期”の見出しがつけられた。そして、明かされる野荒相の供述内容。


 殺し屋としてのコードネームは蜘蛛糸くもいとであること。

 学校に出入りできていたのは学校の弱みを握っていたこと、その弱みは学校側にとっても不都合なものだったため通報されなかったこと。

 何度か殺しにきた組織の人間を返り討ちにしたことで組織が復讐に燃えたこと。

 偽の陣東は本物の陣東に悟られないよう、一度組織に戻された後に殺されたこと。

 組織と野荒相の争いの種であった子どもは二人で、一人は婚約者の影武者にし、もう一人は姉妹の監視役にしたこと。

 組織の一人は「海神だと言っていたから舟葬してやった」と話していること。


 殺意を認めていることから殺人罪が成立し、他に犯した罪の供述も始めていること。



 お姉ちゃんが入院している間、学校の黒板やSNSに“陣東殺し”や“妹に村坂や瀬尾を取られた腹いせで殺人鬼を呼んだ”など書き込まれた。

 一時期、警備が強まったのは殺し屋が出入りしてたこと、そして、その殺し屋の許嫁がお姉ちゃんであることが世間に広まってしまったからだ。


 私も殺し屋をかくまっていたのか、村坂や瀬尾が自分のものにならないからお義兄さんの力を借りたのかなど言われた。


 他の生徒からしたら、迷惑なことだろう。学校に殺し屋が出入りしたことで他校の生徒や親、世間からも同類のように扱われたからだ。


 関係のない人たちまで巻き込み、迷惑をかけ、不安や憤りを感じさせたことは申し訳なく思っている。

 だけど、事実でないことを妄想し、集団で攻撃することは許されることなのだろうか。


 お姉ちゃんだけは、私が守る。そのためなら何者にでもなれるんだ。


「噂というう◯◯に集るハエみたぁい」

「お姉ちゃんになにかするやつがいたら連帯責任で皆殺しにしてやる。だって、殺人鬼の許嫁の妹ですから」


 力は力でねじ伏せるしかない。



ーーー…


 殺人などの罪で逮捕、起訴された後、地方裁判所で開かれた第一回公判で、裁判長が「最後に被告人から何か述べたいことがあれば述べてください」との言葉に、野荒相は「控訴はしません」と宣言をした。

 犯した複数の犯罪が併合罪という取り扱いをされるからといって、殺人罪で死刑になる確率が高いのに控訴しないことは死刑を受け入れる意志を感じた。


 世界では死刑の廃止が進んでいるが、日本では絞首刑が執行される。



 それを聞いたお姉ちゃんは「太陽に近づきすぎたから、相は消えるのかな」なんて泣きそうな顔で冗談を言っていた。



 逮捕から四年後、野荒相の死刑判決が確定され、死刑囚となった。

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