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暴走のその先に 10

 逃げたくて、きびすを返そうとすると、目の前にがたいのいい壁に行手をはばまれる。


 私は、顔を上げられなかった。


「最低だな、お前。見損なったよ」

「……」

「俺は犠牲にならない。お前とも距離を置く。じゃあな」


 川原は、どんなことがあろうとかもちゃんの味方だ。こうなることは、分かりきっていた。

 例え、川原が矛盾に気づいていたとしても、結果は同じだろう。


「おい! 今度は瀬尾がやられた!」


 みんなの注意が一斉にその生徒へ移る。階段を駆け上がってきたらしい男子生徒は、汗を拭いながら息を切らしている。


「どういうことだよ?!」


 他の生徒が声を上げる。その人の言葉に興味を持った人が他クラスからも寄ってくる。


「学校の近くの草むらの中で発見された! 犬の散歩をしてた人が第一発見者らしい。村坂と同じでボコボコにされてた」

「その話本当かよ!?」

「じゃあ、それもあいつが?」


 視線が私に集まった。多くの嫌悪の目にたじろぎ、半歩後ろに下がる。


「こいつ、警察に突き出そうぜ」

「そうだよな。俺、電話するわ」


 話を聞いた人たちが、私を捕まえようと手を伸ばしてくる。髪を掴まれ、服を引っ張られ、爪が皮膚にめり込み、強い力で抑え込まれる。


「待て! それがな、第一発見者が言うには、二十代から三十代ぐらいの男が逃げるのを見たんだと」


 ざわつく周囲。これで誤解が解けるかと期待をしたが。


「え、じゃあ、村坂はこいつの犯行で瀬尾は別ってこと?」

「わかんねー」

「どっちにしても警察に連れて行こうぜ」

「そうだよな」


 かもちゃんの呪文はしぶとく、期待は儚く消えた。私以外の意見が一致し、数の暴力に負け、命をまた他人に支配される。

 闇組織から自由になったのに、今度はこの世界でも縛られるのか。


 私に自由は、ないのかもしれない。


「みんな! あたしの意見を聞いてほしい」


 その声に、みんなが静まった。私をおとしめた張本人、かもちゃんだ。

 近くの椅子に上履きで上り、演説をするかのように話し出した。


「ツッキーと瀬尾くんは、最近全然関わってないの。だから、もしかしたら瀬尾くんのことも恨んでて…今の事態になってしまったのかもしれない」

「……だったら、全部こいつが「だからね、最後にあたしが瀬尾くんに謝る機会を作ってあげたいの。あたしがツッキーを病院に連れて行くから、警察に言うのは待ってほしい」」


 その言葉に困惑する周囲。他の人からすれば、犯人は早く捕まってほしいと思うだろう。


「相手は、村坂や瀬尾を倒したやつだよ? 嘉森さん、一人で大丈夫?」


 クラスメイトがかもちゃんを心配する。その声に賛同する声が次々に上がったが、かもちゃんは首を横に振った。


「大丈夫。さすがに、親友には手を出さないよ」


 かもちゃんの勝利の微笑み。みんな、かもちゃんの手のひらの上で転がされている。


 完全なる敗北だった。



 校門までかもちゃんの臣下たちがついてきて、かもちゃんを見送った。


 私とかもちゃんはタクシーに乗り、病院へと移動する。

 その間、かもちゃんは鼻歌でも歌い出しそうなくらい気分がよく、それを隠そうともしていなかった。そして、私に話しかけてくる神経に驚いた。


「どうして、川原くんに弁解しなかったの?」


 無視してやろうかと思った。私は、そこまでいい人でも心が広いわけでもない。

 でも、ここで無視したら余計に自分がみじめな気がして、むかむかしながらも口を動かした。


「どうせ、意味ないじゃん」

「そうかなぁ?」

「自信あるんでしょ? 川原は、初めからかもちゃんに惚れてたから、かもちゃんを疑いもしないって」

「だとしたら?」

「私がやってないと言ったところで、誰も信じない。実際、かもちゃんが去った後にしばらく村坂と一緒にいたから、その時にやったんだろって言われたら否定できない。私にはアリバイがない」


 ラジオも流れない車の中で、私とかもちゃんの声だけが響く。

 私は、以前のかもちゃんといるような錯覚に襲われそうになる。優しくて癒される、かもちゃんだと。


「逃げた男のせいだと言えばよかったのに」

「かもちゃ…あなたが、そうさせなかったんでしょ? 先手打って、芝居したくせに」

「あたしが間違ってるって言えばいいのに」

「……」

「あたしが村坂くんに振られたって、だからあたしが村坂くんをやったかもしれないって言えばよかったじゃない」

「かもちゃんは村坂をやらない」

「はぁ? なんで言い切るわけ?」

「かもちゃんは、私に矛先を向けるだろうから」

「……」

「思い返せば、初めて村坂とかもちゃんが会話した時に、村坂がかもちゃんを無視したことで、既にかもちゃんは私に怒りを抱いていたはず。顔ランキングが十九位の私に負けたと思ったら、屈辱だろうと思う」

「ええ、屈辱だったわ。絶対やり返してやるって誓った。だけど、あたしがあんたに目をつけてたのはその時じゃない。入学式からだった」


 かもちゃんは、女なのに制服のズボンを履く理由が注目を浴びたかったからだと思ったらしい。それが気に食わなくて、近づいたのだと。


「あんたにもてあそばれたと思ったこともあった」


 それは、村坂に言われて川原に告白まがいをした時だろう。

 川原がかもちゃんを好きなこと、かもちゃんが川原の好感度を上げたところで私が割り込んできてしゃくだったと言う。

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