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暴走のその先に 3

 特徴を聞いて、パッとニヨルドのことを思い浮かべてしまった。

 そんなはずはない。彼らは海へ帰…海へ帰るってどういうことなのだろうか。私は勝手に海を経て本拠地へ帰ったと認識していたけど、それは海へ帰るという表現をするだろうか。

 それか、海へ帰った後に組織の上層部に消されたか。


 …考えすぎか。とにかく、お姉ちゃんを信じたいからSuiも信じよう。きっと、大丈夫だ。



ーーー…


 あれから一ヶ月が過ぎ、文化祭が近づいてきた。


 放課後に文化祭の準備を終え、自分の部屋で休んでいると村坂から動画サイトのURLが送られてきた。

 男性のイラストがサムネイルになっていて三日前にアップされた動画だった。見ろ、ということなのだろう。


 面倒だと思いながら、イヤホンをつけて再生ボタンをタップすると、低くはっきりした聞き覚えのある声が流れ出した。


ーーおい。俺様が帰宅したというのに出迎えはどうした?あ?体調が悪いだと?知るかよ。お前は俺のことだけ考えてろよ。俺を想ったら、体調悪いことなんて忘れるだろっつってんの。ちょっと、こっちにこい。お前のいろんなところにキスしてやるから、黙って感じてろ。


「……」


ーー目、潤ませちゃって。可愛いな。そんなに俺のことが好きで堪らねぇのか?もう、我慢できねぇ。逃げられると思うなよ。これからお前を抱き潰してやるからな。


「……」


 なにを聴かされたんだ、私は。セリフもそうだけど、この声がすごく村坂の声に似てて、体がぞわぞわした。

 ふと思い出したけど、かもちゃんが村坂の声をいい声と言っていたことあったな。村坂が私にこれを聞けと言ってきた理由は自分の動画だと考えれば納得できる。


 でも、何のために?自慢のため?

 恥ずかしくなかったのか?バカにされる可能性を考えなかったのか?


『四つの試練を与えるからクリアすること』


 もしかして…あの意味が分からない試練も関係しているのか?


 この動画の投稿者の今までの履歴を探す。全部シチュエーション動画で、その中に見つけた。

 イイナリな女を言いなりにする動画や胸がコンプレックスの同級生の彼女の動画、嫌いなやつに告白して本当の恋人になる動画も。


 このための試練だった?


 村坂から電話がかかってきて、出る。


「聴いたか?」

「うん」

「どうだった?」


 なぜ私に感想を求める?自信があるから送ってきたんじゃないの?私になにを求めているの?


「いい…んじゃない?」

「嘘つくな」

「…好きな人は好きなんじゃない?」

「お前は嫌いってことだな」

「嫌いまでいかないけど」

「けどなんだ」

「私は優しく語りかけるような声がいいと思うだけ」

「あっそ」


 ブチっと通話を切られるかと思ったけど切られず、少しの間が空いた後に「どうしたらいいと思う?」と意見を求めてきたから衝撃を受けた。


「私の意見なんて当てにならないよ」

「黙って答えろ」


 本当に横暴なやつ。「あなたの意見が聞きたいです。お願いします」だろうが!

 それより、なんで急に私を頼ってきてるの?怖いんだけど。


「俺様でやってきたんだから、そのままやればいいじゃん」

「視聴者数が落ちてるから、このままじゃいけないんだよ。特にさっき送った動画は軽く炎上しかけて、俺自身よく分からなくなった」


 体調悪いって言ってるのに俺様男は自分勝手だからな。そこにキュンとくる人もいれば、体調悪い時くらいは優しくしてと思う人もいるだろう。


「応援してくれている視聴者もいるんでしょ?今回のことは反省して、まだ応援してくれる人たちを大切にすればいいじゃん」

「俺はもっと伸びたいんだ」

「…伸びたい気持ちも少しは分かるけど、私が視聴者だったら『伸びたい』って言って頑張っている人よりも『視聴者を喜ばせたい』または『自分の良さを追求したい』って頑張っている人を応援したいと思っちゃうな」

「お前の意見を聞いて損した」


 ブチっと雑に遮断される。意見を言えば言うでそういう反応になるくせに。

 そういうところなんじゃないかな、原因は。視聴者様は村坂が思ってるよりいろんなことを感じ取ったり察しているだろうよ。


 とはいえ、村坂がクズなだけではないことが分かり、村坂の名前を鬼から“俺様修行中”に変えた。悪くない。


「なにドア開けっぱなしにしてるの?」


 お風呂上がりの天宇が廊下から丸見えな私の部屋に文句を言う。

 眉間に皺を寄せ、不機嫌そうな顔だ。


「梅雨だからじめじめしてるじゃん? だから」

「ドア開ければ快適になると? 正確に言えば、風通しをよくすることでだったら対策になる」

「細かいな〜。へいへい」


 目線を天宇からスマートフォンに戻し、これから聴く曲を決めるために音楽アプリを開く。トップ画面に最新のおすすめ曲が出ているけどマイページのプレイリストを選択した。


「なに聴いてんの?」


 片耳のイヤホンを取る天宇。私の腕に水滴が落ちる。雨漏りでもしたかと思ったが、見上げたら天宇の髪から落ちた雫だった。


「ねぇ! 天宇が湿度上げてんじゃん」

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