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暴走のその先に 1

ーーー…


 Suiの出現場所である学校に警察が彷徨うろつくようになった。学校に指名手配犯が出入りしていたとなれば、警備を強めるのは自然のことだろう。

 ここで焦って学校に行かなくなったり引っ越ししたりしたら怪しまれるため、今まで通り過ごそうとお姉ちゃんと決めた。


 学校には陣東じんどうがいなかった。保護対象となったのかもしれない。

 ゴールデンウィーク明けの学校は気だるい雰囲気が漂うものなのだろうけど、ピリついた空気を肌で感じていた。


「あああもうすぐ中間テストか〜。なくならないかな」


 配られたプリントを見ながら、かもちゃんがただをこねる。足もパタパタとしていて、気持ちを体で表している。


「かもてゃん! 中間テストでさ、平均点以上だったら……俺と」


 かもちゃんの後ろの席の川原が割り込んでくる。ガッサガサの声で二度目のデートの申し込みをする熱意には感服するが、平均点以上とは締まらないな。


「ツッキーより総合点が上だったらいいよ」

「ちょ、かもちゃん、何を言い出すの? 私の頭の良い悪いも知らないじゃん」

「ううん。そこじゃないの」


 そこじゃなければ、なにで判断しているのだろうか。そういえば、バスケットボールの試合に行くか行かないかの時もかもちゃんは私の判断次第で行動を決めていた。今回も私の判断に任せるということなのだろうか。


 そうすることで、かもちゃんは何を得ようとしている?

 時々、かもちゃんの行動の意図が分からない。


「全部で八科目。合計点数が高い方が勝ち。どう?」

「川原が勝ったらデートで…私は?」

「貸しイチ?」

「俺が勝ったら“かもてゃんと二人で”デートで!」

「…まぁ、しょうがないか。りょーかい」


 川原は『平均点以上』という言葉から高得点が狙えることはないだろう。私の圧倒的勝利で決着だな。余裕のよっちゃん。おとといきやがれ。


「というわけで、そうと決まれば…おいお前」

「………」

「おい! てめぇだよ!」

「かもちゃんってなんの教科が得意なの?」

「聞けよこらぁ!」

「んー…国語系かな。誰がどういう心情なのか考えることが好きかも」

「そうなんだ。私、よくある問題で“作者の気持ちを答えろ”みたいなやつ苦手」

「分かるかも。時々知るか! って思うよね」


 でかい独り言を呟く川原をシャットアウトし、かもちゃんとあるある話に花を咲かせた。


 それは、テスト一週間前のことであった。



 テストまでに村坂関係で変化が起きた。


 村坂派から嫌がらせや掃除当番の強制があった。許容範囲だけど、村坂の奴隷だからって村坂の取り巻きまでに奴隷にされる筋合いはない。村坂に話しても「あっそ」で我関せず。


 そんな村坂とのプレイはコスプレやテクニックを使い継続中だけど、村坂が臭くなくなった。私の前ではキツい香水を付けることを辞めたらしい。

 あと、ブルーのカラコンを外すようになった。裸眼は焦茶だった。


 村坂の自然な匂いも目の色も、嫌いじゃなかった。



 お昼休みにかもちゃんと中庭でお弁当を広げた。


 強めの日差しが私たちを刺激するので、日陰に入った。日陰も紫外線があると聞くとビクビクしてしまうけど、学校の閉じた世界から少し離れた外の場所で一休みもいいかもしれない。


「ツッキー…」

「ん?」

「聞いていいのか分からなくて黙ってたんだけどさ」

「うん」


 かもちゃんが神妙な面持ちで話しかけてくる。言葉を選んでいるかもちゃんが話し出す前に受け入れる準備を整えた。


「シモジョウ? さん? とはどういう関係だったの?」

「ああ、その話ね」


 愛嬌あいきょうを振り撒くタコのウインナーを箸でぐさっと刺した。そして、噛み潰す。


「私が片思いしてただけだよ。先輩はお姉ちゃんしか見てなかったから」

「そうなんだ」

「結局、先輩はお姉ちゃんにフラれて、その“気持ち”を私にぶつけてきたの」

「え…?」


 困惑しているかもちゃんに笑いかける。そんな顔をする必要はない。


「もうあの顔を見なくて済むから清々した」


 過去は戻らない。傷ついたことに囚われていては、何も変わらない。

 私は、学んだ。経験をかてに私は前へ進むの。


「そっか」


 かもちゃんの頭の中にきっと、「瀬尾くんは?」という疑問が湧いただろう。でも、かもちゃんは聞いてこなかった。聞いてはいけないと判断したのだろう。

 瀬尾のことはかもちゃんに言ってないけど、クラスに来なくなったことから察しているみたいだ。


「あたしもね、実は言うかどうか迷ってたことがあるの」


 ミニスパゲッティをくるくるしているかもちゃん。話そうとしていることが想像できなくて、言葉を待った。


「あのね」

「うん」

「あたし…気になってる人がいるの」

「……そうなんだ」


 話の流れからして、あまり祝福できそうにない気がする。自分の中で警鐘けいしょうが鳴っている。


「三人気になってる」

「……んえ?!」

「川原くんは一途に想ってくれているみたいだし、瀬尾くんは大人で余裕あるし、村坂くんはやっぱりカッコよくて!」


 かもちゃんが化粧をしてた時、考えてみれば村坂と話をした次の日だった。川原がかもちゃんの心を射止めたからだと思い込んでいたけど、村坂への思いもあったのかもしれない。


「ツッキーだったら、誰がいいと思う?」


 まだ青々とした葉がコンクリートに落ちる。だからといって悲しまれることは少ない。


「うーん…川原かなぁ」

「えーそうかな?」

「腹立つことが多いし頼りないけど、一番安定しているかな」

「なるほどね」


 何かを考えながらかもちゃんが掴んだ玉子焼きは、真ん中が黒く焦げていた。

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