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姉妹の正体 10

『お前はそこにいた方がいい』

『たすくもあたしをすてるの?』

『俺は人を殺した。お前も殺す』

『それでもいい。すてられるのはいやだ』


 そして、それでも尚、お姉ちゃんはSuiにしがみついた。Suiがお姉ちゃんを引き離そうとしたけど、お姉ちゃんは頑として譲らなかった。


「淡成家に戻って、Suiが両親に条件をつけてくれたの。そして、両親抜きで暮らせるように家政婦を雇ったりもしてなんとか今日まで生きてこれたわ」


 椅子に全体重を乗せ、力を抜いてからまた起き上がる。私との距離を縮め、真剣な表情でお姉ちゃんは口を動かす。


「今日、警察の人に参考人として出頭して取り調べを受けて欲しいと言われたの」

「はい」

「それは別にいい。大したことじゃない。だけど、月奈は分かってないだろうけど、Suiは最初の殺人、次の強盗致傷、殺し屋としての数々…。逮捕されるということは、Suiの死を意味するの。絶対しないで」


 今度はあたしがSuiを守る、そういう意志が籠った目だった。



 それから、私が淡成家に来てからの話をした。

 家政婦の生口いけぐちさんの家事が手際よく素晴らしかったとか、お姉ちゃんが自立できるように生口さんから家事を教わった話とか、生口さんが辞めてからお姉ちゃんが淡成家の家事をしそれをSuiが見届けることになったとか、それぞれの記憶が一つの記憶になっていく感覚がした。


「そういえば、お金の件…ごめんなさい」

「謝ることないわ。月奈の居場所をなくすためにあたしがやったことだから」

「あのお金って…Suiが払ってくれてるの?」

「うん、そう。いくらかお父さんからももらってるらしいけど、ほとんどSuiが出してくれてる」

「そう、なんだね。申し訳ないな」


 お姉ちゃんや天宇はともかく、私は赤の他人なのに。Suiが払う義務なんてないのに。


「あ。そうだ、瀬尾くんからお金もらったんだった」

「…っぅえ? 瀬尾が?」

「うん。あたしのために使って欲しいって。三百万円くらい」

「さっ……お金持ちだったのか、瀬尾って」

「さー? どうだろうね?」


 肩をすくめるポーズを取ったお姉ちゃん。Suiや瀬尾の行動は、あなたの美貌が犯罪級の美しさだという証明なのだろうか。


たすくになにかプレゼントをしたいなぁ」


 Suiは水星から取ったらしい。惑星の中で太陽に最も近いからだと。Suiとの関係が明らかになったお姉ちゃんにはもう、偽名は必要なくなったのかもしれない。


「相に会いたいなぁ」


 ここにはいないSuiを想い、大きな瞳を涙で潤ませ、声を震わせ想いを言葉にする。

 祈るように両手を握り、無事を願う儚げな姿にその想いが余すことなくSuiに伝わればいいのにと思わざるを得なかった。



ーーー…


「ワシの名はニヨルド。闇世界の海神さ!」


 なにがニヨルドだ。なにが闇世界の海神だ。大口を叩くあの男の頭をぶち抜いてやろうかと思った。


 スコープから覗くその顔が親父あいつと被る。みんなにいい顔し、物で機嫌を取り、外面だけはいいクズ野郎だ。俺にだけ見下した態度を取り、何度か消されそうになった。なにかあったら「お前のせいだ」と責められた。

 親父あいつが生きていたら四十八歳。あいつと同じくらいの年齢だ。


 殺意で頭がどうにかなりそうだったが、今あいつをったら月奈も道連れにされるため、冷静になってから狙いを定め直した。



 月奈が天宇へ渡ったことを窓から確認し、手榴弾から逃れた雑魚へと拳銃を向けた。

 九ミリメートルの拳銃で装弾数九発。射程距離は約三十メートルだ。弾がもったいないので一撃で仕留める。狙うのは脳幹や心臓だ。


 生き延びた五人が銃を構え、撃ってくる。上手くコンテナに隠れ、タイミングを見計らい発砲する。薬莢やっきょうが落ちるのも気にせず、次々に撃ち抜く。

 物拾いの集団だから、銃の扱いに長けているわけではない。青二才の殺し屋でも十分に戦える。


「死ねー!!」


 回り込まれていたようで死角から現れた別の敵に仕込み刀を投げつけたが、弾は俺の左腕に命中した。そう簡単にはいかないようだ。

 近距離の散弾銃や中距離からの狙撃を交わすも四発を無駄にしたり急所から外し、こちらの残弾数は二発。残りの敵は二人。


 他の武器はアイスピックと体の各所に仕込んだナイフだ。いや、“アレ”もあったか。


「かかってきなさい、小僧」


 あいつが笑いながら仲間の死体を踏みつけ、挑発してくる。


 俺はなにかに乗っ取られたかのように、ただ“アイツ”を消すことを考え武器を振るった。

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