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姉妹の正体 7

「Suiはそんなことしないとでも思ってる? 助けてもらったから、いい人だと勘違いした?」

「そんなことは「ないと願いたいけどね。目を覚ませよ、ドリーマー」」

「私はドリーマーじゃない! Suiはお姉ちゃんのことを大事にしてる。だから、お姉ちゃんのご両親に酷いことをするはずないって思っただけ」

「Suiが姉ちゃんのことを大事にしてるから、そうしたんだ」

「…どういうこと?」

「自分で考えろ」

「なによ! 分からないから聞いてるのに!」

「聞けば答えてくれるっていう甘え考えだから、分からないんだ」

「もういい! 天宇のばか! ばーか!」

「…ガキだな。どっちが年上だよ」


 Suiがお姉ちゃんのご両親を傷つけるとしたら、どんな場合だろう。Suiとお姉ちゃんはお互いに執着し合っている。Suiはお姉ちゃんを監視という見張りをし、お姉ちゃんのためなら命をも捧げる。お姉ちゃんはSuiがいるから生きていると言っていた。2人の繋がりは強い。

 そのことから、Suiが意図的にお姉ちゃんを傷つける行動はしないと考えられる。傷をつける以外に予測する行動は…守る?お姉ちゃんを守るためにご両親を傷つけた?悪者はSuiではなく、ご両親だと?


 そう言いたいのかな、天宇よ。


「…お姉ちゃんに何をしたんですか」

「……」

「お姉ちゃんを傷つけたなら、私も黙ってませんよ」

「……」

「ねぇ!」


 後ろから肩を掴んで揺らす。ハンドルがそれに合わせてガタガタと動き、車が安定を失う。


「落ち着け、月奈!」


 天宇が私の首根っこを掴む。顔全面に不機嫌さを出して、座席に沈んだ。


 車は再び安全運転で安定した走りを見せる。私の言動に全く影響されない。


「綺麗事言ってんなよ月奈」

「はあ?」

「お前だって姉ちゃんを傷つけてるんだ。あの人を責める権利はない」

「……権利ってなに?」

「……」

「天宇だって正論ばかりぶつけて正しく生きているつもりだろうけど、いつも正しくなんて生きていけないことが多いことも知った方がいいと思うよ。確かに天宇の言葉は正しいよ。でもね、正しいことが凶器になることもあるんだよ」

「今度は逆ギレか」

「そうやって自分の首を自分で締めていることにも気づかないんだ」

「月奈みたいに生きたくないんでね。苦しくなっても構わない」

「あっそう。勝手に苦しんでろ!」


 なんなの、天宇こいつ!さっきは優しかったのに。

 幻聴だったか?優しい言葉を聞きたいがために自分で優しい言葉を作ったのかもしれない。


「……」

「……」

「……」


 私と天宇が黙ると静寂が訪れた。車が動く音、ウインカーの音、車が横を通り過ぎる音、自転車を漕ぐ音、子どものはしゃぐ声…いろんな音が届いた。

 普通の世界にはこんなにも音に溢れている。その音にも鮮やかな色が付いている。明るさや温かさを感じる。


 自分の両手首を眺める。残った跡が手錠のようで、被害者じゃなく加害者のよう。

 権利がない…そうかもね。正しいよ、天宇は。


「…傷つけたなら、ごめん」


 やっぱり、私は優しい人たちを傷つけて生きている。



ーーー…


「ただいま」

「いま〜」


 天宇が解鍵し扉を開けてくれる。私に続いて天宇がだるそうに言うと、リビングからドタバタと足音が迫ってきてお姉ちゃんが私の胸ぐらを掴んだ。


「どういうつもり? 警察呼ぶなんて!」


 お姉ちゃんの力では私を持ち上げることはできないけど、目力で私を殺すことはできるくらいの迫力だった。血走った目でギロリと睨まれたら、蛇に睨まれた蛙のように動けない。


「Suiと話し合うって言ったじゃない。嘘だったの?」

「月奈じゃないんだって」


 天宇がさりげないフォローに入る。内側から施錠すると、ゆっくりと靴を脱ぎ出した。

 私とお姉ちゃんは殴り合いを始めてもおかしくない空気なのに、マイペースな野郎だな。


「だったら誰が…」


 私とお姉ちゃんは数秒無表情で見つめ合う。思い当たる人物がいた。


「「陣東」」


 自分の命の危険を察知し、先手を打ったのだろう。ただ、今回はそのおかげでお姉ちゃんがニヨルドに捕まらずに済んだ。助かった。

 その代わり、Suiがこの辺に出没すること、お姉ちゃんと関わりがあることがバレてしまったはずだ。


 それにしても、ニヨルドはお姉ちゃんのことは毒殺しようとし、陣東は臓器を売ると脅した。私は生け取りし奴隷にしようとしたのにこの差はなんだろうと思ったけど…私に本当の家族はいないからだろうか。

 私だったら探す人がいない。足がつくことは避けたのだろうか。


 天宇はリビングに消えていく。時計の秒針が何度か動いた後、お姉ちゃんは私から手を離す。


「あたしの部屋で話すわよ」

「はい」


 お姉ちゃんの後をついていく。お姉ちゃんの部屋の前でウイッグを取り、入室する。音を立てて、鍵は閉まった。


「ありがとうございました」


 入り口のフローリングの上に座った後、お姉ちゃんに向けて言った。今回助けに来てくれたのはSuiだけど、それはお姉ちゃんがSuiに言ってくれたからだ。


「だから、あたしは月奈に逃げてほしかったのに」

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