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姉妹の正体 5

 ニヨルドは私の背後から喋り、腕を引っ張って立たせると頭に銃を突きつけた。


「狙いは分かっているのだから、それを押えてしまえば身動きできんのだよ」


 バタバタと多数の足音が響く。視界にはなにもない。命を他人に支配されている感覚に昔を思い出し、体が震え出す。

 ああ、戻ってきてしまったのか。この世界に。


 思い出してから分かる。きっと私は、この世界に戻りたくなかったから記憶を無意識に消したんだと。私の体からの防衛反応だったのだと。


 足に力が入らなくなるも、ニヨルドはそうさせない。少しでも動いたら引き金を引くとでも言いたそうだった。


 私がここで死んだらSuiが来たことが無駄になる。私がSuiを殺したも同然だ。

 ニヨルド側も私を奴隷にするつもりだから殺しはしないだろうけど、消えていった同士たちのこともある。


 何をされるか分からない。何があっても不思議じゃない。


「随分な挨拶じゃないか」

「サプライズも乙なものでしょう?」

「生意気なクソ野郎だな」

「あなたも集団の中では下っぱなのにそんなに息巻いちゃって。大ボスには許可取ったんですか? まさか下剋上をお考えで?」

「余程死にたいらしい」


 緊迫したやり取りが続く。三百六十度、どこから攻撃が来るか分からない状況で、さすがのニヨルドも余裕がなくなっていく。


「だいたい、預けていた物を返せと言っただけだろう。なぜ、歯向かう? お前の子ではあるまいに」

「理由は簡単ですよ。俺の愛しい許嫁が心底その子を気に入ってましてね。それだけです」

「え……?」


 どういうこと?何を言ってるの?

 恐怖やら戸惑いやらいろんな感情といろんな出来事や事実が頭の中でごちゃごちゃしていて、脳の処理が追いつかない。脳からの命令が降りてこないからどんなリアクションしたらいいのかも分からない。


「人助けとは…贖罪しょくざいのつもりか?」

「いいえ? 許嫁の美しい愛には命をかける価値があっただけです」

「バカップルの戯言ざれごとか」


 デバフ効果のあった煙幕は、徐々に薄れていく。作戦があったように思われたが、特に何も起きなかった。

 Suiはどこにいるんだろう。そう思った時だった。


 私から遠く離れた場所から大量の何かがばら撒かれた。


手榴弾しゅりゅうだんだ! 爆発するぞ!!」


 部下の誰かが叫び、急いで散り散りになって逃げる。こちらにも何個か飛んできて、気を取られたニヨルドからすり抜けるも行手をはばまれた。


「なんだ? 不発か…?」

「これ、手榴弾のレプリカじゃね?」


 ざわざわと手榴弾は偽物だと広まり、にやりとした部下の一人がニヨルドに声をかける。


「ボス、あいつ喇叭らっぱを吹いてます!」

「馬鹿野郎! そっちが偽物でもこっちが偽物だとは限ら……」


 こちらに飛んできた手榴弾の中で一つだけカーンと大きな音を立て、閃光と爆音がとどろく。


「月奈! 逃げろ!!」


 私は背中を向けていて光を見ずに済んだため、ニヨルドがひるんでいる間に出口へと走る。

 キーンと耳鳴りがして、足元がふらつくがSuiがくれた一秒を無駄にしたくなかった。


「待て! お前ら、やれ!!」


 武器を構え、敵を殲滅せんめつにかかる。けたたましい発砲音と薬莢やっきょうの落ちる音が鳴り響く。

 走ることに集中していても心の中は怖くて、不安で、どうしていいか分からない感情が渦巻く。弾丸だんがんに当たるのも時間の問題だ。


“月奈。日奈を守れ”


 そう聞こえた気がした次の瞬間に、大きな爆発音で倉庫が悲鳴を上げた。


「Sui!!」


 その後、トラップが発動したかのように連続で地響きを立て、棚が倒れたりコンテナが壊れたりして、争奪戦の痕跡が残っていく。


 私のせいでSuiが…!そんなのダメだよ!!


「逃がさない! No.114237! ワシと来い!!」


 ニヨルドの声が爆煙ばくえんの奥から聞こえる。うっすらと人の形をした影がどんどん濃くなっていく。


 私はSuiを思う気持ちと、Suiの想いや行動の意味を天秤てんびんにかけ、後者を手に取った。


 出口まで来たはいいものの、足で扉は開かない。爆煙もなくなってきて、また銃声が飛び交い始め、弾が私の頬をかすめた。


「次は当てる。しかばねでも奴隷はできるよな?」


 終わった。Suiが命懸けで作ってくれたチャンスを私はかせなかった…。


 ごめん、Sui。ごめんなさい、お姉ちゃん。


ーーガンッ!


 扉の反対側から音がし、倉庫内に少しずつ光が差し込んでいく。温かい日差しが私を出迎えた。


「よー」

「…なん……」

「いいから早く来い。巻き添えはごめんだ」


 腕を掴み、引っ張られる。足がもつれながら、私を導く姿を見て思った。


「お姉ちゃんは!? 無事なの!?」


 返事もなく、近くに停まっていた車の後部座席に私を投げ込むと自分もそこ隣に座る。そして、運転席に座っている人に声を掛けると車が発進した。


「待って! Suiがまだ中に!! 助けないと」

「どうやって?」


 大きく溜息をつくと、その漆黒の瞳を私に向ける。冷ややかな視線、呆れたような声色、しんとした車内。


 私は口を閉じた。


「…姉ちゃんは無事だ。月奈が呼んだ警官がうちに来てるからな。良かったな」

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