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姉妹の正体 4

「怖くないの? 死ぬんだよ?」

「覚悟してたんです」

「…覚悟、ねぇ?」

「それに、あの人となら天国だって地獄だって着いていきます」

「ほう? それはワシらがあいつを殺すと思っているということかな?」

「これを見て、心が折れない人がいるんでしょうか?」

「それが普通の反応だよね」


 Suiの復讐だと聞いたので悪に染まった一般人かどこかのチンピラか大きくても日本の反社会的勢力だと考えていたけど、規模が違う。日本を超えたレベルの組織だ。

 こんな組織にSuiが狙われてるなんて、あの人は何をしたんだ。未確認生物並みの組織だぞ。


 私は今、世界で一握りしか経験できないことを体験してるのではないだろうか。


「ワシらのような裏世界をべる者があんな若造に力を貸してやってるんだからもっと感謝すべきだと思うよねー?」

「力を…?」

「聞いてない? …まぁ、仕事の話は恋人に話さないか。あいつにねー、世話してやってるのよ。銃とか依頼とか。殺し屋としてやっていけるようになったのは誰のおかげなんだって話なのだよ。この裏世界にも守るべきものがある。分かるよね?」


 詳しくは分からないけど、殺し屋は依頼されて遂行するため確かに依頼がないと仕事がない。生活ができない。

 Suiにとって依頼をしてくれるこの人は貴重なはず。


 だったら、なぜ?


「知ってるかい? 殺し屋の報酬は今や二十から三十万円。新入社員の給料で払える人もいるような額になった。ワシらの若い時は数千万が相場だった。変わったもんだ」

「命の恩人と言っていいほどのあなたをなぜSuiは?」

「君にそっくりな少女のせいだ」


 私…?月奈()のせいでSuiがこの人たちを裏切った?なんでそんなことを?


 意味が分からない。


 困惑していると、手下がボスに耳打ちする。口角を上げたボスは厚めの前髪を横に流してから口を開いた。


「ごめんねー? もっと自分が死ぬ理由を話してあげたかったんだけど、そろそろ本題に入らないといけない時間になったようだ」

「本題?」

「うん。これから、その少女を呼ぶ」

「……え?」

「君が恨むのはワシらではなく、ワレらNo.114237だ」


『No.114237、それがお前の名前だ。お前はクライアントの奴隷になるために生きるのだ』


 過去の記憶が蘇ってくる。頭を絞られるような痛みが襲う。


 そうだ、私はNo.114237として生きていた。両親はいないと言われ、拾ってあげた恩を忘れるなと言われ続けた。

 同時期に同じ状況の子が私に隣にいた。それがきっとあのぬくもりだった。


 暗く湿った場所で一日一食だけ与えられた。まだ買い手はいないからって大きくなるまで待つと。そして、クライアントに売られる運命なのだと。

 首輪をはめられ鎖で繋がれた。目隠しされ、部屋に閉じ込められ、精神状態がおかしくなった子も続出した。


 そんな子たちがどこかに連れて行かれたまま戻ってこなかったところを見て、いい子にしていることしか生きる道がないと悟った私は大人しくしていた。

 私には血が繋がっているという理由で助けてくれる親もいない。自分の力は無力で何もできない。生き残るには、私の命の所有者の機嫌を損ねないようにするしかなかった。


「No.114237を優先したのだよ、あの男は」


 私が九歳の頃に、クライアントが私を買い奴隷となった。そのクライアントは私を丁重に扱うように言った。『彼女の影武者になるから』と。


「く、クライアントはあの男だったの?」

「“あの男”? 君の彼氏じゃないのかい?」


 私が冷静さを失った一瞬を突いてくる男。まるで私の自爆を誘ったかのような顔だ。


 浮かぶ、したり顔。やられた。


「…君はNo.114237だな。ホンモノのクライアントがお待ちだ」

「……」


 もう何が何だか分からない。思考が追いつかないの。


「ワシの名はニヨルド。闇世界の海神さ!」


 ホンモノを甘く見てたのは私か。


 前回の計画はこうだからとか陣東がこう言ってたからとか、そんな物差しで測れるような簡単な組織じゃない。


 世界一厳しいといわれる日本の銃規制なのに、ここに銃が持ち込まれている事実。貨物船などで運んだにしても監視の目を掻いくぐるなんてどんな手を…


『闇の世界の海神さ!』


 それゆえの異名か。


ーーガシャン!


 急にガラスが割れたと思ったら、私を銃で押さえていた男が仰向けに倒れていった。飛んできた方向を見ると誰もいない。


「ワンサイドゲームの始まり始まり〜」


 部下が一人やられたのに呑気のんきに拍手をしているボス。相当な場数を踏んできたのだろう。全く動じない。


「君の騎士ナイトのお出ましかな」


 何を言ってるんだ、この人は。私を助けに来る人なんていない。


 私を狙おうとして照準がズレただけなんでしょ?期待を持たせて絶望へと突き落とす作戦か?

 笑えてきて、口元が緩んだ。


「月奈を返してもらおうか」


 …冗談はよし子ちゃんだから!!シャレにならん、この展開!!!


「顔を見せてくれないのかね? 蜘蛛糸くもいとくん?」


 何かがコンクリートとぶつかる音がした次の瞬間、もくもくと煙が発生し視界が奪われていく。

 部下たちが慌ただしく室内を警戒し始めるが、お互いの位置すら把握できず混乱が起こった。


「スモークグレネード(発煙手榴弾)か…姑息こそくな真似を。役立たずの部下どもめ」

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