姉妹の正体 3
お姉ちゃんに洗い物と瀬尾からのプレゼントを渡して出発した。電車を乗り継ぎ、駅を降りた時には街に人で溢れかえっていた。
駅から、建物から、バスから、人がどんどん出てくる。この駅はいろんな路線が入り乱れているため、街が人の海と化す。
一つの部屋に人がいて、この世にはたくさんの人が住んでいることは分かっているつもりではいるけど、実際に目の当たりにするとこの世は広いなと感心させられる。
私もその一部となり、人の波に乗る。周りのビルの宣伝や大型のビジョンが目や耳を掠めていく。
誘惑に負けず、お姉ちゃんからの任務を果たす。両肩にショップバッグが大量にかかっている。
ビルの壁やショーウィンドウ、熱したアスファルトからの紫外線が降り注ぐ。体感温度が上昇している中、早く帰るためにも足を急いでいるとさすがお姉ちゃんに似せた姿だ。妨害に遭った。
私が一人に対し、二人や三人で声をかけてくる雄。荷物を持とうか、暑いからアイスを奢ろうか、と理由をつけて関わりを持とうとしてくる。
聞こえないフリをすると暴言を吐かれた。全くもって理解できない心理状態だ。
雑魚は放っておいて、歩きながら流れる映像を目に入れる。お姉ちゃんのような綺麗な声がしたからだ。お姉ちゃんには敵わないけど、どこかの教会の鐘の音のような癒しと音の深みを感じさせる声だった。
「淡成日奈だな」
忍び寄る黒い影に気づいた時には手遅れだった。私の周りを固められていて、私はなす術もなく謎の集団の手に落ちた。
ーーー…
「うっ…」
お腹を蹴り上げられた激痛で目が覚める。
ぼんやりする視界の中、黒い服を着た塊が見え、頭には硬い物を押し当てられ、右腕や右足が冷たいコンクリートに触れている感覚がした。鼻には掃除が行き届いていないような埃っぽい臭いと鉄が錆びたような臭いがした。両手は後ろで縛られているが足は拘束されていない。
もぞもぞと動かしてみると、硬い物を押し付けている人がドスの効いた声で「動くな」と言った。
動かないように状況を確認する。物騒な武器を持ったスーツ姿の人がたくさんいることから、その人たちに拉致されたのだろうと推測できる。お姉ちゃん目当てなので、おそらく偽陣東の仲間でSuiの敵。復讐が目的だ。
ここはコンテナや大きな棚が並んでいるところからどこかの倉庫なのだろう。
本物の陣東を餌にするつもりが、私が餌になってしまうとは油断した。情けない。やってはいけない失態だ。
ただ、前回の計画通りならお姉ちゃんを殺そうとするはず。私がお姉ちゃんと思われているので、私がこのまま殺されればお姉ちゃんは狙われる危険はない。Suiとお姉ちゃんが逃げてくれれば、身を隠す時間稼ぎにはなるはず。
このままお姉ちゃんのフリを続けよう。そう思った。
「お嬢ちゃん、無理矢理連れてきてごめんねー?」
いかにもボスの雰囲気が漂うダンディーなおじさんが私に声をかける。黒革の高級そうなソファに偉そうに腰をかけ、足を組み、ニヒルに笑う。
目が笑っていないので、本心からの言葉ではないのだろう。そうだとしても、口だけ心配の言葉をかけてくれるのはいい方なのかもしれない。
「…どうして目や口、足を自由にしてくれているんですか?」
「あ、そっちの方がお好みだったかな? 気がつかなくてすまない」
「いや、違います」
「縛りたい方?」
「あ…えーっと……」
「冗談だよ。真面目だねー」
がはは、と口を開けて笑うけど、やはり目は笑っていない。会話で流されそうになるけど、緊張感を保たなければSuiやお姉ちゃんに関して口を滑らせる可能性もある。
気張らなくては。失敗は許されない。
「君にはここで死んでもらうから、そんな物は必要ないだろう? まさか、逃げられるなんて思ってないよね?」
「思ってないですね」
敵の手には拳銃らしき物が握られ、大人が数えきれないほどいる。ただでさえ、数の暴力なのに一人一人に適切な武器まで持たされちゃ逃げる気力さえ失ってしまう。
あの拳銃、どのくらいするんだろう。何発入ってて、命中率はどのくらいなんだろう。
ハンドガンだけじゃなく、ライフルまでありそう。いや…ショットガンもあるかもしれない。
あれだけあったら、お姉ちゃんとどの国まで旅行できるだろう?パリ?リオデジャネイロ?世界一周旅行も夢じゃない?
大金をかけてまで、本気ということだろうか。
分かっている。遊びじゃない。ホンモノが相手だ。




