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姉妹の正体 2

 でも、お姉ちゃんを信じるならばSuiを認めなければならなくなる。それは…まだできそうにない。お姉ちゃんには幸せになってほしいから。Suiといたって…犯罪者家族に風当たりが厳しくなるのが現実だ。



 淡成家に着き、ポストを確認する。黄色のカードが入っていることを確認したので道具置き場からビニール製の手袋をはめ、黄色い水仙すいせんの手前を掘る。

 なぜ手袋をしたかというと、水仙には水溶性のシュウ酸カルシウムという成分が含まれており、皮膚のかぶれを起こすからだ。


 では、なぜリスクをおかしてまで掘っているかというと、黄色のカードが入れられた時はここにお金を埋めたサインだからだ。お金が盗まれることがないよう水仙はトラップとして使われている。


 毎月行われる。カードが入れられる日はバラバラだ。それに、誰がお金を埋めているのかは分からない。掘り起こすことは私の仕事だった。


「ん…?」


 掘った場所は間違いないのに袋が出てこない。試しに水仙の周囲を掘ってみるも見つかることはなかった。

 考えられることは、すでに誰がが掘り起こしたことだけど。私の仕事なのに、なぜ他の誰かが掘り起こす必要がある?


「姉ちゃんが回収してたよ」


 急に声がかけられ、心臓が大きく脈打つ。反射的に振り返ると、気だるそうな顔と態度をした天宇がいた。手に持ったバッグを背中へ持っていった。


「何その顔。ホラーじゃん」

「ちょっと天宇! いきなり声かけないでよ。心臓が口から飛び出すところだったじゃん」

「それは物理的に無理」

「例えで言ってんだよ! 面倒くさいな!」

「なにキレてんの」

「キレるよ! っていうか、なんでお姉ちゃんが回収したの?!」

「詳しくは知らん。姉ちゃんに聞けば」

「はあ? そもそも天宇がお姉ちゃんを止めればよかったんじゃないの?!」

「それを言えば、月奈がどこかで油を売ってないで早く回収すれば済んだんじゃねーの?」

「……う」

「朝帰り…もう昼だけど、責任転嫁とはいいご身分だな」

「……」


 確かに天宇の言う通りだ。私がしっかりしていればお姉ちゃんを危険に晒すことはなか…そもそも、なんで私は傷を負って児童養護施設の玄関前にいたんだという話だ。

 淡成家を改めて眺めると、昨日もこの風景を見た気がする。そんな気がしてきた。そして、その後に事件は起こった。


「天宇は何か知らない? 昨日のこと」

「知らない。月奈のことなんか興味ない」

「……」


 こいつ、一言多いんだよな。ムカつく。顔を引きらせながら、私は続けた。


「お姉ちゃんの様子は?」

「だから、そういうことは姉ちゃんに聞けよ。板挟みにするな」


 もう質問は受け付けないと意味も含め、天宇は淡成家から離れていく。

 小さくなっていく背中。天宇のせいで私の中で嵐が吹き荒れている。心の草花は散り、強い風や雨が暴れ、しばらく止みそうにない。


 手にはめていたビニール製の手袋をレンガの道に叩きつけた。込めた怒りに比例しない間抜けな音に自分と重ね、その場にうずくった。根を張り、食いしばった。



 鍵を持っていなかったのでインターフォンを押すとお姉ちゃんが出てきた。特に驚いた様子もなく家に私を上げた。手は神々しいままでかぶれていなかったのが救いだ。


「お姉ちゃん…あの……」

「早くシャワー浴びたら?」

「あ…はい」


 ぴしゃりと言い放ったお姉ちゃんに圧倒され、大人しく洗面所に入る。鏡を見たら天宇の言うようにホラーで、私の想像力の乏しさを思い知った。


 かもちゃんに仕上げてもらったメイクはよれたりにじんだりしていて、スリットの入ったワンピースは汚れて魅力が半減していた。

 私に関わってしまったばかりに同じレベルに下げられた装飾たち。ワンピースはきちんと洗い、以前に近いきらめきを取り戻す努力をしよう。


 シャワーから出て、ドライヤーで大雑把に髪を乾かす。

 リビングにいるお姉ちゃんに昨晩のSuiのこととお金のことを話そうとしたが、お姉ちゃんがその前に私に差し出す。


「これ、お願いね。私の名前で予約したから」


 白いメモ紙にいくつかの店舗名とその商品名が書かれていた。お姉ちゃんの名前で予約したという発言から、これからお姉ちゃんになって商品の受け取りをしろということだろう。

 ここから三十分ぐらいの場所に大きな繁華街があり、お姉ちゃんのお気に入りのブランドもたくさん集まっている。


 新作が出ると私がお姉ちゃんとなり外出することはたまにあった。


「あんたのバッグは二階にあるから。庭にあったのをSuiが見つけたの」

「お、お姉ちゃん…そのことなんだけど「口を動かす前に体を動かしなさい」」

「…はい」


 有無を言わせず会話を打ち切ったお姉ちゃんはリビングに消えていった。お姉ちゃんの機嫌を損ねたことに申し訳なさを感じつつ、罪滅ぼしのためにも準備を始めた。


 ロングの漆黒の髪を装着しゆるく巻く、顔の傷はコンシーラーを重ね塗りで消しマットな白い肌に仕上げる。袖がリボンのトップスとラベンダーのロングスカートを身につける。露出している腕と膝下の傷も隠した。


 昨日のバッグの中から洗い物と必要な物だけ取り出し、必要な物はラベンダーの小さめの鞄に詰めた。

 瀬尾からもらったプレゼントを開封してみると、驚く物が入っていた。それはなんと、お姉ちゃんが「瀬尾に返して」と渡してきた物と同じだった。三人でお揃いにしようということだろうか。お姉ちゃんと同じなら、それも悪くないかもしれない。

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