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影武者として 16

 信号待ちをしていると、左の歩道から車椅子の人が通り過ぎていく。順調だと思われたその時、車体がぐらつく。自力で持ち直すが、タイヤが歩道の排水溝の部分に接触しているため苦戦しているみたいだ。


 車椅子でなければ、接点のない他人に声はかけないけど、困っていそうに感じたので、控えめに声をかけることにした。


「お手伝いしましょうか?」


 後ろからだと不信感あるかと思い、背を低くし相手の視界に入った。

 白髪交じりの手入れされていない、乱れた髪に無精髭、目尻やほうれい線から高齢の男性と見分けた。


 その男性は、黄ばんだ歯と銀歯を剥き出しにし左手で私の腕を掴むと、みぞおちに拳をめり込ませてきた。自分でもびっくりするくらいの重い悲鳴を上げ、苦しさで呼吸が出来なくなった。崩れ落ちた私を蹴り飛ばした高齢の男性は、難なく立ち上がり、スタスタと早足で遠ざかっていく。


 残された私と車椅子。どこか体が悪くて、車椅子に乗っていたんじゃないのか。私を油断させるためだったのだろうか。


 激痛で動けない私に、近づく足音。私が狙いなら、絶好のチャンスだった。


「月奈!」


 なぜ、先輩が私を追いかけてきたのか分からなかった。私の機嫌を直したところで、先輩にメリットは残っていないだろう。もう、用済みの私に。

 それとも、もう一度お姉ちゃんに接近するために必要だと思っているのだろうか。


「大丈夫か?! 月奈!!」


 その心配げな表情が、私に向けられたものならどんなに嬉しいことなのだろう。

 自嘲じちょうするような薄笑いを浮かべた。


 先輩が手を伸ばしてくる気配がしたので、振り払ってガードレールを掴んで自分の力で立った。


「心配して下さり感謝します。では」


 私の世界に先輩を認めたくなく、再び追い出す。そこには先輩はいないのに、新しい道は用意されていなかった。


「謝っても赦されることではないと思う! 当然だ」

「……」

「でも、あれから月奈のことがどれくらい好きだったか分かったんだ。俺は月奈のことが「やめて」」

「……」

「私、そこまでバカじゃないの。察しはいい方。……意味、分かるよね?」


 先輩は黙った。そして、先輩の奥にいた瀬尾も真顔だった。



 その後は、かもちゃんと合流し自宅に帰り、Suiとの話し合いが待っているはずだった。だけど、次に意識が戻った時には、知らない場所で知らない人が私を見下ろしていた。



ーーー…



 宇園高校の防犯カメラにて、とある女ととある男が話をしてるのが映し出される。


「どう? あの子は? 逃げ出すって?」

「それが…案外粘り強くて」

「…そう、残念ね。目の前から消えてくれればいいのに」

「そんなに嫌いですか」

「嫌い、という次元にない」

「…羨ましい」

「は?」

「俺にも、関心を向けて欲しい」

「あなたのことなんてなんとも思ってないって言ったわ。二度も言わせないで。煩わしい」

「…そうだよね。そんなこと、分かってた」

「……」

「俺の気持ちは受け取らなくて良いけど、これなら受け取ってくれる?」


 男は茶色の封筒を女に差し出す。パンパンの膨らみは、かなりの金額だ。


「…どういうつもり?」

「君のために使ってほしい。どんな使い方をしてもいい。君のためになるなら」

「要らないわ」

「受け取らないなら、強引に俺の気持ちを受け取ってもらうことになるけど?」

「脅しなんてするのね? 勉強になったわ」

「…君は、俺の永遠の女神様」

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