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影武者として 13

 そんなに全力で拒否をしなくてもいい気がする。自分の作品は、見てほしいものではないのか。天宇の部屋は入ったことがないけど、部屋に絵が飾られていたりするのだろうか。部屋での行動は、全く分からない。


 入り口へ行き、土足で観戦席へと向かう。むわっとした室内には、ピカピカのコートが待ち構えていた。窓に遮られている光だが、高揚感が光を忘れていない。

 コートを囲むように作られた観客席には、人はまばらだった。この対戦の注目度は、そんなに高くないのかもしれない。


 ベンチの反対側に四席以上空いている場所があり、席に着こうとすると、私の右側は天宇、左側はかもちゃんが並ぶ。


「ちょ…俺も月奈の隣がいいんだけど」


 瀬尾の行く場所がなくなり、弱々しい声を上げた。天宇は無視し、かもちゃんが私の左腕に巻きついて瀬尾を見上げた。


「あたしも、ツッキーの隣がいいんだもーん」


 きゅん。かもちゃん、可愛い。好き。


「私も大好き」

「ふふ。相思相愛」


 項垂うなだれた瀬尾は、かもちゃんの左側に座り、不機嫌な顔でじっと見てくる。程よく、子どもっぽいところもある瀬尾であった。


「天宇はなんで私の隣にいるわけ?」

「月奈の隣だからじゃなく、ここがコートの真ん中で見やすいからだ」

「じゃあ、私がかもちゃんと場所を交換しても?」

「勝手にすれば」



ーーー…


 コートで、試合前アップをし始める選手たち。一列に並びレイアップシュートをし続けたり、パスの出し合いをしたり、ステップをしたりしている。

 この試合は春の大会の予選らしく、対戦相手も強豪校というわけではないようだ。


「ツッキー! 見てみて〜。あの人めっちゃ背が高い!」

「え、どの人?」

「あれ、あれ。今、ゴールに飛んだ人」


 黒のユニホームに身を包んだ、高身長の短髪の男だった。綺麗な筋肉に、綺麗なフォームで人目を引き、さらに実力があれば情報誌や動画サイトで特集や人気が出そうだった。


最海さいかい高校だって〜。有名進学校じゃん」

「え…最海……?」


 最海高校のバスケットボール部の高身長の綺麗なフォームの人?


『来いよ、月奈! 天才センターの祥史しょうじ先輩が教えてやるよ』


「……」

「ツッキー? どうかした?」

「月奈」


 天宇の声にハッとする。私の右側にいる天宇は腕も足も組み、偉そうにそこにいる。天宇を放置することも考えたけど、初対面のかもちゃんの隣も気まずいだろうから席順はそのままにしたのだ。

 足元にある私の重い荷物を足で蹴ると、鬱陶しそうに言う。


「邪魔。なに入ってんの?」


 荷物を睨み付け、舌打ちする天宇。ムカついたので、舌打ち仕返した。


「いろいろだよ」


 会場が飲食できるみたいだったので、お菓子やレモンが入ったタッパー、ペットボトルを取り出す。羨ましいだろ、と言わんばかりに見せびらかした。


「なんでスポーツするわけじゃないのに、レモンのハチミツ漬けとスポーツドリンクがあるわけ?」

「いちいちうるさいなー! 別にいいでしょ?」


 ワクワクした表情を浮かべステイしているかもちゃんとちょっぴり拗ねている瀬尾に、チョコレートのお菓子やポテト系のお菓子を渡す。


「お腹空いたところだったんだー!」


 ピンクのグロスをつけていることを気にせず食べ出すかもちゃん。チラチラこちらを見ながら、頬張る瀬尾。可愛いやつらだ。


「レモンも飲み物もあるからね〜」

「「わーい」」

「……」


 それから、かもちゃんが朝食にオートミールを食べた話や瀬尾がかもちゃん家に向かう途中で散歩中の犬に懐かれた話をしていた。

 すると、天宇が「ん」と言いながら左手を出してくる。なんのマネだ。


「私はお手しねぇから」

「お手じゃねーから。バカなの?」

「バカとはなんだ! そんなやつに貴重な食べ物はやるか!」

「分かってんのかよ。わざとか。タチ悪いな」

「人にお願いする時は、どうするんだっけ?」

「いいから、寄越せよ」

「月奈様…ください。はい、リピートアフターミー」

「うるさいうるさい」


 奪われた私有財産。透明のタッパーを開けて、口に含んだ天宇どろぼう


「うぐっ」


 吐きそうになるも、口を押さえて耐えている天宇。笑いが止まらない、私。

 実はそれ、レモンのハチミツ漬けではなくレモンの塩漬けでした〜。


 ペットボトルを手渡す。キャップを開けて口に流し込もうとするが、液体が出てこない。

 実はそれ、ペットボトルにゼリー詰めただけのゼリー入れで〜す。


「「きゃはははは!!」」


 見ていたかもちゃんも一緒に笑う。天宇は大きくため息を吐いて、背中を向けた。

 やりすぎちゃったかなと思いチョコレートを一つ差し出すと乱暴に抜き取られた。


「本当は川原にやろうとしてたんだよね」

「ツッキーのいじわるぅ〜」

「川原には、積年の恨みがありますからね」

「出会って、そんなに経ってないけど」

「それも問題なのよ! あいつ、初対面の私に消しカス投げてきたから!」

「痛くないけど消しカスが頭や制服についてたらダサいやつね」


 バクバク食べ始めた天宇をよそに、コートでは選手が整列し客席にお辞儀をし出す。周りが拍手を返したので、それに混ざり拍手をした。


 その後、各高校五人ずつコートに入り、試合開始の合図が響いた。

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