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影武者として 9

 こちらの様子を伺いながら、処刑に怯える死刑囚のような陣東。隙だらけのこいつなら、簡単に成りすませるかもしれない。


「知っていることを話しなさい?」

「な…なにも…っ」

「じゃあ、どうして私を見て態度が変わったのかな?」

「ぼっ、僕は元々こういう人間なんだ!」

「そう」


 私は近くの席に座っている女の子とその机を挟んで立っている女の子に声をかける。

 陣東を気にし、戸惑っていた彼女らの掌に自分の掌を重ね、「デザートでも食べてね」とデザート相当の価値がある紙切れを渡して告げる。


「クールで取り乱すことなんてないよね」

「うん。ってか、絶対隠し事あるでしょ」

「あ、そういえば淡成さ…お姉さんの方の淡成さんを避けてるように見えたなあ」

「だから、淡成さんにこっぴどくフラれたんじゃないかって一部で噂されてるの」


 急に饒舌じょうぜつになった彼女らは、脱線しながら別の話を楽しそうにし出した。


「らしいが?」

「…気のせい、です」


 目が泳いでいる。心拍数を計ったら、高い数値を叩き出したりするのだろうか。

 私は不敵な笑みを浮かべ、陣東の頭に手を伸ばす。ストレートの陣東の髪の毛を爪で飛ばしながら続けた。


「早くぅ〜話してくれないとぉ〜」

「……」

「髪の毛一本ずつ抜いちゃうかもぉ〜?」

「……」


 恐怖で顔が歪む陣東は、観念したかのように話し出した。案の定、油断して偽物に乗っ取られた陣東は、どこかの建物に縛られて捕まっていたらしい。

 解放された時、偽物の陣東から「今回のことを一言でも喋ったらお前の臓器を売る。淡成姉妹はお前に近づくだろうから、気をつけろ」と言われたらしい。


「で?」

「それだけ、です」

「で?」

「あっ……あぅ」

「で?」

「…話していたことを聞いたんですけど」

「おん」

「『女は“アイツ”を呼び出す餌だから、どんな手を使ってでも殺せ』と」

「そんなことは分かってるんだよ!」

「ごめんなさいごめんなさい! あ、あと…『復讐を果たせ』と」

「……」


 復讐ということは、Suiがそいつらになにか危害を加えたということになる。あの男が殺し屋だというのなら、誰かを殺したのかもしれない。殺し屋は依頼があって殺しをするらしいので、Suiは仕事を遂げただけだろうけど。


 被害者が、加害者に復讐したいと思うことは珍しくない。殺された人間が大切に思われていたのなら、どんな手を使ってでもSuiを殺しにくるに違いない。今回は復讐が失敗に終わったけど、次はどうなるか分からない。


「じゃあ、臓器を売られてこい?」

「やだああぁぁ」

「あ、淡成さん」

「ん?」


 先ほどの女子が話しかけてくる。もじもじしながら、口を開く。


「お姉さんが男と…その…だ、抱き合ってたのを見た人がいるみたいなんだけど、本当?」


 瀬尾のことだろう。朝の人目がある時間や場所だったからだろうな。


「え、そうなの? 知らなかった。気になるから、お姉ちゃんに聞いてみる」

「分かったら教えてよ! 気になるし!」

「分かったぁ。任せて」


 とりあえず、時間稼ぎをした後にとぼけよう。

 瀬尾だとバラして、そういうムードにさせるのも手だけど…お姉ちゃんのあの様子からだと、効果は薄いだろうな。



ーーー…


 お姉ちゃんと一緒に下校をしていると、交通事故の目撃情報を求める看板が立てかけられていた。

 昨日まではなかったのに、今はある。看板がなければ、ここで事故が起こったことすら気づかなかった。


 懸命に生きている間に、人が亡くなっている。どんな理由があろうと、人をあやめることはいけないことだ。負の連鎖に陥る。

 だから、私はSuiをゆるせない。お姉ちゃんを、殺人犯に任せるわけにはいかない。


『Suiが殺人を犯したのはあたしのせいなの! あたしを守るために罪を背負ったの! 両親の件も…。あたしのせいでSuiは殺し屋として生きるしかなくなったの。あたしはSuiの人生を奪ったの』


 たとえ、どんな理由があろうと。


 私がSuiの立場だったら、どうしただろうか。もしかしたら、私には見えていない物があるのだろうか。


『私がそうさせてしまっただけで、本当は優しい人なのかもしれない』


 そんなことを思ったこともあるけど、水遊びと殺人では話が違う。きっと、お姉ちゃんは洗脳されているだけだ。

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